既に全体で2万字超えてるけど収集つくのかこれ……?
何はともあれ久々のお小説になります。
タグの小説もしくはキーワードの「うさぎ小屋」で検索していただければ全話ヒットします。
もう俺も最初の方よく覚えてないので、整合性は取れていないかもしれません。
でも頑張って書いてるので読んでくださいませませ。
うさぎ小屋⑩
曾我さんの下宿は大学から歩いて15分ほど東にあった。オートロックの玄関を入ると小綺麗な廊下が続き、突き当りに階段がある。1つ上のフロアに上がると、すぐ左手のドアが曾我さんの部屋だった。
「電車じゃないんですね」
「電車は嫌い」
そういえばあの日、蔵橋さんと曾我さんは車で出鰍ッて行ったっけ。そんなことがもう大昔の出来事のように感じられた。
「シャワー浴びろよ。ずっと風呂入ってないだろ?」
「ああ、うん。ありがとう」1週間以上野ざらしだった体を女子の家に持ち込んでいる時点で相当引け目を感じていた僕は、遠慮なく曾我さんの家のシャワーを借りた。久しぶりの温かい水に体が溶け出していくようで、このまま一生浴びていたいという気持ちに駆られた。
曾我さんの部屋はいわゆる2DKという間取りで、玄関から続く廊下には浴室とひとつめの部屋のドアがあり、廊下の奥にあるダイニングの更に奥に、もうひとつの部屋へと続くドアがあった。
しばらくシャワーに夢中になっていると、不意に浴槽のドア越しに人影が見えた。何かを期待していたつもりはないが、不本意ながら僕はどぎまぎした。
「パンツ買ってきたからタオルと一緒にここに置いとくぞ。ジャージは私のだから小さいかもしれないけど、無いよりはマシだろ」と、コンビニの袋をガサガサと鳴らしながら曾我さんが言った。
「わざわざありがとうございます」と言いながら、僕は少しでも平静を失いかけた自分の気持ちを恥じた。
浴槽を出ると、洗濯機の上にコンビニ特有の淡色のボクサーパンツと白いバスタオル、そして長袖のジャージが置いてあった。体を拭いてジャージに袖を通してみると、思いの外サイズはぴったりだった。
先ほど通されたダイニングに戻ると、テーブルの上にグラスが2つ用意されていた。
「よし、じゃあ飲むか」と言いながら、曾我さんは冷凍庫で冷やしていたビール瓶を取り出し、僕のグラスに注いでくれた。
「エチル倶楽部の部員として、アルコールへの依存と敬意を忘れてはならない」自分のグラスにもビールを注ぎながら、曾我さんが楽しそうに言った。
「曾我さんはあまり部室に来ないですよね」
「部室に顔を出すだけが活動じゃないさ――では、猪島の人間復帰を祝して。乾杯」
「乾杯」
そういえば酒も久しく飲んでいなかった。グラスを合わせて一口飲むと、キンキンに冷えたビールが食道を這って胃に吸い込まれていくのがよく分かった。
「どう?」と言いながら両手で頬杖をつく曾我さんの姿を見て、僕の中にあった曾我さんへの警戒心は少しずつほぐれていった。
「最高」僕は久しぶりの喉越しに感動すら覚えながら呟いた。
曾我さんはそんな僕を見ながら満足げな表情で、喉を鳴らしながら3分の1ほど減らしたピールをコトンとテーブルに置いた。豪快な飲みぶりの割に、音は控えめだった。
「最近エチル倶楽部には顔を出してないんだね?」
「そうですね。色々ありまして」
「いけないね。授業には出なくてもエチル倶楽部には顔を出しておかないと」と言って、曾我さんは残ったビールを一気に飲み下した。「あれは稀有な良サークルだよ」
「どうして?」
「社会人が仕事以外でコミュニケートする機会は少ない。そして、その限られた機会の多くは飲み会という場に更に限定される。エチル倶楽部はメンバーが身銭を切って取り揃えた多種多様な銘柄のお酒に触れることで、酒に対する知識を得ることができる」
「かなり真っ当な理由ですね」
「そう。でも、それより重要なのは、アルコールを摂取した自分を知ることができる点だ。どんな酒を飲んだ時、自分はどうなるのか。陽気になるのか、センチメンタルになるのか。説教くさい話が多くなる? すぐに眠くなってしまう? 相手のキャラクターや関係性によってどう変わっていくのか? ……様々な場において、自分がどうありたいのか、そのためにはどの程度のアルコールが必要なのか。それらを客観的に知ることは、ある種どんなサークルよりも社会人生活に直結すると考えられないか?」曾我さんは瓶に残ったビールを僕のグラスに注ぎ、それでも余った分を全て自分のグラスに流し込んだ (グラス半分ほどになった) 。
「曾我さんはサークル活動を通じてアルコールと自分との関係性を客観的に位置付けることに成功したと?」
「まだまだ。でも、私の場合は解離性同一性障害があるから、周囲との関係性は1:Nではなく2:Nになる」
