「少し寒いな。」
水に潜った佳奈は、そう言った。それほど水泳は得意ではない。
故郷の加計呂麻島で、泳いではいた物の、ほとんどが我流である。
逆に彰はそれほど水泳は得意ではない物の、Sports はそつなくこなすので
スムーズな泳ぎ方だ。
「あはははー、佳奈ちゃんでたらめ。」
彰は笑っていたが、水の中だからから解らない。
犬かき高なんだか解らない佳奈の泳ぎ方とハイレグ競泳水着は不似合いだ。
「きついんじゃないの。」
浜辺にアガった水着を直している、佳奈を見て彰は答えた。
「どうだか。」
佳奈は、ばつが悪そうに彰の問いを解らないふりをした。
「この前の夏、おまえさんと一緒に加計呂麻島に帰省した時、競泳水着かっこよく思えたから
着てみたんだかな・・。」
佳奈は、かっこつけてそう言う言葉を言ってみた。
「そうかな。佳奈ちゃんはそのグラマラスな肢体を見せつけた方が、いいと思うけれども。」
彰は真顔で答えた。
「Bikini か・・。」
佳奈は彰が着ている水着を見て思った。
「私もハイレグ競泳水着は好きなんだけれども、おしゃれな水着を着たいなと思って。」
と濃紺のビキニ姿を佳奈に見せた。
「私には解らんな。」
佳奈は彰に聞こえない声で言った。
帰り道、彰が運転することになった。
「おまえさんの運転は安全でイイ。」
マニュアル車のGearを眺めながら、佳奈はそうつぶやいた。
「ありがとう・・・。これが男性だったらうれしいんだけれどもね。」
そう、彰は苦笑した。
車は、京急田浦駅の方向に向かっている。辺りはすっかり暗くなって、
所々に燈が点っている。
「もう、遅くなっちまったな。」
助手席から、窓の外を眺める佳奈。
「めいっぱい遊んだんだから当然だろ。」
彰がハンドルを握りつつギアを変えた。
「あ、ああ・・。」
佳奈は、田浦駅前の信号が赤になっているのを確認した。
「京急田浦駅をまっすぐ行くと、確か泥龜駅に行くんだっけ。」
彰が聞いた。
「そうだな。」
佳奈の顏には、家に近くなることを確信する表情があった。
泥龜駅が近くなった。
「この市役所通りを超えたら、佳奈ちゃんが住んでいるアパートだっけ。」
彰がそう確認した。
「そうだな。横浜や東京に行くときは釜利谷驛を利用しているな。」
佳奈はそう回答した。
「私は、笹下釜利谷道路を使って先輩の住んでいる久良岐驛付近まで車を返しに行くから。」
彰はそう言った。
「ここらへんの地理に詳しくなったじゃねえか。」
佳奈はひっひっひという笑い声を出した。
「毎回ここら辺に足を運んでいるから覺えるよ。」
彰は率直に回答した。
車を走らせて数分後、釜利谷驛近くの佳奈が住んでいるアパート近くに付いた。
「少し不安定だけれども、此處に止めるね。」
彰は、車を止めた。
佳奈の住んでいるアパートは、もともと敗戦直後、ここら辺の素封家が建てた邸宅を
改造したので、そこを間仕切りをして何世帯かが住めるようになっている。
そのなかの左端のドアを佳奈は開けた。
「じゃあな。」
佳奈の問いに彰は黙って項をしゃくった。
彰だけを乗せたスバル・インプレッサはそのまま先輩が住んでいる街に向かっていった。
「まだ、誰も帰ってねぇのか。」
真っ暗の部屋に電気をつけた。
同居人の横手淡雪と高槻久留美はいつも一緒に行動しているからだ。
洗い場に行って、皿を見た。
皿は、きれいに成っていた。
料理好きの淡雪の性癖で皿などは必ず洗うように厳命されているから。
佳奈は冷蔵庫を開けて、何か飲むものがあるか物色した。
麥酒にしようかな・・・。それとも・・。
でも、2人は疲れているから、この前覺えた料理をつくって、疲れた同居人に見せてやろう。
と佳奈は考えた・・・。
「ふぅ・・・。」
その跡料理をしながら、何を考えたか解らない。
数年後。
佳奈は徳之島の老舗旅館で働いていた。
何故、此處にいるかは跡で話すとして、お膳を部屋に運んでいた。
「私はここに来るのを拒んだけれども、何故か数年ゐる・・・。」
あまり此處にいることをいやだと思いながら、此處の生活にも慣れた・・・。
そんな複雑な気持ちがある。
「佳奈。」
男性の声が聞こえた。
「はあ。新一さん。」
佳奈はその男性を見た。
「また、關東にいるときのことを思っていたのか。このまえ此處の海は關東の葉山の海より
好きじゃないと言ったけれどもどうしてだい。」
新一と名乗る男性は残念そうな顏をした。
「たしかに、徳之島の海の方がきれいかもしれません。でも、關東の海には楽しかった
思い出があるから思い出の中できれいに思えるのでしょう。」
と佳奈はきっぱりイイはなった。
「そのことはお袋の前では言うな。また機嫌を悪くするぞ。」
新一はそう言った。
他の旅館の従業員は
「相変わらず新一さんと佳奈ちゃんは夫婦みたいというか・・。」
と影でくすくす笑っていた。
