「そういえば、お父さんが失踪して何年になりますか?」
妻がそう答えた。
「ああ。もう数年になる。」
私はコーヒーを飲みながらそう答えた。
私は熊本市で、歯科医を営む人間である。
素人、郷土史家という側面を持っている人間であるが、
歯科医の仕事もおろそかにしたことはない。
私の父も歯科医であったが、時代小説のファンとして
知られる人間であった。
特に、純文学作家から転向した、江平茗子なる作家の
「菊の名前」
は、父の好むところであった。
南北朝時代の寺で起こる事件を
建長寺の禅僧が解決する事件であった。
このなかで、主人公の禅僧が過去道々の物という
漂泊者の女と恋をしたという話しになっていた。
道々の者といえば、阿蘇山麓だったか、国東半島に
そういう道々の者と思われる芸能が伝わっている。
素人郷土史家として、阿蘇山麓に入ったことがある。
出自不明のなぞの芸能として
当時は漠然と見たことがあるのだが。
つづく
妻がそう答えた。
「ああ。もう数年になる。」
私はコーヒーを飲みながらそう答えた。
私は熊本市で、歯科医を営む人間である。
素人、郷土史家という側面を持っている人間であるが、
歯科医の仕事もおろそかにしたことはない。
私の父も歯科医であったが、時代小説のファンとして
知られる人間であった。
特に、純文学作家から転向した、江平茗子なる作家の
「菊の名前」
は、父の好むところであった。
南北朝時代の寺で起こる事件を
建長寺の禅僧が解決する事件であった。
このなかで、主人公の禅僧が過去道々の物という
漂泊者の女と恋をしたという話しになっていた。
道々の者といえば、阿蘇山麓だったか、国東半島に
そういう道々の者と思われる芸能が伝わっている。
素人郷土史家として、阿蘇山麓に入ったことがある。
出自不明のなぞの芸能として
当時は漠然と見たことがあるのだが。
つづく