バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
ヴァイオリンとオーケストラのラプソディ第1番
ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング
指揮:ベルナルト・ハイティンク
管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1969年11月、アムステルダム
発売:1976年
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) X‐5637(6500 021)
バルトークは、ヴァイオリン協奏曲を2曲書いている。第1番は1908年に作曲されたが、長い間放置され、1959年になって出版された。一方、今回のLPレコードに収められている第2番は、1938年に作曲された曲。この2曲が作曲された間には、「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」「2台のピアノと打楽器のソナタ」などの傑作が生み出されている。このヴァイオリン協奏曲第2番を聴く際には、バルトークの米国への亡命ということを考えなければ、この曲の真の理解には繋がらないであろう。当時、ナチスがオーストリアを併合し、バルトークの祖国であるハンガリーも同じ運命を辿ることは、容易に想像できた時なのである。そんな苦悶の中で作曲されたのが、このヴァイオリン協奏曲第2番なのだ。このためか、全3楽章のいずれも、息詰まるような緊張感が覆う。決して取っ付きがいい曲とは言えないが、当時のバルトークが置かれた精神状態を考えながら、何回か繰り返し聴いて行くうちに、その内向した精神の深さと、その中から必死になって活路を見い出そうとするような、強靭な精神性に貫かれた、この曲の真髄に触れることができるのである。バルトークは、米国に亡命した後は、生きて故郷のハンガリーの土を踏むことはなかった。この曲は、そんな自分の将来を予兆でもするかのように、苛立ちと苦悩とが混ざり合った陰鬱な雰囲気に覆われている。普通なら、そのような曲は、人の心を掴むことは難しい。しかし、そこはバルトークである。現在、聴いてみると、現代人が多かれ少なかれ、誰でも持っている将来に対する漠然とした不安(戦争、地球環境破壊、原子力発電事故など)を、ものの見事に表現し切っている曲のように私には聴こえる。一方、ヴァイオリンとオーケストラのラプソディ第1番は、1928年に作曲された。バルトークには珍しい、ジプシーのヴァイオリンの即興演奏風の香りがする、民族色濃い作品だ。ジプシー音楽といっても、ヴァイオリン協奏曲第2番ほどでもないが、この作品もバルトーク独特の気難しさが漂うので、そう気楽には聴けない。ヘンリック・シェリング(1918年―1988年)のヴァイオリンは、これら2曲を実に緻密な演奏で表現し切っており、見事な出来栄えを聴かせてくれる。特に、ヴァイオリン協奏曲第2番では、確信に満ち、説得力のある、その弓使いが強く印象に残る。(LPC)