「解離性同一性障害って二重人格のことですか?」
「そう。田村や小嶋から聞いてたと思ってたけど」と曾我さんは何事もなく言う。
「はい、一応聞いてはいましたけど……どこまでオープンな話か分からなかったので」
「オープンでいいよ。ただし、世の同じ状態を抱えている人が皆同じようにオープンとは限らないから気を付けてくれ」と曾我さんは言った。強い方の曾我さんはどこか説教くさい感じがした。「そして、もう片方の人格の私も」
曾我さんの最後の言葉の意味を測り兼ねた僕は、何となく部屋の壁に目をやりながらグラスを傾けた。
「私は彼女の人柄を知っているが、彼女は私の人柄を伝聞でしか知らない」少しの沈黙の後、曾我さんが続けた。「彼女は興奮状態や緊張状態になると無意識的に身を潜めてしまう。一定以上のアルコールを摂取した場合も」
「そうすると今の曾我さんが出てくるということですね」
「簡単に言えばそういうこと。彼女が潜ってしまうのは無意識的な行為だから、私が出てきてみたら見覚えのない場所にいる、なんていうことも昔はよくあった」
「昔は?」
「エチル倶楽部に入ってアルコールとの接し方を色々と試した。彼らにも随分協力してもらった。おかげで、彼女はどういう状況になると潜ってしまうのかに気付き、私はどういった状態の時に表舞台に押し出されるのかを学んだ。あの部室にはそういった大らかさがあり、時間があり、協力的な姿勢がある」ここまで一気に話して、曾我さんはグラスに半分残ったビールを一気に飲み干した。
僕は今泉さんのことを曾我さんに聞きたくなった。だが、どんな切り出し方をすればいいのか分からず、結局聞かずにいた。結局、その夜は633mlの大瓶を2人で4本飲んだ。
午前2時頃になり「そろそろ夜も更けてきたので帰りますね」と僕が言うと、「どこにどうやって帰るんだよ。しばらく泊めてやるから新しい住まいと金策を早く済ませて社会復帰してくれ」と言われた。
曾我さんは2つある部屋の玄関に近い方に布団を敷き、B5サイズのキャンパスのノートを取り出した。「一通りのことは彼女に伝えておくけど、もし彼女が気付いていないようであればノートを見るように伝えてほしい」
そして曾我さんがリビングの奥にある自室に戻った後、僕は今日1日の出来事を思い出し「長い1日だったな」と呟いてそのまま眠りに落ちた。意識が聡恚@で一気に吸い込まれた後のような、真空の眠りだった。
何はともあれ久々のお小説になります。
タグの小説もしくはキーワードの「うさぎ小屋」で検索していただければ全話ヒットします。
もう俺も最初の方よく覚えてないので、整合性は取れていないかもしれません。
でも頑張って書いてるので読んでくださいませませ。
うさぎ小屋⑩
曾我さんの下宿は大学から歩いて15分ほど東にあった。オートロックの玄関を入ると小綺麗な廊下が続き、突き当りに階段がある。1つ上のフロアに上がると、すぐ左手のドアが曾我さんの部屋だった。
「電車じゃないんですね」
「電車は嫌い」
そういえばあの日、蔵橋さんと曾我さんは車で出鰍ッて行ったっけ。そんなことがもう大昔の出来事のように感じられた。
「シャワー浴びろよ。ずっと風呂入ってないだろ?」
「ああ、うん。ありがとう」1週間以上野ざらしだった体を女子の家に持ち込んでいる時点で相当引け目を感じていた僕は、遠慮なく曾我さんの家のシャワーを借りた。久しぶりの温かい水に体が溶け出していくようで、このまま一生浴びていたいという気持ちに駆られた。
曾我さんの部屋はいわゆる2DKという間取りで、玄関から続く廊下には浴室とひとつめの部屋のドアがあり、廊下の奥にあるダイニングの更に奥に、もうひとつの部屋へと続くドアがあった。
しばらくシャワーに夢中になっていると、不意に浴槽のドア越しに人影が見えた。何かを期待していたつもりはないが、不本意ながら僕はどぎまぎした。
「パンツ買ってきたからタオルと一緒にここに置いとくぞ。ジャージは私のだから小さいかもしれないけど、無いよりはマシだろ」と、コンビニの袋をガサガサと鳴らしながら曾我さんが言った。
「わざわざありがとうございます」と言いながら、僕は少しでも平静を失いかけた自分の気持ちを恥じた。
浴槽を出ると、洗濯機の上にコンビニ特有の淡色のボクサーパンツと白いバスタオル、そして長袖のジャージが置いてあった。体を拭いてジャージに袖を通してみると、思いの外サイズはぴったりだった。
先ほど通されたダイニングに戻ると、テーブルの上にグラスが2つ用意されていた。
「よし、じゃあ飲むか」と言いながら、曾我さんは冷凍庫で冷やしていたビール瓶を取り出し、僕のグラスに注いでくれた。
「エチル倶楽部の部員として、アルコールへの依存と敬意を忘れてはならない」自分のグラスにもビールを注ぎながら、曾我さんが楽しそうに言った。
