Storia‐異人列伝

歴史に名を残す人物と時間・空間を超えて―すばらしき人たちの物語

「知る」と「わかる」

2005-11-08 21:44:05 | 音楽・芸術・文学
 
先月は10月28日、わがムスコお世話になった高校の創立十周年記念式典。
ひざの上にネコのムスコどのは、きわどく卒業!したが今年もセンタ試験準備中。妻は、いまだにPTA会報誌の手伝いをしており、こちらはいわば留年!? 

式典では、大江健三郎氏に講演をしていただいたという。
参列した妻の言によれば、「難解な本と文章表現と違ってとても分かりやすい講演、話しぶりだった」とのこと。義兄だった伊丹十三さんの話もされていた由。

僕も大江さんの講演は何十年か前、仙台での成人式にて聞いている。むしろ、このために行ったようなもの。
会場で待ち合わせたRちゃんは美容院が遅れとうとう会えずじまい!?
その後も、世田谷近くにいた頃は、息子さんを自転車に乗せて散歩中の姿や、駅前で買い物中の大江さんを何度か見かけたこともあったが...恐れ多くて。

今日の朝日新聞2005年11月8日文化欄 大江さんの「伝える言葉」に載っている。
全文は新聞によることとして、前半を書写させていただき記憶にとどめておきたいと思う。

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「伝える言葉」       大江健三郎

「知る」と「わかる」   <中見出し: 反復し「さとる」足場に>

 宮城の高校の十周年記念の催しに話に行きました。少子化が進むなかで新設された公立高校ということに関心をひかれたのと、依頼の封筒に、校長先生と二年生の女子生徒の手紙が入っていたのに好意を持ちました。
 生徒は、「知る」ことより「わかる」ことへの手がかりになる話を聞きたいと、書いていました。私は、「知る」と「わかる」と自分がどのように区別して使っているか、ふりかえることから準備をはじめました。
 こういうとき私は和英や和仏の辞書を参考にします。また、柳田国男はどうか、を見ます。柳田の全集の索引には「尻」の例、「若」の例は多いけれど、両語ともありませんでした。柳田が、「まなぶ」から「おぼえる」へと深めていく、意味の読み取りと並べてみることにしました。

 「知る」から「わかる」と進むことで、知識は自分で使いこなせるものとなります。そして柳田は「おぼえる」の次に「さとる」を置きますが、私は「わかる」の先にも「さとる」があるように思います。それは、知ったことを自分で使えるようにすることから、すっかり新しい発想に至ることです。
 私はこうした話を糸口にしたのですが、それはこのところテレビ番組の「知る」ことを軸にしたクイズが若い視聴者から年配の人たちまでをとらえていると感じるからです。私自身、家族の脇から答えてみて、国語知識の穴ぼこに気が付いたりしました。
 テレビでは、この前まで「ウンチク」ブームでしたし、しばらく前は、次つぎ多方面な知識を示してゆくクイズの解答者に、私は大食家の競い合いと同様、驚異を感じたものでした。しかし、こうした互いに脈絡のない知識の集積よりは、「わかる」「さとる」へとつないでゆくことに教育があるだろう、とも感じていたのです。

「知る」ことに始まり、「わかる」ことでしっかり身につけ、様ざまな事象について考えることを言葉にする。
表現する・主張する・代弁する・これらをE・W・サイード Edward Wadie Saidはひとまとめにrepresentという英語で表現して、そうした個人こそ社会の役に立つ知識人だと定義しました。私は、テレビのクイズ番組が養成しているのは、むしろ豆知識・人じゃないかと思います。

(...以下 失礼ながら、略 )

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コメント
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