走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

日本の診療看護師

2017年09月12日 | 仕事
日本の医療全般と看護、そして国民の健康を応援したくてブログを書いています。最近、日本の診療看護師 (JNP)について疑問が湧き調べれば調べるほど疑問が増え、日本の政治に対する日本らしさを再確認しています。

以前にシリーズで日本の看護とカナダの看護の違いについて書きました。正看護師自体に日本と海外では違いがあり、タスクシェアリングと言う医療全体の分業業務化にも違いがあり、この特定行為が行える看護師の研修制度ができる前のスタートラインがすでに違うところに難しさがあるのだと考えます。

例としてJNPに与えられている特定行為 38行為がどのようにカナダBC州で実施されているかを書きたいと思います。

1-経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整- 呼吸療法士
2-侵襲的陽圧換気の設定変更- 呼吸療法士
3- 非侵襲的陽圧換気の設定変更 - 呼吸療法士
4- 人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静の投与量の調整- 医師の指示の下 看護師
5-人工呼吸器からの離脱-呼吸療法士
6-気管カニューレの交換 - 呼吸療法士
7- 一時的ペースメーカーの操作及び管理- 医師の指示の下 看護師
8- 一時的ペースメーカーのリードの抜去 - 医師の指示の下 看護師
9- 経皮的心肺補助装置の操作及び管理 - 私の知識では不明
10- 大動脈バルーンパンビングからの離脱を行う時の補助の頻度の調整 - 医師の指示の下 看護師
11- 心嚢ドレーンの抜去- 医師の指示の下 看護師
12-低圧胸腔内持続吸引器の設定及び変更 - 医師の指示の下 看護師
13- 胸腔ドレーンの抜去 -医師の指示の下 看護師
14- 腹腔ドレーンの抜去 -医師の指示の下 看護師
15- 胃ろう/腸ろうカテーテル又はボタンの交換 -医師の指示の下 看護師
16- 膀胱ろうカテーテルの交換-医師の指示の下 看護師
17- 中心静脈カテーテルの抜去 -医師の指示の下 看護師
18- 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入-放射線科医師
19- 褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去-WOC 看護師
20- 創傷に対する陰圧閉鎖治療-医師の指示の下 WOC 看護師
21- 創部ドレーンの除去-医師の指示の下 看護師
22- 直接動脈穿刺法による採血 - IV 看護師, ガス血は呼吸療法士も可
23- 橈骨動脈ラインの確保 - 呼吸療法士
24急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾過器の操作及び管理-医師の指示の下 透析技術者又は看護師
25- 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整-栄養士が計算、医師に変更を働きかける
26- 脱水症状に対する輸液による補正-医師の指示の下 看護師
27- 感染兆候がある者に対する薬剤の臨時投与- 性病であれば資格を保持した看護師
28- インスリン投与量の調整-医師の指示の下 看護師
29- 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整-医師の指示の下 看護師
30- 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整-医師の指示の下 看護師
31- 持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量-栄養士が計算、医師に変更を働きかける
32-持続点滴中の降圧剤の投与量の調整-医師の指示の下 看護師
33- 持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整-栄養士が計算、医師に変更を働きかける
34- 持続点滴の利尿剤の投与量の調整-医師の指示の下 看護師
35-抗けいれん剤の臨時投与-医師の指示の下 看護師
36- 抗精神剤の臨時の投与-医師の指示の下 看護師
37- 抗不安薬の臨時の投与-医師の指示の下 看護師
38- 抗がん剤その他の薬剤が血管外に露出した時のステロイド薬の局所注射及び投与量の調整-医師の指示の下 看護師

このようにJNPの特定行為はカナダの看護師や他の職種で賄われています。施設ごとにスタンダード オーダーも多くあり、その指示書に医師がサインをすれば看護師はそれに沿って薬の量の調整をするのは当たり前に行われています。

それにこの特定行為もJNPが自律して行えるわけではなく、全て医師の指示のもとで行えるとされています。では看護師とJNPの違いは何なのでしょうか?

確かにJNPは海外のNPのように2年間の教育を受け、国家資格こそなけれど認定試験を受けて医療現場へ戻ってきます。JNPに対する医師の指示は看護師にに対するそれとも少し違うと理解しています。しかしやれる事は海外の看護師と同等のこと。看護師の業務に少し下駄を履かせたようなJNPだと外にいる私にはそう思えてなりません。それではJNP養成の費用の無駄遣いというものです (下駄どころか草履程度なのかもしれません。その草履程度の違いに国は幾らお金をつぎ込んでいるのでしょうか?)。裏を返せばJNPにとって教育の内容に釣り合わない職しか待っていないという事になります。これでは2年も追加で教育を受けたJNPの飼い殺しです。

