走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

恐ろしい思い込み

2016年06月04日 | 仕事
60代の夫婦。4年もホームレス暮らしだ。シェルターを転々としている。障害者手当をもらっている妻。収入のない夫。シェルターのスタッフは妻が経済的虐待を受けていると通報し、ソーシャルワーカーが関わっている。

虐待の内容は夫が妻の収入を使い込み。それがホームレスの理由だと言う。妻の手当てが支払われると夫は数日のうちに全額使い果たす。先月はポンコツ車を買ってそれに住もうとするが免許がないので車を動かせず、買った車はそのまま駐車場に置きっぱなしとか。

妻はぱっと見、頭の回線が少し足りてないような感じを受ける。交通事故の後遺症だ。夫は機嫌の悪いおじさんという感じ。

ソーシャルワーカーは言う、認知症のテストをしたら妻のスコアは良く意思決定もできる。しかし4年もこういう状態が続くのは不自然。絶対夫の虐待のせいだと言う。妻の意思決定ができない事を立証して、夫が妻に銀行口座にアクセスできないようにして、警察に通報して裁判所から夫が妻に近づけないようにしなければならない、と言う。シェルターのスタッフもそう言う。

別々に診察をする。ソーシャルワーカーの言う通り妻は24/30 (26以上は正常でそれ以下はフォローアップが必要)。会話も態度も正常で精神病などは疑われない。その反面夫の方は16/30。先走りな会話が続き意思の疎通が難しい。若い頃から仕事を長く続ける事ができない。喧嘩をしたり、指示をされた事が理解できず問題を起こしたりが解雇の理由だ。簡単な力仕事を近年はしていたが腰を痛めそれもままならない。

妻は暴力や精神的な虐待を真っ向から否定する。夫の事を愛していると。ホームレスでいる事も運が悪いだけと言う。夫にお金の管理を任す理由は?昔から金銭感覚が乏しい自分に比べ夫はそう言う管理ができる人だから。

ここで私は妻に聞いた。もし夫に何らかの病でお金の管理ができない状態とわかったら、それでもお金を夫に任せますか?と聞くと妻は、そう言う状況なら任せるべきではないと思いますと、きっぱり言う。
もし夫が何らかの病気と知ったら別れますか?それとも一緒に暮らして必要なら看病をしますか?と尋ねると。夫婦なんです、何があっても別れません、当たり前です!私が交通事故にあった時も彼が懸命に看病をしてくれたから回復できたんです。同じ事をするのが夫婦なんです!

と言われました。次回は夫婦揃って診察に来てもらい、夫の老人精神科チームへの紹介を了解してもらいましょう。チームに彼が金銭管理をする能力があるのか意思決定能力があるか、精神病の有無についてアセスメントをしてもらいましょう。そして2人が安全に暮らしていける住処を見つけることと必要なサポートを検討しましょう。

思い込みというものは恐ろしいものです。危うく愛し合う夫婦を引き裂くところでした。



晴れの金曜日、ダウンタウンで友人と夕食。海が見えるこの街は大好き。

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2 コメント

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こんばんは (のびた)
2016-06-04 22:17:56
読んでいくうちに 妻への金銭的虐待の疑いが晴れてきました
それでも この夫と寄り添うのは大変な苦労でしょうね

風邪気味の状態は治りましたか?
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のびたさんへ (美加)
2016-06-05 10:08:44
妻も完全にクリアではないので加減が難しいですが2人が一緒に入れる方向で必要ならサポートを計画したいと思います。体調は確実に回復へ向かっています。ちょっと良くなると、こうやって出かけるから良くないんですよねー
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