「曾我さんはあまり部室に来ないですよね」
「部室に顔を出すだけが活動じゃないさ――では、猪島の人間復帰を祝して。乾杯」
「乾杯」
そういえば酒も久しく飲んでいなかった。グラスを合わせて一口飲むと、キンキンに冷えたビールが食道を這って胃に吸い込まれていくのがよく分かった。
「どう?」と言いながら両手で頬杖をつく曾我さんの姿を見て、僕の中にあった曾我さんへの警戒心は少しずつほぐれていった。
「最高」僕は久しぶりの喉越しに感動すら覚えながら呟いた。
曾我さんはそんな僕を見ながら満足げな表情で、喉を鳴らしながら3分の1ほど減らしたピールをコトンとテーブルに置いた。豪快な飲みぶりの割に、音は控えめだった。
「最近エチル倶楽部には顔を出してないんだね?」
「そうですね。色々ありまして」
「いけないね。授業には出なくてもエチル倶楽部には顔を出しておかないと」と言って、曾我さんは残ったビールを一気に飲み下した。「あれは稀有な良サークルだよ」
「どうして?」
「社会人が仕事以外でコミュニケートする機会は少ない。そして、その限られた機会の多くは飲み会という場に更に限定される。エチル倶楽部はメンバーが身銭を切って取り揃えた多種多様な銘柄のお酒に触れることで、酒に対する知識を得ることができる」
「かなり真っ当な理由ですね」
「そう。でも、それより重要なのは、アルコールを摂取した自分を知ることができる点だ。どんな酒を飲んだ時、自分はどうなるのか。陽気になるのか、センチメンタルになるのか。説教くさい話が多くなる? すぐに眠くなってしまう? 相手のキャラクターや関係性によってどう変わっていくのか? ……様々な場において、自分がどうありたいのか、そのためにはどの程度のアルコールが必要なのか。それらを客観的に知ることは、ある種どんなサークルよりも社会人生活に直結すると考えられないか?」曾我さんは瓶に残ったビールを僕のグラスに注ぎ、それでも余った分を全て自分のグラスに流し込んだ (グラス半分ほどになった) 。
「曾我さんはサークル活動を通じてアルコールと自分との関係性を客観的に位置付けることに成功したと?」
「まだまだ。でも、私の場合は解離性同一性障害があるから、周囲との関係性は1:Nではなく2:Nになる」
「解離性同一性障害って二重人格のことですか?」
「そう。田村や小嶋から聞いてたと思ってたけど」と曾我さんは何事もなく言う。
「はい、一応聞いてはいましたけど……どこまでオープンな話か分からなかったので」
「オープンでいいよ。ただし、世の同じ状態を抱えている人が皆同じようにオープンとは限らないから気を付けてくれ」と曾我さんは言った。強い方の曾我さんはどこか説教くさい感じがした。「そして、もう片方の人格の私も」
曾我さんの最後の言葉の意味を測り兼ねた僕は、何となく部屋の壁に目をやりながらグラスを傾けた。
「私は彼女の人柄を知っているが、彼女は私の人柄を伝聞でしか知らない」少しの沈黙の後、曾我さんが続けた。「彼女は興奮状態や緊張状態になると無意識的に身を潜めてしまう。一定以上のアルコールを摂取した場合も」
「そうすると今の曾我さんが出てくるということですね」
「簡単に言えばそういうこと。彼女が潜ってしまうのは無意識的な行為だから、私が出てきてみたら見覚えのない場所にいる、なんていうことも昔はよくあった」
「昔は?」
「エチル倶楽部に入ってアルコールとの接し方を色々と試した。彼らにも随分協力してもらった。おかげで、彼女はどういう状況になると潜ってしまうのかに気付き、私はどういった状態の時に表舞台に押し出されるのかを学んだ。あの部室にはそういった大らかさがあり、時間があり、協力的な姿勢がある」ここまで一気に話して、曾我さんはグラスに半分残ったビールを一気に飲み干した。
僕は今泉さんのことを曾我さんに聞きたくなった。だが、どんな切り出し方をすればいいのか分からず、結局聞かずにいた。結局、その夜は633mlの大瓶を2人で4本飲んだ。
午前2時頃になり「そろそろ夜も更けてきたので帰りますね」と僕が言うと、「どこにどうやって帰るんだよ。しばらく泊めてやるから新しい住まいと金策を早く済ませて社会復帰してくれ」と言われた。
曾我さんは2つある部屋の玄関に近い方に布団を敷き、B5サイズのキャンパスのノートを取り出した。「一通りのことは彼女に伝えておくけど、もし彼女が気付いていないようであればノートを見るように伝えてほしい」
そして曾我さんがリビングの奥にある自室に戻った後、僕は今日1日の出来事を思い出し「長い1日だったな」と呟いてそのまま眠りに落ちた。意識が聡恚@で一気に吸い込まれた後のような、真空の眠りだった。