「ただいま」
帰宅した古代の顔が嬉しそうにほころんでいる。
「おかえりなさい。今日は通院だったのでしょ?病院で何か良いことでもあったの?」
と、雪が問うのに
「凄い物が手に入ったんだ。まさか手に入るとは思わなかったよ。」
古代が少し興奮気味に嬉しそうに話す。
こんな風に古代が興奮気味に話すことなど、ここしばらく無かったことだ。
その身に巣食っている病の為に、いつも静かで穏やかだったからだ。
それを判っているだけに、雪も古代の話に興味を持った。
「まあ、何かしら?あなたがそんなに興奮するなんて」
古代が手に入れて喜ぶもの…。それは本当に限られた物。
物欲などほとんど無いに等しい古代だからだ。
その古代が喜ぶものと言えば…。雪にはおぼろげに想像ができた。
「何かの植物でも?」
「!よく判ったね、雪」
古代が目を丸くする。
フフフと雪が小さく笑う。
だってあなたのことですもの。とは口にはしない。
「種なんだ。」
「種?何の?」
古代が上着のポケットから、小さく丁寧にたたまれた紙包みを取り出し、広げる。
そこには小指の爪ほどの大きさの3粒の種があった。
「見た事があるような気もするけど…判らないわ。」
少しおどけたように、降参して雪が言う。
その様子に古代が微笑む。
「これはね、桜の種なんだ。」
「まあ、桜?」
雪が驚く。
まだ地上の木々は少なく、管理されたエリアにしか植樹されていない。
その種子も管理されており、一般人が植物の種を手に入れることは非常に困難だったからだ。
花々はそれでもまだ一般の手に渡るようになってはいたが。
「うん。桜の種。個人で保管していた方がいらっしゃって。
色々話しているうちに分けて下さったんだ。」
いつも細かな経緯は説明しない古代のこと。
桜の種についても詳細には触れることはないが、この嬉しそうな様子から、古代が相当熱心だったであろうことは想像に難くなかった。
それにしても。と、雪は思った。
「よく個人で桜の種を保存してらしたわね。保存状態も環境を整えなくちゃいけないと思うし。」
「僕も詳しくは尋ねなかったんだ。プライバシーにも関わりそうだしね。
でも植物のことに詳しくて、こと、桜についてはとても熱心な方なんだよ。
おっといけない。種を蒔くまでは冷蔵庫に入れておかなきゃいけないんだ。」
と、慌ててキッチンに向かう古代を雪は微笑んで見ていた。
それが秋の事だった。
冬、古代と雪は鉢に桜の種を蒔いた。
種の持ち主からのレクチャー通りに。
そして。
「雪!雪!」
古代が大きな声で雪を呼ぶ。
「どうしたの?」
「見てごらんよ」
キッチンからリビングに顔を出した雪に古代が手招きをする。
「ほら!」
嬉しそうに古代が指差すその先には、冬に桜の種を蒔いた鉢があった。
そして、その鉢には小さな緑の芽が芽吹いていた。
「芽が出たよ。スゴイや。
遊星爆弾で地表が汚染される前に採取されてから今までずっと眠っていたのに。
ずっと種のままだったけど、ちゃんと生きていたんだ。」
あまり感情をストレートに表さない古代が、心底から喜んでいる。
その姿に雪は嬉しさを感じていた。
ガミラスの遊星爆弾や太陽の核融合異常増進で失われた自然が、不安定ながらも蘇ってきていることに。
小さな命の力強い芽吹きを目の当たりにしたことに。
それを喜ぶ古代の姿を見ることができたことに。
「花が咲くまでどれくらいかかるのかしら?」
雪が尋ねるのに古代が答える。
「早くて5年ぐらい。もっとかかるかもしれない。
もっと成長したら、地面に植え替えてあげないとね。
花が咲くのが楽しみだなあ。」
古代の言葉が未来を語る。
病を得てから、塞ぎがちだった古代が数年後の未来を語った。
その言葉に雪の胸にはこみ上げるものがあった。
「ええ、あなたと一緒にこの桜の花を見たいわ。」
「僕もだよ。雪。
5年後になるか10年後になるか判らないけれど、一緒に見よう。」
