走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

転げ落ちる

2015年10月18日 | 仕事
このブログを始めた当初に登場した彼。感染に次ぐ感染で2度の手術をして、膝を支えるものを全て失った。感染がなければ人工関節を入れる手術が待っている。特別な専門医で特別な手術室で行われる。BC州に一箇所しかないので待ち時間はとても長い。1年待ちだ。来年一月に手術の可能性を聞き、お互い喜んでいた。

今年2月に退院した彼を定期的に診てきた。長い病院治療でヘロインからおさらばした。補助具を使っても、松葉杖を使っても、膝の痛みは続き、麻薬系の痛み止めを処方してきた。しかし急性期ではないので、その必要性は低く徐々に減量していった。順調だった。抜き打ちの薬物尿検査も、ほぼクリーンだった(完全ではなかった。2度ほどコカインが検出されたが、彼は白をつき通した)。

減量に不安を覚える彼。彼のヘロイン使用歴は長いので、完全に麻薬からフリーになる不安の気持ちは理解できる。薬物依存のカウンセリングを紹介した。メサドン メインテナンス治療も勧めた。彼は乗り気でなかった。45mgを1日2回から40mgを1日2回に減らした時に、彼は親友を失った。それも目の前で。立て続きもう2人。後者はOD(薬物を致死量以上に摂取した)で彼は居合わせていなかったが。

グリーフカウンセリングにも興味を示さず、不眠を訴えるようになる。そしてあっという間にヘロインを毎日使用するようになったのだ。

悲しいかな、ストレス因子が多い時に、それを乗り越えられるスキルを持っていないと、簡単に転げ落ちるのが薬物依存症だ。サポートネットワークの薄さも影響する。

薬物使用があれば手術がキャンセルになるのは必須だ。彼もそれを理解している。頭ではわかっていても止められない。私のチームはここ数週間彼にずいぶん力を入れた。

そして彼は90日間の治療施設へ行くことが決まった。もちろん彼の意思で。強制的な治療施設ではない。薬物使用を継続したければ、それは可能だ。もちろんバレれば追い出されるが。しかしスキルはしっかり教えてもらえる環境だ。本人さえやる気があれば。

成功して戻ってきてほしい。



朝日で美しいホテルバンクバー。週末の学会楽しみます。

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