まずは昨日の補足から
弥平治とは代々受け継がれた通り名で高祖父は「音治」と言ったらしい。(守矢 如瓢とも言う)職は今で言えば、獣肉狩猟売買の大元締めのようなものであったと思える。
諏訪大社が出した許可書が、「鹿喰免」(かじきめん)である。守矢家は、「鹿喰免」 諏方大祝の版木を所持・管理し、「鹿乙」と呼ばれていた。
「鹿乙とおこり」
弥平治は 体が震える思いがした
長年 山に入り 狩りをし 雨も風も雷も全ての天変地異には遭遇してきたが
今までとは違う 恐れが襲って来た
霧が 弥平治を包むと 弥平治の体は 金縛りに合ったように動けなくなってしまい
弥平治の体は 体温が吸い取られたごとく冷たくなり
今まで吹き出ていた汗も掻き消されてしまった
ただ 目だけが辺りを見回していた
どれだけ時がたったであろう 霧の中から黒い物体が弥平治に近づいてきた
獣であれば 一撃で食われてしまうであろう事はわかっていた
弥平治は目を閉じた
「もう 終いだ・・・」と思った時 肩をたたかれた
弥平治は はっとして目を開けた
そこには 白髪の老人 着物はボロボロであるが 光かがやく杖をついていた
その老人は 弥平治に一巻の巻物を渡し
『鹿乙師弥平治よ この巻物には 「南無阿弥陀仏」という文字が書かれている
この 巻物を翳し「南無阿弥陀仏」と唱えれば 巷にある
「おこり」は無くなるであろう』と 言い残し 霧の中に消えてしまった
老人が消え 霧も薄くなっていくと 弥平治の体も解かれた
不思議な体験であったが 弥平治の手には 「巻物」が握り締められていた
弥平治は山を下り の長に報告すると
その足で「いおり」に伏せている病人を一つ家に集め
一昼夜家族と一緒に 「南無阿弥陀仏」の六文字を唱えた
すると不思議なことに 老人の言った通り 熱は下がり 「
いおり」は消えてしまった
この事は 諏訪一体ならず「おこり」が蔓延している諸国へ広がり
この巻物は 長い間 日本諸国を巡り
弥平治の元へ戻ってきたときは 回りが擦り切れていたが
それは 人の手による願いと言われている