小さな芽吹きは二人に確かに春の訪れを感じていた。
そして、二人の未来も共に。
*****************************************************************
あとがき。
完結篇後。オリジナル設定です。美雪ちゃんはいません。
植物の種子は科学局あたりで管理されていそうなのですけど、深い突っ込みは無しにして。
案外と人懐っこい古代くん。個人で桜の種子を保存していた人から分けてもらっちゃったよ。ってことで。
桜って、新しい始まりを連想すると共に、再生というイメージもあります。
ハイパー放射ミサイルの影響で病を得てしまった古代くん。
病がいつか癒えて、また立ち上がってくれることでしょう。
このお話は、震災後に自分の心の平衡感覚を取り戻そうとして書いたものです。
先にも書いたように、桜には再生というイメージを持っています。
被災地が復興し、日本がまた元気を取り戻せますように。と、願っています。
帰宅した古代の顔が嬉しそうにほころんでいる。
「おかえりなさい。今日は通院だったのでしょ?病院で何か良いことでもあったの?」
と、雪が問うのに
「凄い物が手に入ったんだ。まさか手に入るとは思わなかったよ。」
古代が少し興奮気味に嬉しそうに話す。
こんな風に古代が興奮気味に話すことなど、ここしばらく無かったことだ。
その身に巣食っている病の為に、いつも静かで穏やかだったからだ。
それを判っているだけに、雪も古代の話に興味を持った。
「まあ、何かしら?あなたがそんなに興奮するなんて」
古代が手に入れて喜ぶもの…。それは本当に限られた物。
物欲などほとんど無いに等しい古代だからだ。
その古代が喜ぶものと言えば…。雪にはおぼろげに想像ができた。
「何かの植物でも?」
「!よく判ったね、雪」
古代が目を丸くする。
フフフと雪が小さく笑う。
だってあなたのことですもの。とは口にはしない。
「種なんだ。」
「種?何の?」
古代が上着のポケットから、小さく丁寧にたたまれた紙包みを取り出し、広げる。
そこには小指の爪ほどの大きさの3粒の種があった。
「見た事があるような気もするけど…判らないわ。」
少しおどけたように、降参して雪が言う。
その様子に古代が微笑む。
「これはね、桜の種なんだ。」
「まあ、桜?」
雪が驚く。
まだ地上の木々は少なく、管理されたエリアにしか植樹されていない。
その種子も管理されており、一般人が植物の種を手に入れることは非常に困難だったからだ。
花々はそれでもまだ一般の手に渡るようになってはいたが。
「うん。桜の種。個人で保管していた方がいらっしゃって。
色々話しているうちに分けて下さったんだ。」
いつも細かな経緯は説明しない古代のこと。
桜の種についても詳細には触れることはないが、この嬉しそうな様子から、古代が相当熱心だったであろうことは想像に難くなかった。
それにしても。と、雪は思った。
「よく個人で桜の種を保存してらしたわね。保存状態も環境を整えなくちゃいけないと思うし。」
「僕も詳しくは尋ねなかったんだ。プライバシーにも関わりそうだしね。
でも植物のことに詳しくて、こと、桜についてはとても熱心な方なんだよ。
おっといけない。種を蒔くまでは冷蔵庫に入れておかなきゃいけないんだ。」
と、慌ててキッチンに向かう古代を雪は微笑んで見ていた。
それが秋の事だった。
冬、古代と雪は鉢に桜の種を蒔いた。
種の持ち主からのレクチャー通りに。
そして。
「雪!雪!」
古代が大きな声で雪を呼ぶ。
「どうしたの?」
「見てごらんよ」
キッチンからリビングに顔を出した雪に古代が手招きをする。
「ほら!」
嬉しそうに古代が指差すその先には、冬に桜の種を蒔いた鉢があった。
そして、その鉢には小さな緑の芽が芽吹いていた。
「芽が出たよ。スゴイや。
遊星爆弾で地表が汚染される前に採取されてから今までずっと眠っていたのに。
