「竟に届いたか。」
高槻久留実は、予約していた本を恭しげに受け取った。
歩いて 15 分~20 分ぐらいある市立図書館からだ。
2 冊有るらしく、一つはラブストーリーで、もう一つは推理小説だった。
どちらか一方を楽しむファンはいる物の、こんな様々な本を読む人も居ない。
「『大岡山から愛を込めて』は中学校一年の頃のベストセラーで、これが読めるなんて
すばらしい。『蒲田・羽田殺意の考想』この映画昔結構な時間かけて実家の方から
金沢の映画館に見に行った。友達からビデオで見ればいいとか言われたけれどもね。」
と懐かしそうにソレを見ていた。
ルームメイトの松本佳奈としては實に頭が痛くなりそうな作品だった。
「難しそうだな。」
と一言
同じくルームメイトの横手淡雪は苦笑しながら愛読しているハーブティーの本を小脇に抱えている
「そんなにいろいろ読んでいるならば、上智とか東洋英和とか受ければ佳かったじゃない。」
といって、『九郎右衛門』と書かれた自販機用のペットボトルを流しに持って行く。
これにわかしたハーブティーを入れるためである。
「さーて読むぞー。ところで佳奈ちゃん明日居酒屋善助でのバイト初日だよね。」
久留実は余裕の表情で佳奈に聞く。
「そうだな。確か淡雪も関内でバイトだよね。」
佳奈は淡雪に聞く。黙って頷く淡雪。
「じゃあ、私一人で 2 冊とも読破するぞ。」
久留実はもう読む氣まんまんである。
「それにしても、本を読む速度が速いな。このまえ読んでいた江戸期の一揆、
百姓太兵衛の記録とか言う本を読んじゃったみたいだけれども。」
佳奈に対して久留実はこう答えた。
「そうだね。私自身速読でいろいろ楽しんだ方がいいからね。あまり待たせると他の人が
読む時間が遅くなるだけだからね。」
それに対しても久留実は小説か何かを書くために資料を集めたり物語のイメージを
固めるためにいろいろな小説や本を呼んでいるのかな。
佳奈はそんなことを考えていた。
翌日、佳奈も淡雪もバイトなどで部屋を開けている。久留実は文庫本のページを
開きながら、ふと考えていた。
「佳奈ちゃんは、いつもバイトと講義に明け暮れているが、何か意地になっている感じだ。
加計呂麻島と大阪から逃れたいとかいつも口癖見たく言っている。」
もっとも、これに類似した感情は上野駅周辺を嫌い
下北沢と吉祥寺を愛する横手淡雪も同じだが。
不思議なのは奄美の人がやたら集まる関西、東北の人がやたら集まる上野駅周辺地方
という事である。石川県出身の久留実からすればフラットにどこでもいいはずなのだが。
人間の心はなにかよりどころが必要なのだろう。
今私が住んでいる神奈川県の街では、比較的石川県出身者が多いと言われている。
そんなことを考えつつ、文章を読んでいる。
「そういえばさあ、蒲田も大岡山も空港のある羽田に近いね。」
松本佳奈が素っ頓狂なことを言う。
ある日の夕食である。
久留実も淡雪も苦笑した。
「たしかに小松空港に行くのに羽田を使うね。」
「同感。私も新幹線より飛行機を場合によって使うね。」
と、佳奈に向かって言うだけだった。
きょうの料理は佳奈が作った。和食のうまい久留実や洋食が多い淡雪のようには
うまくいかなかったけれども。
「ところで、質問だけれども今度私のクラスメートをこの部屋に呼んでくる。」
横手淡雪が部屋を見回しながら答えた。
ココの部屋古いアパートをリノベーションして使っているので Living がやたら廣い。
「ええっ。」
佳奈と久留実は顏を見合わせた。
「ねぇ。佳奈ちゃん、關東に来てから直ぐ、關東はシーサーと桜島がいっぱいだとか
いっていたじゃないの。そのシーサーと桜島の場所出身の人も私のクラスにいる。
偶然なのかもしれないけれども、私のクラスは東北出身者は私一人で
他に、高知の子が一人、愛媛県の子が一人、京都の子が一人という感じなんだよね。
下町よりも西日本や沖縄に寛容な土地だからかな。」
