「あの子の母親は、いつも柾樹に厳しかった。四六時中叱ってばかりで、
怖くて厳しいという印象を持っていたようだよ。」
大女将が亡くなり、松本佳奈は上司である女将に、朝倉夏美を伴わず、一人で
徳之島の葬儀の場所に訪れた加賀美柾樹という男の母親について聞いてみた。
「私と比べて彼女のほうが、大女将に受けが良くてね、彼女が私と大女将の間に立って
色々と波風を立たせないように頑張っていた。 " 長男の嫁 " という立場が良かったのだろう。」
女将は一瞬考えて、
「長男の方、柾樹の父親が、大阪に出て行くという事を止められなかったと言いましたよね。
それ以来、何かがおかしくなっていったとか私は先日聞かされました。」
松本佳奈はまた聞いてみた。
「ああ。急に大阪に行くとか言って消えていった。何度も彼は大阪にも鹿児島の市内にも
遊びには行くものの、浮いた話題は聞いたことがない。」
女将は答えた。
「はぁ。柾樹さんも、母親には厳しくされて辛くなかったのですか。
いつも、怒る材料を見つけられて、」
佳奈は些か苦笑するしかない。
「彼女は、柾樹に厳しくする理由としては、自分が憎まれ役になることになって
柾樹を加賀美屋から解き放って置きたかったのだろう。自由になって
多分關東に行くことを是認していたのだろう。」
女将は佳奈の方向を見た。
「確か、あの柾樹のおふくろさんとか言う人が亡くなったのはまだ柾樹が小学生だった
時だと思う。」
女将は佳奈を睨みながら
「そうだ。あのおやじさんが大阪に消えた時、半年後に亡くなった。
彼女が亡くなってから、大女将は孫である柾樹を加賀美屋に縛り付けたかったのだろう
母親である、彼女が厳しく加賀美屋から遠ざけたかったのに。」
という。
「そうかもしれません。あの婚約パーティー以後、柾樹は夏美さんと横浜で幸せな
結婚をしたかもしれない。」
佳奈は言う。
「あ、ひょっとしてあんたが言っていた、横浜の綺麗なホテルで結婚式を上げた
かもしれないね。柾樹も優柔不断な子だったから、大女将の言葉を断りきれなかった
あの葬式の時、柾樹のひとりきりの目は、やっと加賀美屋から解き放たれた目だった。
しかし、傍に夏美さんがいなかったのがなおのこと悲しかったよ・・。」
と女将が言う。
「もし実現した柾樹さんと夏美さんの結婚が実現したら、私をおいて
横浜に赴いたんですか。やっぱり残酷だ。」
佳奈は困ったような顔をした。
「もちろんだ。あんたには關東に逃げてもらっちゃ困るから。」
女将はそう笑いながら答えた。
佳奈の心の中は致し方ないと考えつつ、關東で仕事の見つからない
私の居場所は加賀美屋と徳之島なのかと思うしかなかった。
怖くて厳しいという印象を持っていたようだよ。」
大女将が亡くなり、松本佳奈は上司である女将に、朝倉夏美を伴わず、一人で
徳之島の葬儀の場所に訪れた加賀美柾樹という男の母親について聞いてみた。
「私と比べて彼女のほうが、大女将に受けが良くてね、彼女が私と大女将の間に立って
色々と波風を立たせないように頑張っていた。 " 長男の嫁 " という立場が良かったのだろう。」
女将は一瞬考えて、
「長男の方、柾樹の父親が、大阪に出て行くという事を止められなかったと言いましたよね。
それ以来、何かがおかしくなっていったとか私は先日聞かされました。」
松本佳奈はまた聞いてみた。
「ああ。急に大阪に行くとか言って消えていった。何度も彼は大阪にも鹿児島の市内にも
遊びには行くものの、浮いた話題は聞いたことがない。」
女将は答えた。
「はぁ。柾樹さんも、母親には厳しくされて辛くなかったのですか。
いつも、怒る材料を見つけられて、」
佳奈は些か苦笑するしかない。
「彼女は、柾樹に厳しくする理由としては、自分が憎まれ役になることになって
柾樹を加賀美屋から解き放って置きたかったのだろう。自由になって
多分關東に行くことを是認していたのだろう。」
女将は佳奈の方向を見た。
「確か、あの柾樹のおふくろさんとか言う人が亡くなったのはまだ柾樹が小学生だった
時だと思う。」
女将は佳奈を睨みながら
「そうだ。あのおやじさんが大阪に消えた時、半年後に亡くなった。
彼女が亡くなってから、大女将は孫である柾樹を加賀美屋に縛り付けたかったのだろう
母親である、彼女が厳しく加賀美屋から遠ざけたかったのに。」
という。
「そうかもしれません。あの婚約パーティー以後、柾樹は夏美さんと横浜で幸せな
結婚をしたかもしれない。」
佳奈は言う。
「あ、ひょっとしてあんたが言っていた、横浜の綺麗なホテルで結婚式を上げた
かもしれないね。柾樹も優柔不断な子だったから、大女将の言葉を断りきれなかった
あの葬式の時、柾樹のひとりきりの目は、やっと加賀美屋から解き放たれた目だった。
しかし、傍に夏美さんがいなかったのがなおのこと悲しかったよ・・。」
と女将が言う。
「もし実現した柾樹さんと夏美さんの結婚が実現したら、私をおいて
横浜に赴いたんですか。やっぱり残酷だ。」
佳奈は困ったような顔をした。
「もちろんだ。あんたには關東に逃げてもらっちゃ困るから。」
女将はそう笑いながら答えた。
佳奈の心の中は致し方ないと考えつつ、關東で仕事の見つからない
私の居場所は加賀美屋と徳之島なのかと思うしかなかった。