{ 囁くという文字 }
♥ われのみのベンチにすわる昼さがり名の知れぬ鳥の青き囁き 松井多絵子
「囁く」は不思議な文字である。「愛」の言葉ならバラ色に見える。「噂」なら灰色になる。耳もとに口を寄せ、声をひそめて話す。「アナタだけに知らせてあげる」という内緒のお話は怖い。
☁ 死ぬばかり我が酔ふをまちていろいろのかなしきことを囁きし人 石川啄木
泥酔するほど啄木を飲ませ、「かなしきこと」 を囁く男、啄木に好意的な人ではないだろう。啄木が聞きたくないことをあえて聞かせる、そんな男と飲んだ酒は彼を悪酔いさせたのだ。
今日、7月14日の朝日歌壇には 「集団的自衛権」をめぐる阿部内閣への不信の歌が多い。
高野公彦選者は第1席から4席まで、他の選者も阿部政権への批判の歌が採られ、昨日朝日での永田和宏選者の「ふつうの人がこんなに」 発信していることが伝わってくる。
☁ 政治家の密議のやうだ三人が一人に寄り添ふ囁くの文字 (飯能市) 佐久間敬喜
この歌は正面から 「集団的自衛権」を批判しているわけではない。「政治家」の密議のいやらしさを、詠んでいる。「囁」くという文字は 1つの口と3つの耳からできている。政治家の密議の様子を凝縮したような文字。この一首をあの世の啄木も注目しているであろう。
※ 高野公彦 「評」 に四首目、一人は阿部首相で、あとの三人は、、、とも読めそうな作。とありました。あとの三人は誰ですか、佐久間敬喜さん。 7月14日 松井多絵子