モウズイカの裏庭2

秋田在・リタイア老人の花と山歩きの記録です。

秋田駒ヶ岳の花図鑑(3)盛夏1

2024年01月08日 | 秋田駒・乳頭/花と山容

(本頁は「・・・花図鑑(2)初夏続き」の続きです。)

【盛夏編】
七月になると、大焼砂ではコマクサが見頃を迎える。

大焼砂のコマクサ群生。 2017/07/10



大焼砂のコマクサ群生。 
1980年代、撮影年月日は不明。



大焼砂のコマクサ群生。右上の残雪をご記憶下さい。 
2017/07/10



コマクサ Dicentra peregrina
 2017/07/10



コマクサが自生するのは、
東北では岩手山と秋田駒、蔵王の三箇所のみ(尾瀬・燧ヶ岳も加えると四箇所か)。

株の大きさとトータル量では岩手山の方が勝っているが、
残念ながら他の植物と混生している(こちら参照)。

コマクサが単独で、しかも密に群生している点では、秋田駒の方が素晴らしいかなと思う。

七月はコマクサの他に、小岳や女岳斜面のチングルマも素晴らしい。
それを見るためには、ムーミン谷(馬場ノ小路)に下りる必要がある。

小岳斜面のチングルマ群生。 2017/07/10


チングルマのこの群生は三枚目写真の右上に見える雪渓の下、木道近くに発達したものである。

チングルマ Geum pentapetalum
 2017/07/10



場所によっては、下写真のようにイワカガミも混生している。

イワカガミ Schizocodon soldanelloides とチングルマ。 2017/07/10



ミヤマキンポウゲ Ranunculus acris var. nipponicus 2017/07/10
   


(右上)カラマツソウ
Thalictrum aquilegifolium var. intermedium 2017/07/10

カラマツソウは八幡平では多いが、秋田駒では少ないように感じる。
個人的にはムーミン谷の底部で見かけた。


シラネアオイ Glaucidium palmatum 2017/07/10


シラネアオイは新道コース、しゃくなげコースではほとんど見ないが、
ムーミン谷の奥地、男岳斜面に群生している。
この場所は雪消えが遅いせいか、盛夏に咲く。
古い時代(約40年前)の記憶だが、男岳の西斜面に大群生があったように記憶している。

馬ノ背の稜線に上がると・・・

イワヒゲ Cassiope lycopodioides 数は少ない。 2017/07/10
   


(右上)マルバシモツケ Spiraea betulifolia
 2017/07/10

ハクサンシャクナゲ Rhododendron brachycarpum 2016/07/10



七月の秋田駒には、花に関して大きな見どころが三つある。

ひとつ目は大焼砂のコマクサ、二つ目はムーミン谷のチングルマ、
そして三つ目はあちこちに生えているエゾツツジだ。

エゾツツジは名前からもわかるように北海道に多い花で、本州にはごく少なく、
秋田駒は分布の南限にあたる(厳密にはもう少し南の和賀山塊でも発見されたとのこと)。 
南限だから、細々と生育していると考えたら大間違い。
全山至るところ(と言っても高い場所だけ)でドミナント(優占種)になっている。

平らな草叢から、岩場までびっしり生えているので、
秋田駒ヶ岳から蝦夷躑躅ヶ岳とでも改名したくなるほど。 

ツツジとは言っても、背がとても低く、蕾の形もずんぐりしている。
よく調べると普通のツツジとはいろいろ違うところがあるようで、最近は別属に分類された。

エゾツツジ Therorhodion camtschaticum 2017/07/10



エゾツツジと
ミヤマダイコンソウ。 2017/07/10



エゾツツジは、秋田駒では、ミヤマダイコンソウと一緒に生えている。

このような組み合わせは、他の山では見たことが無い。

ミヤマダイコンソウ Geum calthifolium var. nipponicum 2017/07/10


ミヤマダイコンソウを私は奥羽山系では焼石岳、日本海側では朝日連峰で見かけたが、

それほど多くない。しかし秋田駒では何故だろう。
異常なまでに多いと感ずるのは私だけだろうか。
 

アカモノ(イワハゼ) Gaultheria adenothrix 2017/07/10
 


(右上)オノエラン Orchis fauriei
 2017/07/10

オノエランは栗駒山、焼石岳など奥羽山系には多く、秋田駒や乳頭山でもよく見かける。

ムシトリスミレ Pinguicula vulgaris var. macroceras 2023/06/26



ムシトリスミレに黄色いスミレ(キバナノコマノツメ)が混生。 2017/07/10



ムシトリスミレは前出のタカネスミレなど四種類とは違い、
食虫植物のタヌキモ科である。

時間が有ったら食虫の様子も観察してみよう。
阿弥陀池の周りの平らな湿原に多いが、男岳では垂直の岩場にもへばり付いている。

コバノイチヤクソウ Pyrola alpina 2017/07/10
 
 

