{ 右か、左か }
✿白靴がわれに逆らい右でなく左の角を曲がってしまう 松井多絵子
わたしは左利きではないが、なぜか 左 を詠んだ歌が多い。 「右」はごく僅かである。広辞林で調べると、「左」は「右」の約4倍のスペースに及ぶ。
✿ 右 ♠右に出る者がない、(優れた人をいう)
♠右腕 (もっとも頼りになる部下)
✿ 左 ♠左団扇 (のんびり安楽な生活をする)
♠左前 (運が悪くなること。家計が苦しくなること)
♠左巻 (頭の働きが狂っているひと)
♠左ゆがみ (夫が妻より劣っていること)
「左」はまだまだある。「右」にくらべて「左」は明らかにマイナスのイメージである。
『ひだりききの機械』という歌集を4月に刊行した吉岡太朗は「左」を好んで詠んでいるように思える。2007年短歌研究新人賞を受賞した彼は1986年生まれ。奔放に歌う。
♠ 鋏とは烙印こっちが左手と教えるために残すきずあと
♠ 左手がどうであろうと鯖寿司を食べているなら食事中です
♠ 軽々と片手でマグロをふるう敵 左手で陳列をなおしながら
♠ 左手でふれているのか左手にふれているのか手を合わせつつ
♠ 両手とも左手なのでひだりがわにたたないとあなたと手がつなげない
彼の歌集から 「左」の歌を5首とりあげてみた。これが 「右」だったらつまらない。「左」だから不思議な歌になったのだろう。作者の吉岡太朗君に会ってみたい。
歩かねば歩けなくなるかもしれぬ左の脚もきげんが悪い
7月8日 松井多絵子