淡雪はアウェーを楽しんでいるように感じる。
佳奈と久留実、ふたりは顔を見合わせた。
「私のクラスは女の子は珍しい経済学部だから、會津の子が二人、沼津が一人
そして広島の子だな。」
淡雪は一瞬考えた。
「會津の子か。なるほど心中複雑だ。」
と口を開く。少し笑っている。歴女でもある久留実はある程度心を察している。
「結構二人とも仲良しなんだな。」
佳奈は答えた。
彼女に声をかけてくれた札幌出身の子は居る物の、ルームメイト程友達はいないのだ。
このルームメイトたちが連れてくる人々が互いに影響を与えていくことを
3 人は知らなかった。
ソレはさておき、
「このワインはうまい」
佳奈は淡雪が実家から持ってきた wineglass をみて眺めた。
「これは安いオーストラリアのワインだったよ。佳奈ちゃんは、關東に来たんだから
その關東の変化を楽しんだらいいのに。」
と淡雪がいう。
「変化と言えば日本酒をワインの代わりに飲んでみることを勧めた方がという
話題を会津出身の子一人が切り出していた。マーチャンダイジング的に
こうやった方が日本酒が売れるとか言っていたな。」
と久留実が wineglass を眺めた。
「ふーん。」
佳奈にはそういう難しい話はわからない。酒と言えば黒糖焼酎しか飲んだことがないからだ。
芋焼酎も泡盛もあまり飲んだことがない。ましてや日本酒だ。
「私の高知県出身のクラスメートは新歓コンパで日本酒ばかり頼んで、困らせたらしいよ。
まあ、私も秋田出身日本酒は、身近だから彼女の事は察してやるところがある。
やはり、關東の状況しか分からないひとは分からないのだろうか。」
と、淡雪は wineglass を傾ける。
「私も石川出身だから、日本酒は身近なんだね。まあ、私の地元の日本酒を勧めてみるか。」
久留実はにやりとした。
「私はまだ日本酒は體が受け付けないよ。」
佳奈は難しい顏をしていた。
おわり
高槻久留実は、予約していた本を恭しげに受け取った。
歩いて 15 分~20 分ぐらいある市立図書館からだ。
2 冊有るらしく、一つはラブストーリーで、もう一つは推理小説だった。
どちらか一方を楽しむファンはいる物の、こんな様々な本を読む人も居ない。
「『大岡山から愛を込めて』は中学校一年の頃のベストセラーで、これが読めるなんて
すばらしい。『蒲田・羽田殺意の考想』この映画昔結構な時間かけて実家の方から
金沢の映画館に見に行った。友達からビデオで見ればいいとか言われたけれどもね。」
と懐かしそうにソレを見ていた。
ルームメイトの松本佳奈としては實に頭が痛くなりそうな作品だった。
「難しそうだな。」
と一言
同じくルームメイトの横手淡雪は苦笑しながら愛読しているハーブティーの本を小脇に抱えている
「そんなにいろいろ読んでいるならば、上智とか東洋英和とか受ければ佳かったじゃない。」
といって、『九郎右衛門』と書かれた自販機用のペットボトルを流しに持って行く。
これにわかしたハーブティーを入れるためである。
「さーて読むぞー。ところで佳奈ちゃん明日居酒屋善助でのバイト初日だよね。」
久留実は余裕の表情で佳奈に聞く。
「そうだな。確か淡雪も関内でバイトだよね。」
佳奈は淡雪に聞く。黙って頷く淡雪。
「じゃあ、私一人で 2 冊とも読破するぞ。」
久留実はもう読む氣まんまんである。
「それにしても、本を読む速度が速いな。このまえ読んでいた江戸期の一揆、
百姓太兵衛の記録とか言う本を読んじゃったみたいだけれども。」
佳奈に対して久留実はこう答えた。
「そうだね。私自身速読でいろいろ楽しんだ方がいいからね。あまり待たせると他の人が
読む時間が遅くなるだけだからね。」
それに対しても久留実は小説か何かを書くために資料を集めたり物語のイメージを
固めるためにいろいろな小説や本を呼んでいるのかな。
佳奈はそんなことを考えていた。