(右上)ベニバナイチヤクソウ Pyrola asarifolia subsp. incarnata 1980年代、撮影年月日は不明。

イチヤクソウの仲間は他にカラフトイチヤクソウも見かけている。
いずれも数は少ない。


・・・花図鑑(4)盛夏2」へ続く。

コメント (2)
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秋田駒ヶ岳の花図鑑(2)初夏続き

2024年01月06日 | 秋田駒・乳頭/花と山容

(本頁は「秋田駒ヶ岳の花図鑑(1)」の続きです。)

本頁では、初夏の秋田駒ヶ岳でも比較的高所に咲くものを集めてみた。
場所的には新道コースならば、片倉岳展望台から先の
男女岳(おなめだけ)山麓から阿弥陀池周辺、
男岳、馬ノ背稜線、横岳などが該当するが、
大焼砂上部、馬場ノ小路(通称:ムーミン谷)も含めた。

ミネズオウは新道コースの終点近く、阿弥陀池手前の平坦地に多いが、
開花時期が早いせいか、花を見逃すことが多い。

ミネズオウ Loiseleuria procumbens 2021/06/17



参考マップ



コメバツガザクラ Arcterica nana 2015/06/21
   


(右上)コケモモ Vaccinium vitis-idaea
、混生している細かい葉はガンコウラン。2015/06/21

秋田駒ヶ岳にはコケモモが多い。横岳ではガンコウランとの混生が多かった。

ナガバツガザクラ Phyllodoce nipponica subsp. tsugifolia 2023/06/26


秋田駒ではナガバツガザクラの生育地が限られている。

私は男岳分岐からムーミン谷に下りる急斜面でしか見ていない。

ハナヒリノキ Leucothoe grayana 2015/06/21  
 


(右上)ハイマツ Pinus pumila
 2015/06/21

ハイマツは新道コースでは片倉岳展望台の先で多くなる。
この付近でも標高は1450~1500m程度だ。

イワウメは高山の岩場を代表する花。

秋田駒では馬ノ背稜線の岩場には比較的多い。

イワウメ Diapensia lapponica var. obovata 2021/06/17 
右上に咲くのは、ミヤマダイコンソウ。手前下にエゾツツジやホソバイワベンケイも見られる。



