盗人宿

いまは、わかる方だけ、おいでいただければ。

2019-07-29 09:28:57 | にゃんころ
武者修行の侍が山中で道に迷って思案にくれていると、遠くにちらりと明かりがみえます。
やれ助かったと光に向かいたどり着くと、そこは一軒のあばら家。戸を叩くと、出てきたのが熟しきったと申しますか、妖艶な年増でございます。
早速一夜の宿を頼むと、

「それはそれは、さだめしお困りと存じますが、ご覧のように女ひとりの侘び住い、男の方はお泊め申しかねます」
「左様ではござろうが、たとえ物置の隅でも結構でござる。曲げてお願いしたいのだが」
「……それなら、何のお構いもできませぬが、ひとまずお上がりくださいませ」

と、中に入れてくれる。
囲炉裏の火で改めて女を見ると、これがまたたいへんにいい女。
四方山話をしているうちに、女はちらちらと立膝などをして、白いものを見せたり黒いものを見せたり流し目をしたり、実に色っぽい。侍がにじり寄って手を取ろうとすると、その手を払いのけてにっこり笑う。それがまた艶かしい。

侍がたまらなくなっていきなり女にしがみつくと、体がふわっと浮いたかと思うと地面にごろごろごろっ。
はっと気づくと家も何もすーっと見えなくなり、そこに一本の破れ傘。その傘が真っ赤な舌をぺろぺろ出して、ケタケタケタと笑いながら一本足でぴょんぴょん跳んでいってしまいます。

「うーむ、傘の化け物であったか。道理で、させそうで、させなかった」

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