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大川原有重 春夏秋冬

人は泣きながら生まれ幸せになる為に人間関係の修行をする。様々な思い出、経験、感動をスーツケースに入れ旅立つんだね

メッテルニヒ

2010-01-13 17:00:00 | 気になる本のこと
『メッテルニヒ』塚本哲也著(文藝春秋)を1月5日から読み始め、先日ようやく読み終えることができました。塚本哲也さんは8年以上前に脳出血で右半身が麻痺し、右手が不自由にもかかわらず、パソコンを左手だけで操作し、メッテルニヒという重厚かつ味わい深い労作を上梓しました。18世紀後半、フランス革命後のナポレオンとの直接交渉をめぐるメッテルニヒの卓越した外交手腕をめぐる文章は冴え渡っていて、とても感動します。また、オーストリアのフランツ皇帝との生涯変わらぬ友情も生き生きと活写され、当時の状況がまるで昨日の出来事であるかのように浮き彫りにされています。塚本さんは1929年生まれ、ウィーン、プラハ、ボンに駐在していた経験と見聞をもとにヨーロッパの外交上、重要な政治家としてメッテルニヒの評伝を書き上げました。博覧強記の知識人、複眼的思考の持主、塚本哲也さんの本著のなかで、特に当時の音楽家についての記述は大変興味深くためになります。

なによりも歴史をパースペクティブに俯瞰する著者の眼と頭脳は冴え渡っており、明晰な思考力と知力からくり出される豊富な語彙、美しい文体が素晴しいです。また様々なエピソード、特に音楽、文学、哲学をめぐる人的交流の記述には脱帽しました。歴史とは、詩と真実を織り交ぜられるもの。記憶と伝説と記録というフィルターを通じた想像力の賜物を歴史とよんでもいいのかも知れない。『メッテルニヒ』は、18、19世紀のヨーロッパ史のある断面を切開し、現代に生きる我々に知的遺産として重要な示唆と証はもちろん、歴史的教訓と問いを投げかけてくれる骨太な書物だと思います。

苦難を乗り越えていくのが人間の歴史の歩みである。塚本哲也


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