イワウメ 2015/06/21



イワカガミの仲間。

イワカガミ Schizocodon soldanelloides
 2023/06/26



秋田駒にはヒメイワカガミ Schizocodon ilicifolius も生えているが、イワカガミとの識別が難しい。

下写真の株は、ヒメイワカガミかと思ったが、葉の鋸歯が不明確だ。
イワカガミとの雑種だろうか。

ヒメイワカガミ? 2015/06/21



ミヤマウスユキソウ(ヒナウスユキソウ) Leontopodium fauriei
 2015/06/21


ミヤマウスユキソウは朝日連峰や月山、鳥海山など日本海側の高山には多いが、奥羽山系には少ない。

私は秋田駒と笊森山の一部でしか見ていない。悲しいことにいまだに盗掘が横行しているようで、
上写真のような大株はもはや登山道から見ることは出来ない。


黄色いスミレの仲間。

キバナノコマノツメ Viola biflora
 2015/06/21


キバナノコマノツメは、秋田駒に咲く黄色スミレでは、最も広域に分布している。

草地(風衝草原)だけでなく、低木の下にも多い。阿弥陀池付近の群生はみごとだ。

キバナコマノツメの群生  2021/06/17
 



ホソバイワベンケイ Rhodiola ishidae
 2015/06/21
   


(右上)タカネスミレとコマクサ。この時期、コマクサは開花の準備中だ。2015/06/21

大焼砂の斜面は、コマクサの群生地として有名だが、六月中はタカネスミレが凄い。
タカネスミレは岩手山にも有るが、これだけ密に大量に咲く場所は秋田駒以外に知らない。

2015/06/21


タカネスミレの群生 
2023/06/26


タカネスミレ Viola crassa
 2015/06/21



同時期、ミヤマキンバイも群生し、大焼砂は黄一色に染まる。

ミヤマキンバイ Potentilla matsumurae 2015/06/21



古い写真で恐縮。ミヤマキンバイをもう一枚。

1980年代、撮影年月日は不明。バックは男岳。手前にミヤマキンバイ。


ミヤマキンバイは大焼砂以外の場所にも多い。


秋田駒にはあちこちにチングルマが群生している。
場所により、開花時期が異なっており、阿弥陀池の男女岳(おなめだけ)側では
比較的早くから咲き出していた。

阿弥陀池付近のチングルマ群生 2021/06/17



この時期、他には、

八合目から片倉岳展望台付近ではミネザクラやイソツツジ、ミヤマダイコンソウ(後出)、
阿弥陀池周辺でムシトリスミレ、ヒナザクラ(いずれも後出)なども見かけた。
なお鳥海山や焼石岳で初夏、一斉に咲くハクサンイチゲは秋田駒には自生しない。


・・・花図鑑(3)盛夏1」に続く。

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秋田駒ヶ岳の花図鑑(1)

2024年01月04日 | 秋田駒・乳頭/花と山容

(昔、同様の図鑑を一度作ってますが、昨年三月、旧ホームページ消失に伴い、無くなったので、作り直しました。)

古い話で恐縮。1990年代の初め頃だったか、

山と渓谷社が雑誌『山と渓谷』誌上で読者を対象に高山植物の人気投票を行ったところ、
堂々第1位に輝いたのは、コマクサだった。
さらに2、3位あたりにエーデルワイス類(ウスユキソウの仲間)とチングルマ、
少し離れてニッコウキスゲやイワカガミもあったように記憶している。
いずれも今回紹介する秋田駒で見られる花ばかりだが、
特に女王格のコマクサとエーデルワイス類(ここではミヤマウスユキソウ)が
一緒に観られる贅沢な山は国内広しといえども、秋田駒ヶ岳ぐらいではなかろうか。

コマクサ(右下にタカネスミレ) 2015/06/21
 

(右上)ミヤマウスユキソウ 2015/06/21


この山、ほかにも花の種類が豊富であり、枚挙にいとまもないのだが、
少々残念なのは特産種が無い点だ。

奥羽山脈に連なり、いまだに蒸気を吹き上げる新しい火山だから、
それはしょうがないか。

しかしエゾツツジやイワブクロのように中部山岳に産しない北方系のキャラクターや、
タカネスミレのように分布が限られ、なおかつみごとに群生する花もある。

2015/06/21 タカネスミレの群生



もちろんヒナザクラやトウゲブキ、ハクサンシャジンなど
東北の高山植物常連メンバーもそろっている。

日本アルプスならば2500m以上の高所でやっと面会できる高嶺の花達に、
ここでは、1300m程度の高さでいとも簡単に面会できる。
緯度が高い分、高山帯になる高度が下がってくるのは当然だが、
ここでは下がり方が少し急激すぎるような気もする。
それには冬の厳しい気候や地形、火山活動などが関係しているものと思われる。
我が郷土にこんな素晴らしい山があることを改めて誇りに思う。
しかもかなり上まで車で行け、
(八合目から始まる新道コースならば)歩き出して

5分もしないうちに数多の高山植物に対面出来る。
あとは1時間ちょっと重力に抗するだけで、山頂や核心部分に至るのだから、
私のような足弱不精者にはとても有難い山だ。

秋田駒ヶ岳で今までに私が歩いた軌跡をマップ上に赤い線で記してみた。




秋田県側からの代表的な登山コースである
新道コースや
しゃくなげコースを通って、

男岳、男女岳、横岳、焼森などのピーク、
間にある阿弥陀池、浄土平、馬ノ背稜線、
更に南側爆裂火口内の
馬場ノ小路(通称:ムーミン谷)や大焼砂の稜線を巡っている。

本図鑑で取り上げた花はこの範囲で撮影したものばかりだ。
しかし秋田駒ヶ岳には他にも登山コースが有る。
岩手県側の国見温泉からのコースのうち、
大焼砂分岐より南、横長根と国見温泉の間はまだ歩いたことがない。
中生保内から金十郎長根を登り、男岳山頂に至るコースや
浄土平から旧硫黄鉱山跡を通り、新道コースに至るコース(旧道?)も同様だ。
本図鑑ではこれら未踏区間の花情報が欠如している点をお見知りおき頂きたい。

