弥平治と巻物
鹿乙をしていた弥平治の残したものに こんな不思議な言い伝えがあります
昔 瘧(おこり)という病気が巷に蔓延した時 山で不思議な老人に会い巻物を貰った
「南無阿弥陀仏」と書かれた巻物を神棚に奉り
一心不乱に拝むと病気が治ったことから
日本全国を転々として巡り 帰ってきたときは ボロボロだったようです
・日本でも瘧(おこり)と呼ばれるマラリアの流行がありましたが時代までは分かりません
その巻物は 今は僕の手元にありますが
とにかくボロボロで袋に補完してあります
手に取ると 其の時代の人々と同じ感触を確かめるようで毎回ドキドキしています
この 言い伝えを 僕なりに物語にしました
今日は 半分だけ 掲載します
「鹿乙とおこり」
その年の夏の陽は強く 大地から作物を減らし
巷には「おこり」なる 熱病が流行し人々の命を縮めていた
ここ諏訪地方にも いおりの発症が確認されだし
十日余り前から 宮川で三人 高部で一人と高熱を出し 床に伏していた。
その病状は、四十度以上の熱の中で嘔吐を繰り返し、
その体は日に日に衰えていき、死を待つだけであった。
神宮寺に住む 鹿乙人「弥平治」は 何時ものように狩猟の準備をしながら
の長から 熱病に効く 薬剤の情報を得てくることを頼まれていた
弥平治は山野を駆け回り 獣を捕獲すると同時に
狩人を集め「鹿喰免」のもつありがたい教えを説き御札を発行するのが常であったため
にいる人々よりも情報を仕入れることが出来たのである身支度を整えた弥平治は
何時ものように妻のしずから 火打石が御祓いをしてもらい
通いなれた山の道へ一歩を踏み出した
日はまず 天狗山のトチノキの下で 狩人を集め「鹿喰免」の交付をする事から
始まったが顔見知りの猟師が 一人又一人と集まってきたが長老の「ただおみ」と
その子供の「ただとも」の顔が見えないことに気付いた弥平治は 近くにいた
一郎太に問うてみると 父「ただおみ」が熱病にかかり伏していることが判ったと共に
その「ただおみ」を診ていた町医者が倒れたことも知る事になった
医者おも食らう病気である事を知り
弥平治は 今の世では 直す手立ての無い病であると理解し病にかかった
家人との接触を避けることが懸命であろうと考えていた
山に入り 猟を始めたが 今日の山は違っていた
獣道には 足跡も無く 息を殺し 山と一体になっていても 獣の息遣いも聞こえてこない
木々のこすれあう音 草のざわつく音 全てが風が起こした音であった
弥平治は 半場諦め 遅い昼食をとっていた
大きなむすびを頬張る度に汗が流れ落ち
弥平治は 腰につけた水筒を取上げると ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み
又 一口 むすびを頬張り 沢庵をカリっと齧った
沢庵の齧る音が 山に反響したようであった 驚いた弥平治は 顔を上げた
山は静まりかえり
いつの間にか 自分の周りには 深い霧が押し寄せてきていた
続く