翌日、佳奈も淡雪もバイトなどで部屋を開けている。久留実は文庫本のページを
開きながら、ふと考えていた。
「佳奈ちゃんは、いつもバイトと講義に明け暮れているが、何か意地になっている感じだ。
加計呂麻島と大阪から逃れたいとかいつも口癖見たく言っている。」
もっとも、これに類似した感情は上野駅周辺を嫌い
下北沢と吉祥寺を愛する横手淡雪も同じだが。
不思議なのは奄美の人がやたら集まる関西、東北の人がやたら集まる上野駅周辺地方
という事である。石川県出身の久留実からすればフラットにどこでもいいはずなのだが。
人間の心はなにかよりどころが必要なのだろう。
今私が住んでいる神奈川県の街では、比較的石川県出身者が多いと言われている。
そんなことを考えつつ、文章を読んでいる。
「そういえばさあ、蒲田も大岡山も空港のある羽田に近いね。」
松本佳奈が素っ頓狂なことを言う。
ある日の夕食である。
久留実も淡雪も苦笑した。
「たしかに小松空港に行くのに羽田を使うね。」
「同感。私も新幹線より飛行機を場合によって使うね。」
と、佳奈に向かって言うだけだった。
きょうの料理は佳奈が作った。和食のうまい久留実や洋食が多い淡雪のようには
うまくいかなかったけれども。
「ところで、質問だけれども今度私のクラスメートをこの部屋に呼んでくる。」
横手淡雪が部屋を見回しながら答えた。
ココの部屋古いアパートをリノベーションして使っているので Living がやたら廣い。
「ええっ。」
佳奈と久留実は顏を見合わせた。
「ねぇ。佳奈ちゃん、關東に来てから直ぐ、關東はシーサーと桜島がいっぱいだとか
いっていたじゃないの。そのシーサーと桜島の場所出身の人も私のクラスにいる。
偶然なのかもしれないけれども、私のクラスは東北出身者は私一人で
他に、高知の子が一人、愛媛県の子が一人、京都の子が一人という感じなんだよね。
下町よりも西日本や沖縄に寛容な土地だからかな。」
淡雪はアウェーを楽しんでいるように感じる。
佳奈と久留実、ふたりは顔を見合わせた。
「私のクラスは女の子は珍しい経済学部だから、會津の子が二人、沼津が一人
そして広島の子だな。」
淡雪は一瞬考えた。
「會津の子か。なるほど心中複雑だ。」
と口を開く。少し笑っている。歴女でもある久留実はある程度心を察している。
「結構二人とも仲良しなんだな。」
佳奈は答えた。
彼女に声をかけてくれた札幌出身の子は居る物の、ルームメイト程友達はいないのだ。
このルームメイトたちが連れてくる人々が互いに影響を与えていくことを
3 人は知らなかった。
ソレはさておき、
「このワインはうまい」
佳奈は淡雪が実家から持ってきた wineglass をみて眺めた。
「これは安いオーストラリアのワインだったよ。佳奈ちゃんは、關東に来たんだから
その關東の変化を楽しんだらいいのに。」
と淡雪がいう。
「変化と言えば日本酒をワインの代わりに飲んでみることを勧めた方がという
話題を会津出身の子一人が切り出していた。マーチャンダイジング的に
こうやった方が日本酒が売れるとか言っていたな。」
と久留実が wineglass を眺めた。
「ふーん。」
佳奈にはそういう難しい話はわからない。酒と言えば黒糖焼酎しか飲んだことがないからだ。
芋焼酎も泡盛もあまり飲んだことがない。ましてや日本酒だ。
「私の高知県出身のクラスメートは新歓コンパで日本酒ばかり頼んで、困らせたらしいよ。
まあ、私も秋田出身日本酒は、身近だから彼女の事は察してやるところがある。
やはり、關東の状況しか分からないひとは分からないのだろうか。」
と、淡雪は wineglass を傾ける。
「私も石川出身だから、日本酒は身近なんだね。まあ、私の地元の日本酒を勧めてみるか。」
久留実はにやりとした。
「私はまだ日本酒は體が受け付けないよ。」
佳奈は難しい顏をしていた。
おわり