植物の掲載順はおおむね、開花が早いものからとしたが、
開花期間の長いものや果実が顕著なもの、その他特徴的な一部の花は複数回登場させている。
植物写真の撮影年月日は貴重な情報なので、極力掲載することにした。

植物名の同定にあたっては、既存の高山植物関係の図鑑以外に、
工藤茂美・著、『秋田駒ケ岳・花の旅』(栃の葉書房)(絶版)、
田村武志・著、『秋田駒ケ岳花抒情』(秋田文化出版)、
日野東+葛西英明・著、フラワートレッキング秋田駒ヶ岳(無明舎出版)などの書籍も参考にさせて頂いた。
何か間違い等にお気づきの方はご指摘頂きたい。
これら書籍とは別に秋田駒ヶ岳の高山植物については、
最近、ホームページで
秋田駒ヶ岳 乳頭山 みちのく最大級の高山植物を誇る花の山』が立ち上がっていた。
こちらはまだ見つけたばかりなのでまだ見ていない。
これから訪ねてみようと思う。


【初夏の花1】
概ね六月から七月上旬にかけて咲く花を扱ってみた。
この時期、秋田駒に咲く花の代表は、今、紹介したばかりのタカネスミレだが、
まずはやや低所に咲く花から始めてみる。
次の写真は駒ヶ岳八合目付近から主峰の男女岳(おなめだけ)方面を眺めたものだ(2023/06/26撮影)。




この付近の標高は約1310mであるが、
八幡平のようにアオモリトドマツは無く、ダケカンバなどの高木も見当たらない。

この先、新道コースを歩くと、標高1458mの片倉岳展望台(赤土広場)までの間は
やや背の高い低木や笹、高茎草本の茂みの中を歩くことになる。
東北地方北部の森林限界はおよそ1800m前後と言われるが、
秋田駒ではこれが500mくらい降下している。
かといってハイマツが優勢なわけでもないので、純粋な高山帯とは呼び難い。
鳥海山や月山など日本海側の高山同様、秋田駒では偽高山帯が発達している。