つづく
水に潜った佳奈は、そう言った。それほど水泳は得意ではない。
故郷の加計呂麻島で、泳いではいた物の、ほとんどが我流である。
逆に彰はそれほど水泳は得意ではない物の、Sports はそつなくこなすので
スムーズな泳ぎ方だ。
「あはははー、佳奈ちゃんでたらめ。」
彰は笑っていたが、水の中だからから解らない。
犬かき高なんだか解らない佳奈の泳ぎ方とハイレグ競泳水着は不似合いだ。
「きついんじゃないの。」
浜辺にアガった水着を直している、佳奈を見て彰は答えた。
「どうだか。」
佳奈は、ばつが悪そうに彰の問いを解らないふりをした。
「この前の夏、おまえさんと一緒に加計呂麻島に帰省した時、競泳水着かっこよく思えたから
着てみたんだかな・・。」
佳奈は、かっこつけてそう言う言葉を言ってみた。
「そうかな。佳奈ちゃんはそのグラマラスな肢体を見せつけた方が、いいと思うけれども。」
彰は真顔で答えた。
「Bikini か・・。」
佳奈は彰が着ている水着を見て思った。
「私もハイレグ競泳水着は好きなんだけれども、おしゃれな水着を着たいなと思って。」
と濃紺のビキニ姿を佳奈に見せた。
「私には解らんな。」
佳奈は彰に聞こえない声で言った。
帰り道、彰が運転することになった。
「おまえさんの運転は安全でイイ。」
マニュアル車のGearを眺めながら、佳奈はそうつぶやいた。
「ありがとう・・・。これが男性だったらうれしいんだけれどもね。」
そう、彰は苦笑した。
車は、京急田浦駅の方向に向かっている。辺りはすっかり暗くなって、
所々に燈が点っている。
「もう、遅くなっちまったな。」
助手席から、窓の外を眺める佳奈。
「めいっぱい遊んだんだから当然だろ。」
彰がハンドルを握りつつギアを変えた。
「あ、ああ・・。」
佳奈は、田浦駅前の信号が赤になっているのを確認した。
「京急田浦駅をまっすぐ行くと、確か泥龜駅に行くんだっけ。」
彰が聞いた。
「そうだな。」
佳奈の顏には、家に近くなることを確信する表情があった。
泥龜駅が近くなった。
「この市役所通りを超えたら、佳奈ちゃんが住んでいるアパートだっけ。」
彰がそう確認した。
「そうだな。横浜や東京に行くときは釜利谷驛を利用しているな。」
佳奈はそう回答した。
「私は、笹下釜利谷道路を使って先輩の住んでいる久良岐驛付近まで車を返しに行くから。」
彰はそう言った。
「ここらへんの地理に詳しくなったじゃねえか。」
佳奈はひっひっひという笑い声を出した。
「毎回ここら辺に足を運んでいるから覺えるよ。」
彰は率直に回答した。
車を走らせて数分後、釜利谷驛近くの佳奈が住んでいるアパート近くに付いた。
「少し不安定だけれども、此處に止めるね。」
彰は、車を止めた。
佳奈の住んでいるアパートは、もともと敗戦直後、ここら辺の素封家が建てた邸宅を
改造したので、そこを間仕切りをして何世帯かが住めるようになっている。
そのなかの左端のドアを佳奈は開けた。
「じゃあな。」
佳奈の問いに彰は黙って項をしゃくった。
彰だけを乗せたスバル・インプレッサはそのまま先輩が住んでいる街に向かっていった。
「まだ、誰も帰ってねぇのか。」
真っ暗の部屋に電気をつけた。
同居人の横手淡雪と高槻久留美はいつも一緒に行動しているからだ。
洗い場に行って、皿を見た。
皿は、きれいに成っていた。
料理好きの淡雪の性癖で皿などは必ず洗うように厳命されているから。
佳奈は冷蔵庫を開けて、何か飲むものがあるか物色した。
麥酒にしようかな・・・。それとも・・。
でも、2人は疲れているから、この前覺えた料理をつくって、疲れた同居人に見せてやろう。
と佳奈は考えた・・・。
「ふぅ・・・。」
その跡料理をしながら、何を考えたか解らない。
数年後。
佳奈は徳之島の老舗旅館で働いていた。
何故、此處にいるかは跡で話すとして、お膳を部屋に運んでいた。
「私はここに来るのを拒んだけれども、何故か数年ゐる・・・。」
あまり此處にいることをいやだと思いながら、此處の生活にも慣れた・・・。
そんな複雑な気持ちがある。
「佳奈。」
男性の声が聞こえた。
「はあ。新一さん。」
佳奈はその男性を見た。
「また、關東にいるときのことを思っていたのか。このまえ此處の海は關東の葉山の海より
好きじゃないと言ったけれどもどうしてだい。」
新一と名乗る男性は残念そうな顏をした。
「たしかに、徳之島の海の方がきれいかもしれません。でも、關東の海には楽しかった
思い出があるから思い出の中できれいに思えるのでしょう。」
と佳奈はきっぱりイイはなった。
「そのことはお袋の前では言うな。また機嫌を悪くするぞ。」
新一はそう言った。
他の旅館の従業員は
「相変わらず新一さんと佳奈ちゃんは夫婦みたいというか・・。」
と影でくすくす笑っていた。
つづく