(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
登山を再開してほどない頃、七月上旬の八幡平に行ってみた。
山頂部にはまだ雪が少し残っていたが、
それを越えて八幡沼の湿原に下りたら、次のような花風景に遭遇した。
2014/07/05 八幡沼の湿原にて。
雪が融けたばかりの湿原に小雪が舞い降りたように無数の白い小花が咲いていた。
翌年、近くの別場所でも同様の花風景を見た。
2015/07/06 八幡平山頂近くの湿原にて。
ヒナザクラは以前、他の山で侘しく数本咲いていたのを見ていた
が、こんな咲き方も有るんだなと再認識した。
ウィキペディアによると、
『ヒナザクラ(雛桜、学名:Primula nipponica)は、サクラソウ科サクラソウ属の多年草。高山植物。
学名は、「日本のサクラソウ」の意味。
根茎は短く、その上に5-10個の葉を束生させる。
葉は倒卵形で肉質、長さ2-4cm、幅1-1.5cmになり、先端には5-9個の大型の鋸歯がある。全体に無毛。
花期は6-7月。花茎の高さは7-15cmになり、先端に2-8個の花を散形につける。
苞は線形で、花茎の先に輪生する。
萼は深く5裂する。花冠は白色で径1cmになり、花喉部は黄色になり、5深裂し、裂片はさらに2浅裂する。
果実は径3mmの蒴果となる。
日本特産。本州の東北地方に分布し、西吾妻山を南限、八甲田山を北限とする。
多雪地の亜高山帯の湿原、雪田草原、湿った草地に生育する。
鳥海山を基準標本産地とする。早池峰山、岩木山には分布しない。』
とあった。
基準標本産地の鳥海山にヒナザクラを見に行った。
2020/06/24 大平ルート河原宿から鉾立ルート賽の河原にかけての雪渓を見下ろす。
以前、ヒナザクラを見た(と記憶している)場所を、
6月下旬に訪ねたら、ご覧の通り、まだびっしりと雪渓に覆われていた。
2020/07/30 大平ルート河原宿のヒナザクラ
同じ場所をひと月後に通ったら、今度はちゃんと咲いていた。
この花はやはり雪の生まれ変わり、『雪の子』なんだと思った。
この子にもっと近づいてみる。
2014/07/05 八幡沼の湿原にて。
2015/06/21 秋田駒ヶ岳にて。 2019/07/15 笊森山にて。
2020/07/17 鳥海山にて。
ここで、突然、鮮やかなマゼンタのサクラソウを。
2015/06/11 岩木山のミチノクコザクラ
ミチノクコザクラ Primula cuneifolia var. Heterodonta は青森県岩木山の固有?種。
学名からもお分かりの通り、後述のエゾコザクラとは変種の関係、ただし花はやや大きいと言われる。
エゾコザクラ Primula cuneifolia var. cuneifolia が出たので、以前、大雪山で見た花風景を報告しておく。
2017/07/28 大雪山にて。
ヒナザクラと同様、雪渓や雪田が後退した後の平坦地にそれは群生していた。
こういうタイプのサクラソウ類を仮に『雪の子タイプ』と呼ぶとしよう。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、このタイプ、
P. cuneifolia もヒナザクラ P. nipponica もハクサンコザクラ亜属にまとめられていた。
旧植物生態研究室(波田研)のホームページによると、
『エゾコザクラ Primula cuneifolia var. cuneifolia は日本では北海道にのみ見られるが、
国外では千島、オホーツク海沿岸、アラスカからカナダまで分布する、小形の多年生草本。
本州に見られるハクサンコザクラに比べてひと回り小さな可憐な植物である。
森林限界より上部に見られ、雪田や湿性草原中に群生。大雪山では高山帯全域に広く分布する。
草丈は10センチ程度で、根際に10枚前後のへら形の葉を叢生する。
花期は6月下旬から8月中旬で、花茎を伸ばし、その先に2センチ程度の紅紫色の花を1~6個、散形状に咲かせる。』
とあった(一部略)。
2017/07/28 大雪山にて。エゾコザクラ。
1993/07/15 白馬岳にて。ハクサンコザクラ。
参考までに右上に白馬岳で見たハクサンコザクラ Primula cuneifolia var. hakusanensis を載せてみたが、
こちらもエゾコザクラとは変種の間柄。本州の飯豊山から白山にかけての日本海側高山に分布と聞く。
学名の種小名で見ると、cuneifolia はどうやら、北は北米アラスカから、オホーツク沿岸を経て、
北海道、南は本州北陸地方の白山まで広範囲に分布する種類とわかった。
ところが(岩木山以外の)東北地方では、一旦途切れて、白花のヒナザクラ P. nipponica に置き換わっている。
白とマゼンタが共存する山は無い。
朝日連峰と飯豊連峰は隣り合っており、植物相がとてもよく似ているが、この仲間だけは違っている。
前者はヒナザクラ、後者はハクサンコザクラとなっている。
何故そうなったのかはわからない。
雪の子タイプのサクラソウの分布はやはり不思議だ。
高山性サクラソウ類の東北地方・分布マップ
ここで再度、ヒナザクラを。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳にて。
2018/06/16 笊森山のヒナザクラ
2020/06/24 鳥海山のヒナザクラ
早池峰山は太平洋側にあり、積雪が少ない。そのため、雪渓や雪田は無いが、
初夏(6月上中旬)に行くと、蛇紋岩の急斜面のあちこちに小さな白花のサクラソウがパラパラと咲いていた。
ヒナザクラにとてもよく似ているが、これは別種のヒメコザクラ Primula macrocarpa だ。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
後述のユキワリソウ亜属に分類されており、ヒナザクラとは系統が違う。北上山地固有フロラとされる。
2017/06/06 早池峰山にて。ヒメコザクラ。
ヒメコザクラの生育場所は乾いた岩場だった。
2017/06/06 早池峰山にて。
初夏(6月上中旬)に焼石岳を訪ねると、
山頂近くの風衝草原(姥石平や東焼石岳)や崩壊地で、ピンクの小さなサクラソウを見かける。
ハクサンコザクラに似ているが、花は一回り小さく、ピンクはやや青みがかった印象。
ユキワリコザクラだ。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
『ユキワリコザクラ Primula farinosa subsp. modesta var. fauriei は、
ユキワリソウ亜属のユキワリソウ Primula farinosa subsp. modesta の変種で、
葉が広く、広卵形または楕円形で、下部が急に狭くなって柄状になり、葉の縁が裏側に多少とも強く反り返り、
不明瞭な波状の歯牙がある。南千島、北海道東部と南部、本州北部に分布。』
とあった。
2021/06/10 焼石岳のユキワリコザクラ
2017/06/17 焼石岳のユキワリコザクラ
ユキワリコザクラは東北では他に岩手山や蔵王連峰(不忘山など) にもあると聞く。
なお焼石岳にはヒナザクラも有り、場所によって群生しているが、湿った場所を好み、
ユキワリコザクラと混生することはなかった。
以上。
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