2013/06/06 ミヤマスミレの群生



ミヤマスミレ Viola selkirkii 
2013/06/06
   


(右上)ハクサンチドリ Dactylorhiza aristata 
2015/06/21

ハクサンチドリは新道コース下部(八合目付近)の道端には雑草のように生えているが、

それ以外の場所では疎らだ。何故なんだろう。

ハクサンチドリ(白花)2023/06/26
 

(右上)イワテハタザオ Arabis serrata var. japonica f. fauriei 
2021/06/17 大焼砂にて。

イワテハタザオは岩手山と秋田駒ヶ岳の特産と言われるが、
下写真は新道コース下部(八合目近く)の赤土斜面で見たもの。

2015/06/21


こちらは葛西英明氏の著作、『フラワートレッキング秋田駒ヶ岳』では

エゾノイワハタザオとされているようだが、私には識別出来なかった。 

ショウジョウバカマ Heloniopsis orientalis 2015/06/21
 


(右上)コミヤマカタバミ Oxalis acetosella
 2015/06/21

秋田駒にはミヤマカタバミもあるが、
八合目より上の灌木林下で見かけるものは
コミヤマカタバミの方が多いように思った。
花弁には多少なりとも紅色の筋があった。


ゴゼンタチバナ Cornus canadense 2023/06/26
   


(右上)ツマトリソウ Trientalis europaea
 2023/06/26


ウラジロヨウラク Menziesia multiflora
 2023/06/26



ベニバナイチゴ Rubus vernus 2015/06/21



マイヅルソウ Maianthemum dilatatum
 2015/06/21  
 


(右上)ズダヤクシュ Tiarella polyphylla
 2015/06/21


ヒロハユキザサ Maianthemum yesoense  2023/06/26
 


(右上)サンカヨウ Diphylleia grayi
 2023/06/26


秋田駒には黄色いスミレが三種類見られる。
歩き出してすぐ目につくのは、低山性のオオバキスミレ。
新道コースでは片倉岳展望台の手前に群生している。


オオバキスミレ Viola brevistipulata
 2015/06/21



ミツバオウレン Coptis trifolia
 1980年代、撮影年月日は不明。
   


(右上)ヒメイチゲ Anemone debilis
 1980年代、撮影年月日は不明。


秋田駒ヶ岳の花図鑑(2)に続く。

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秋田駒ヶ岳はどんなお山?/山容編

2024年01月02日 | 秋田駒・乳頭/花と山容

新年あけましておめでとうございます。
ところで昨日夕方・・・( ̄π ̄;正月早々の大地震には驚きました。
被害に遭われた皆様には心からお見舞い申し上げます。
私事で恐縮ですが、毎年、冬場は山に行けないため、本ブログもネタが無くなります。
夏場の回想記事などでお茶を濁すことが多く、
今年は秋田駒ヶ岳の花の話題などを
ちんたら始めようかなと思っておりました。
ところがこの大地震で少々出鼻をくじかれました。
正月二日は揺り返しで、昨年12月28日にアップしておりました
「秋田駒ヶ岳はどんなお山?/山容編」を再度アップさせて頂きます。
このことに深い意味はありませんが、
何卒ご了承下さいますようお願いいたします。m(_ _)m


2022/09/14 田沢湖町石神付近から。



「駒ヶ岳」の名前の山は全国に数多くある。
同じ名前なので、識別するため、頭に地域名を付けて呼ばれることが多い
(木曽駒ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、会津駒ヶ岳、大沼駒ヶ岳など)。
秋田駒ヶ岳は奥羽山脈の北部、秋田岩手の県境付近にある山で、
最高峰の男女岳も含め、主要なピークは県境より秋田県側に突出している。
そのためか「秋田岩手」駒ヶ岳ではなく、「秋田」駒ヶ岳と呼ばれている。
略して「秋田駒」、もっと縮めて「秋駒」とも呼ばれる。
ところで私は長年、秋田県の最高峰を鳥海山だと思っていたが、
正しくは秋田駒ヶ岳の一峰、男女岳(おなめだけ)(標高1637m)だそうだ。
鳥海山の山頂部は行政区分上、山形県になっている(詳細はこちら)。
秋田県の最高地点は山頂ではなく、鳥海山東斜面の約1750mの地点になっている。

秋田駒ヶ岳はあまり高くないが、気候や地質の影響もあり、
高山植物の種類、量が非常に多く、国内でも有数の花の名山だと言われる。

そのおかげだろう。この山の花を語る記事は数多見かける
が、山の姿が話題になることは非常に少ない。

たまに有ったとしても、昔は(山と渓谷社のガイド本などでは)
「もっさりして見てくれの悪い山」などと好くない評判ばかりだったが、

私はけっしてそうは思わない。
その姿は鳥海山やすぐ近くの岩手山に較べたら、少し地味かもしれないが、

このお山、見る角度(ポイント)と時期を選べば、なかなか好い姿をしていると思う。

たまには、この山の姿形に関して、語ってみるのもいかがかなと思い、
本稿を立ち上げて見た。

なおこの山は奥羽脊梁山脈のただ中にあるため、
人が多く住む低地から見えにくい。
見える範囲は秋田、岩手でも限られている。

秋田側では仙北市の旧・田沢湖町付近と、少し離れて大仙市大曲付近くらいだ。
また山名、駒ヶ岳の由来とされる「駒」の形の雪形は
いつ頃どこで見られるものなのか知られていない。

私はこの山を田沢湖町の郊外、石神付近や田沢湖の西岸から眺めることが多い。
冒頭の写真は石神付近から見たもの。
その姿は颯爽とした男岳と丸みをおびた女岳の双耳峰だ。
強いて似たような姿の山を探すと、猪苗代湖湖畔から見た磐梯山あたりか。

