もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

「ノーボーイズ、ノークライ」

2009-09-05 22:08:57 | 映画
9/2

~泣くなよ王子 もし目が覚めたら 笑ってやるよ~
この言葉に全てがつまっている。


小汚い船で昼寝をしている男、ヒョング。
自分を拾ってくれたヤクザのボスのためにこなしている仕事は
ただの荷物運び。小船での密輸。
生き延び為に身に着いたような愚鈍さで、
運ぶ荷物にも自分にも疑問も関心も抱かない。
ボスのくれる小銭で出来ることだけで、
彼の目の届く範囲で生きる生活。
HAPPYでもBADでもなければOKじゃないか。
時々襲う不安は、そうやって打ち消す。
犬でも、不安にはなるのだよ。

日本での荷受係りの亨。
何度教えても、ヒョングを迎える挨拶に「ヨボセヨ(もしもし)」と頭を下げる亨も、少しトロイらしく、チンピラ扱いすらされていない。
組でも、殴り小突かれるだけの日々。
こいつも犬か。

しかし、ヒョングがある荷物を無くした時に亨が取った行動が
二人を救う。
彼はトロい振りをしていただけだったのだ。
本当にヒョングだけが、
自分の運んでいるものを知らず、ボスの嘘に乗せられていたのだ。
傷つくヒョング。
犬だって、傷つくさ。

そうして、
ある日ヒョングが運んだ荷物が二人の関係を、運命を変える。

密かにハングルを勉強し、理解していた亨は
ボス達のやっていることを知っており、
その上前をはねる画策にヒョングを巻き込む。
全ては金のため。
金は、家族のために。
ボケた祖母と尻軽の妹と父親の違う子供が3人。
貧乏で不恰好で仲良くも無い家族。
それを守るために危ない橋を渡る亨を理解できないヒョング。
亨も「俺がいない間に火事になっちまえばいいのに」
言ってはみるものの
現実に全てを放り出せない優しさが自分を縛りつける。

病を持って生まれた甥を治すために必要な金。
貧乏も家族をむしばんでいる。
「金があれば」
「金があれば」
けれども、本当に金を手にしたとして
亨が描ける家族との未来は限定される。
人は
自分が生きてきたサイズからはみ出たことを考えるのは容易ではないから。

裏社会の暴力も、
人間の汚さも愚かさも描きながら、
くすっと笑えるシーンを挟むことで
重くしない渡辺あやの脚本の力が素晴らしい。
どんなに深刻な場面でも、現実に人は笑うでしょ。

ボスがボスであり続られる非道さを表してからのラストまでの
展開は、
予想ができるけれどつらい。
ヒョングと亨がもう少し賢ければ、陥らなかったであろう罠。
そこにほんの少しだけさす、ひとすじの光。


この映画には幾組みかの家族が描かれている。
ボスとヒョング。
~利用できるなら、犬を息子と呼ぶことぐらいなんとも思わない
 ヤクザ。
ボスと実の息子。
~母は描かれない
ボスの姉。
~この女もヒョングを犬だと思っている。
亨の妹とダンナと子供。
~こんがらかり歪んでいる
誘拐されているのに父親を心配する娘
ヒョングを捨てた母親(への想い)
亨の家族。
~両親のいない訳は語られていないね、そういえば。

その中でもっとも家族らしかったのは
亨の家族、ヒョング、誘拐されたはずの娘が揃って食卓を囲む場面。
逃げる車の中で後ろの席でねむりこける6人。
家族であるはずのない8人に通いあうもの。


ここまで書いてきたら
ラストのひとすじの光は、王子と王子を明るく照らし出してくれる気がしてきた。
どこかでやり直せて生き直せる家族たち。
そのために使われる生きたお金。

どうか、王子が目を覚ましますように。
コメント (4)
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