いったい日本はどんなビジョンを持ってJNPをスタートさせたのでしょうか?私は海外でナースプラクティショナー(NP)として働いている者で、JNP協議会に参加していたわけでもない全くの部外者です。だからこそこうしてJNP協議会が作り出した産物を批評することができるのかもしれません。

この38行為はほぼ病院で機能している看護師の行為に絞られています。なぜプライマリーケアや在宅医療での行為は検討されなかったのでしょうか?もちろん病院医療に傾いている日本の医療だからと答えは簡単に出てきます。病院医療だけではこの増加し続ける医療費を抑え、急速に高齢者の人口比率が増え続ける中患者のニーズの対応ができない事実は誰の目にも明らかだと思います。

高齢化社会、医療費増大、過疎による地域格差、日本は医療の変革を迫られています。こんなところで立ち往生している場合ではないと思います。JNPや看護師や他の医療職全ての職務を再考する日本を願いたい。そして医療報酬制度の見直しを。外から願っています。



最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
参考になります (NPmasuda)
2017-09-13 22:38:31
ご指摘頂いた通りだと思います。この制度は何かお茶を濁したような制度になってしまいました。一方で特定看護師とは違う、診療看護師たちは特定行為以上のことをやりはじめています。まだまだ、表に出て来ていないと思いますが、少しずつ他国のNPを追従する動きは出てきてると思います。
返信する
NPMasuda さんへ (美加)
2017-09-14 09:14:29
日本のNP関連のメールグループに所属しているのですが、そこでは特定看護師と診療看護師は同じものと聞きました。ネットで調べる限り同じようです。しかし大学院で学ぶ者もいれば病院で学ぶ者もいる。教育の基準はどうなっているんでしょうかね?めっちゃめちゃな状況にしか思えないんですけど私の目には。そんな中での奮闘は簡単ではありませんが、安全に地道に開拓していきましょう。
返信する
仰るとおり (kf3626)
2017-09-14 12:21:54
突然のコメントですみません。
日本では「特定行為研修を修了した看護師」を特定看護師と呼ぶようになってきております。
もともとはNPを日本に導入しようとした日本NP大学院教育協議会でしたが、厚労省での話し合いの中、医師会や他医療職、看護系の他分野からの意見で内容はどんどん変わり現在の「特定行為研修」が法制化されています。診療看護師もその流れに乗らなければ医療現場での立ち居地が保障されないため、現在は「診療看護師」=「21区分を修了した看護師」という形になっております。しかし当初の目的としてのNP教育の心を持っていると思われます。
一方「特定行為研修」が出来上がり、数を増やしたい厚労省は研修場所を増やしています。名称独占、業務独占をしていないため、名称は定まっておらず、修了生は「特定行為研修を修了した看護師」=「特定看護師(略して)」と名乗ることが多いです。
仰るとおり、めっちゃめちゃな状況です。おそらく海外がNP(業務拡大)を導入したときに生じた混乱の状況にあるのではないかと思います。ただ現在は厚労省(国)が進めているため特定看護師のほうが勢いがあるように感じます。
長文申し訳ありません。

「特定行為研修を修了した看護師」・・・保助看法37条2に規定されたものであって厚労省が推進している。21区分を1-21区分取得している。
「診療看護師」・・・日本NP大学院教育協議会の認める資格試験を合格したもの。NPコースを卒業したものが受験資格がある。
返信する
鹿児島特定行為研究会 様へ (美加)
2017-09-15 11:50:53
丁寧に返答を頂きありがとうございます。過程が良くわかりました。医師会ばかりでなく看護界からの意見でこのような事になった事が残念でなりません。1つ意見を。始まりの混乱は避ける事が出来たと思います。カナダBC州はカナダの中でも遅れをとっての発進でした。その理由は骨格作りに時間をかけたからです。免許の母体となるカレッジがオンタリオ州やアメリカ各州、イギリスなどの視察を重ね、レギュレーション作りや資格試験のあり方、教育課程に時間をかけたからです。そのお陰で他の地域での失敗を繰り返す事を避け、一定水準を保つ事ができるのシステムになりました。政府や国民に認めて貰うには時間がかかるものです。12年で登録者は400人となりました。大学院の枠は1校あたり15席で3校しかありません。もちろん他州やアメリカから来る人はいますが、カナダ1ハードルの高い州となりました。試験に一発で受からない人が多数出て、裏目になったのでは?とも言われましたが私はそれで良かったと思います。誰でも簡単になれるのでは意味がありませんから。遠くからですが応援しています。私にできる事があれば言ってください。来年の夏に一時帰国をする予定です。現場の方と交流をしたいので研究会などに合わせて予定を組もうかと思っています。貴方のサイトもチェックするようにしますね。鹿児島は行ってみたい県の1つですから!
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。