夏場はあまりパッとしないかもしれないが、
冬場や早春など、雪がある時期はこれがキリっとした姿に変わる。

2015/12/24 田沢湖町石神付近から。 


今回、眺めたポイントの幾つかを下のマップに記してみた。



田沢湖の西岸、辰子姫像のある潟尻付近から眺める駒ヶ岳は素晴らしい
(ただし田沢湖スキー場には目をつむること)。

ここからは北(左)奥に乳頭山も見える。

2023/03/11 西木町潟尻から。 


湖面に映る逆さ秋田駒も素晴らしい。
ところで女岳の右に冬でも黒い山肌が見える。

ここは風の通り道になるようで冬でも雪が付かない。
大焼砂とも呼ばれ、国内有数のコマクサ、タカネスミレの生育地でもある。

2015/03/16 西木町潟尻から。


田沢湖町でも少し北、田沢や鎧畑に行くと、男岳の左肩に男女岳(おなめだけ)が顔を出し、

三つのコブが並ぶ山に変わる。
男女(おなめ)とはお妾さんの意味で、
ふだんは男岳のかげに隠れて見えにくいのでそのような名前が付いたのか、

しかしこのピークが秋田駒ヶ岳では最高峰だ。

2015/03/16 田沢湖田沢から。


大仙市大曲郊外の平地からも秋田駒ヶ岳は見える。

ただし距離があるせいか、またコンパクトな姿にまとまっているためか、
姿は小さく、
地元での認知度もあまり高くない。
こちらでは男岳と横岳が主体の丸っこい姿に変わる。
なおこの平地からは右奥に岩手山の山頂部も少し見える。

2018/03/07 大曲郊外から。



岩手側からも秋田駒は見える。
しかし奥羽山脈越しに見ることになるので、低地から見える場所は限られており、
盛岡市や雫石盆地から遠く眺める程度だろうか。
その姿は緩やかで控えめな印象だ。

雫石盆地から眺めると、北側に湯森山、笊森山などの更に緩やかな火山が連なっている。
こんなに平坦な火山地形は国内では珍しいと思う(が、実はすぐ隣の三ッ石山付近にも有った)。

2017/05/04 雫石町から。


秋田駒ヶ岳をクローズアップ。
秋田(田沢湖)側から見た姿とは随分と違う。女性的な印象だ。

2017/05/04 雫石町赤渕付近から。


岩手側雫石からの秋田駒ヶ岳は横岳が前面になり、
秋田側のピークはその陰に隠れて見えにくい。

2022/05/10  雫石町赤渕付近から。


モルゲンロートの秋田駒ヶ岳。


2023/03/11 雫石町安栖から。


秋田駒ヶ岳の北側には八幡平の山群が連なっており、近くに平地は無いため、

北側の平地からその姿を望むことは不可能だ。
ただしアスピーテラインを走り、秋田側の八幡平山頂近くまで登ると、その姿を望むことが出来る。

2018/06/18 アスピーテライン大深沢展望台から。


乳頭山山頂に登ると、やや西寄りの南にその姿を望むことが出来る。
ここからは天気が好ければ、鳥海山や田沢湖も一緒に眺めることが出来る。
八幡平、乳頭山など北側から見た秋田駒は右に男女岳、左に横岳が主体となる。

2019/09/17 乳頭山山頂から。

 


続いて、ちょっと変わった場所から、秋田駒ヶ岳を眺めてみた。

北上山地の姫神山山頂からは岩手山の左奥に笊森山や乳頭山などと一緒に並んで見える。

2022/05/10 姫神山山頂から。


早池峰山から望む姿は雫石町から見た姿に似ている。
右側に湯森山や笊森山が連なっている。

2017/06/06 早池峰山から。


奥羽山脈、南隣の和賀岳から見ると、南部カルデラが大きく口を開けていた。

2018/10/21 和賀岳(小鷲倉)から。



大仙市大曲の西にある大平山(姫神山)(387m)に登ったら、
秋田駒ヶ岳と岩手山がすぐ隣にあるように並んで見えた。

2018/12/02 大仙市の大平山(姫神山)から。


秋田市に近づくと、秋田駒は見えにくくなるが、由利本荘市との境にある高尾山の中腹付近まで上がると上の方が見える。
形は田沢湖から見たものと同じだ。
なおここでは岩手山が秋田駒の左側に移り、山頂だけ出ている。

2017/05/02



秋田市市街地から秋田駒ヶ岳は見えない。

これは東にある太平山地のかげになるためだ。
奥岳の山頂(1170m)に着くと、初めてその姿を望むことが出来る。
その姿は田沢湖田沢から見たもの(上から5枚目)と同じだった。

2020/05/24 太平山奥岳から。


以上。


秋田駒ヶ岳はどんなお山?/パーツ紹介」へ続く。

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秋田駒ヶ岳はどんなお山?/パーツ紹介

2023年12月31日 | 秋田駒・乳頭/花と山容

(本頁は「秋田駒ヶ岳はどんなお山?/山容編」の続きです。)

秋田駒ヶ岳の全体的な姿形については、
拙ブログ、「秋田駒ヶ岳はどんなお山?/山容編」で語ったばかりだが、

この山は複式火山なので、それを構成するパーツに関しても
少し触れておかないと分かりにくいと思う。

パーツとは、大まかには南北に開いた二個のカルデラとその中に生じた数個の中央火口丘、
さらにはカルデラが形成される前の旧い火山体の名残りなどが該当する。

秋田側の山麓、(仙北市)田沢湖町中生保内付近から望むと、
秋田駒ヶ岳は左が男岳(1623m)と右が女岳(1513m)の双耳峰になっている。

2022/05/10



秋田側の代表的な登山口、八合目は北側の標高1300m付近にある。
そこから見ると、秋田駒のパーツは男岳、女岳ではなく、
最高峰の男女岳(おなめだけ)(1637m)に替わっている。

代表的な登山道・新道コース(片倉コースとも呼ばれる)は
男女岳の右側をトラバースしながら高度を稼いで行くが、

このトラバース道、厳密には男女岳ではなく、旧火山体の名残りのひとつ、片倉岳を登っている。

2021/09/01


ここで下のマップをご覧頂きたい。



フィールドガイド日本の火山4 東北の火山(高橋正樹+小林哲夫・編、築地書館・発行)によると、

昔の秋田駒は今よりも少し高く、標高1700mを超える成層火山だったと言われている。
約1万3千年前にこれが大崩壊し、南側に径約3キロ×約1.5キロの
楕円形のカルデラ(仮称:南部カルデラ)が出来ている。

このカルデラの中には女岳、小岳、南岳(火口が姿見ノ池になっている)の三個の火口丘が出来ている。
ムーミン谷とも呼ばれる馬場ノ小路はこのカルデラの北側に残った火口原ということになる。
年代は不明だが、秋田駒ヶ岳には北側にもやや小規模なカルデラが出来ている(仮称:北部カルデラ)。
片倉岳は旧火山の名残りで、
北部カルデラの外輪山にもなっている。
なお北部カルデラはその後に生じた火口丘、男女岳にほぼ埋め尽くされている。

南側に残った火口原は阿弥陀池、浄土平の湿原になっている。
男岳と横岳、その間の馬ノ背は南北のカルデラの間に残った旧火山の名残りだろうか。

秋田駒の山体はコンパクトながらも、中身は斯様にけっこう複雑な地形構造になっている。
これらの複雑なパーツを効率よく眺めながら歩くには、
秋田側の八合目を起点に新道コースを歩いて
男岳に登り、
その後、ムーミン谷(馬場ノ小路)に降下、大焼砂の稜線を登って横岳に登頂、焼森を経由、

しゃくなげコースを通って八合目に下るルートがベターかなと思っている。

よって本稿ではこのルートを辿りながら、秋田駒ヶ岳の各パーツを語ってみる。
新道コースは、片倉岳の山腹をトラバースして行く関係もあり、初めは割としんどい登り坂が続く。
晴れていれば、森吉山や八幡平など北側の山々の眺めが段々と好くなる。
赤土の広場とも呼ばれる片倉岳展望台に至ると、道は緩やかになり、
西側も開けて目の前に田沢湖が見え出す。

2023/08/23


左側には最高峰の男女岳(おなめだけ)が見える。

ここから見る姿は丸くずんぐりとしており、初夏は覆面レスラー(あるいはスパイダーマン)
のお面を連想して思わず笑ってしまう。

2021/06/17


赤土の広場からは、北側の山々の眺めも素晴らしい。

ここからは割と近場の森吉山や焼山、八幡平、乳頭山、三ッ石山のみならず、
視程が好ければ、白神山地や岩木山も望める。

2017/09/05


赤土広場から先はハイマツや低木林の間をゆるやかに登って行く。
途中は花も多く、右手には田沢湖、遠く鳥海山も見える。

やがて目の前に三角形の男岳が現れる。
男岳は1623m、最高峰ではないが、
田沢湖方面から望めば、秋田駒の前面に颯爽と聳えており、主峰として位置づけられる。

2022/09/14


途中から登山道は木道に変わり、とても平坦な草原の間を行くようになる。

ここは北部カルデラ底にある火口原の一部で、場所によってはお花畑になっている。
ほどなくして目の前に阿弥陀池が見えて来る。
右側の山並みは男岳と横岳を結ぶ馬ノ背の稜線で、今回はこの稜線に登り、男岳の山頂をめざす。

2022/09/14


稜線に上がり、男岳に登り出してから、右手を振り返ると、奇麗な富士山型のお山が見える。

このお山、実はあの酷い面相の男女岳(おなめだけ)なのだが、
男岳から望むと全く別人のような美形に変わるので驚いてしまう。

「男女(おなめ)=お妾さん」だから旦那(男岳)に対しては特別に好い顔を見せているのだろうか。

2022/09/14


男女岳の右奥に見えるのは岩手山だ。

またここからは阿弥陀池も望まれる。

2022/09/14


視程が好ければ、男岳山頂のやや右に鳥海山も見える。

2022/09/14


男岳の山頂からの眺めは素晴らしい。

ここからは鳥海山と同一視野に田沢湖も見える。
左側の端に見える小さな池は姿見の池で、

南部カルデラの南端に噴出した南岳の火口湖になっている。
その手前の黒いのは・・・

2017/09/05


手前に見えた黒いものは女岳が1970~71年の噴火で流した溶岩だった。

女岳(1513m)は秋田駒の南部カルデラに噴出した最大の中央火口丘。
いまだに噴気を上げている活火山でもある。

女岳が噴火するのは、男岳が妾を囲って浮気しているからとも言われる。

下写真は男岳と馬ノ背の鞍部(男岳分岐)から眺めたもので、奥に見える山々は和賀山塊だ。
なおこの鞍部と女岳との間の谷間はムーミン谷とも呼ばれる馬場ノ小路だ。
そこに至るには急な斜面を約150mほど降下しなければならない。

2021/06/17


落石に気を付けながら、慎重に斜面を下りると、谷底には初夏ならばシラネアオイが、
盛夏以降はエゾニュウが繁茂する草原になっている。

また女岳斜面にはチングルマの群生地もあり、花盛りの頃の谷底は天国のような場所だが、
ここにはクマも棲んでるようなので注意されたし。

2023/06/26


ムーミン谷(馬場ノ小路)の中心付近には駒池がある。

ここから眺める夫婦山(女岳や男岳)の眺めも素晴らしい。

2015/08/16


駒池を過ぎると、大焼砂の領域に入る。

黒い火山砂礫の中を歩くようになり、コマクサの姿もちらほら見かけるようになる。
小岳の脇を掠めると、国見温泉からのルートと合流する。合流点の標高は1364mと聞く。

2023/06/26


合流点(1364m)からは稜線(横長根)上の道を歩いて横岳の山頂(1583m)に向かう。

標高差は200m以上有るが、コマクサやタカネスミレなどの高嶺の花が咲き乱れ、
夫婦山(女岳や男岳)の眺めが素晴らしい坂道が続く。

2015/08/16


既に歩いて来たムーミン谷や駒池を見下ろす。バックは男岳。

2015/08/16


横岳から大焼砂の稜線や小岳、ムーミン谷を見下ろす。

2022/09/14


横岳山頂から馬ノ背稜線に少し踏み込むと、今度は女岳と男岳の間から田沢湖が見える。

2022/09/14


横岳から男女岳と阿弥陀池、浄土平を望む。

2023/06/26


横岳からは男女岳には向かわず、焼森に向かって下りて行く。

焼森の山頂に至ると、今度は男岳、男女岳が並んで見える。
これはこれで微笑ましい風景とも言えるが、男女岳の手前のガレ場はいったいどうしたことか。

2021/09/01


初めてこれを見た時はちょっとショックだったが、
たぶん鉄さびのせいだろう。ここから始まる沢は赤倉沢と呼ばれる。
後は樹林帯に突入し、八合目に到着する。

2014/09/15 赤倉沢を挟んで笹森山山麓から秋田駒を眺める。



賛否両論あるかもしれないが、
秋田駒ヶ岳は遠くから眺めても、肉薄しても(実際に登っても)好いお山だと私は思う。

以上。

コメント (2)
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