ずっと種のままだったけど、ちゃんと生きていたんだ。」
あまり感情をストレートに表さない古代が、心底から喜んでいる。
その姿に雪は嬉しさを感じていた。
ガミラスの遊星爆弾や太陽の核融合異常増進で失われた自然が、不安定ながらも蘇ってきていることに。
小さな命の力強い芽吹きを目の当たりにしたことに。
それを喜ぶ古代の姿を見ることができたことに。
「花が咲くまでどれくらいかかるのかしら?」
雪が尋ねるのに古代が答える。
「早くて5年ぐらい。もっとかかるかもしれない。
もっと成長したら、地面に植え替えてあげないとね。
花が咲くのが楽しみだなあ。」
古代の言葉が未来を語る。
病を得てから、塞ぎがちだった古代が数年後の未来を語った。
その言葉に雪の胸にはこみ上げるものがあった。
「ええ、あなたと一緒にこの桜の花を見たいわ。」
「僕もだよ。雪。
5年後になるか10年後になるか判らないけれど、一緒に見よう。」
小さな芽吹きは二人に確かに春の訪れを感じていた。
そして、二人の未来も共に。
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あとがき。
完結篇後。オリジナル設定です。美雪ちゃんはいません。
植物の種子は科学局あたりで管理されていそうなのですけど、深い突っ込みは無しにして。
案外と人懐っこい古代くん。個人で桜の種子を保存していた人から分けてもらっちゃったよ。ってことで。
桜って、新しい始まりを連想すると共に、再生というイメージもあります。
ハイパー放射ミサイルの影響で病を得てしまった古代くん。
病がいつか癒えて、また立ち上がってくれることでしょう。
このお話は、震災後に自分の心の平衡感覚を取り戻そうとして書いたものです。
先にも書いたように、桜には再生というイメージを持っています。
被災地が復興し、日本がまた元気を取り戻せますように。と、願っています。
そっかぁ。
kooさんの桜に対する想いがよく伝わりますわ。(*^o^*)
コメントありがとうございます。
そういう唄もありましたっけねぇ(笑)
実が熟する→さくらんぼ って連想してしまって、あの唄を聴くたびにさくらんぼがチラチラしますw
普段、桜に対して特別な思い入れなどは無かったと思っていたのですが、いざ書こうとしたら"桜"が自然に浮かんできました。
季節的に無意識に選んだのかもしれませんけれど。
春(=再生)の、象徴のようなものだからでしょうか。
ヤマト艦長代理の顔から開放された日常は、きっとこんな感じで自然大好き青年なんだろうな。
さらヤマで地球がコスモクリーナーで元に戻った時、緑も回復していたのを見た時、
「ああ、きっといろんな地域で植物の種を大切に保管していた人々がいたんだろうな」
と思っってました。
この桜の種は、きっと日本の人。
古代邸の庭で育つ桜に
「お父さんなんか…」
とプンスカいいながら水を上げている美雪ちゃんが、この後にいたりするのかな?www
コメントありがとうございます!
バラン星の人工太陽の一件で、古代くんが動植物に詳しい→自然大好き。て、事になってますね(笑)
そうあって欲しいという、思いもありますけども。
決して好戦的なだけの人間じゃないんだってね。
植物の種を持って地下都市に逃れた人がいるだろう。って事に気付いたのは、ごく最近です、はい(汗)
さらヤマの時に既に着目していらっしゃったとは、さすが、さこはしさん!
地球連邦政府だけでは、1年足らずで地球を緑化するなんて無理でしょうからね。世界中の心ある人達が結束して緑化に当たったでしょうね。
その後の、太陽の核融合異常増進の危機も乗り越えて。
古代くんも、そんな人に出会えて心底嬉しかったでしょう。
つい熱く語ったりしちゃったりしてねw
ブツクサ言いながら桜に水やりする美雪ちゃん!とても美雪ちゃんらしいツンデレっぷり。
子供の頃はきっと親子3人でお花見してたことでしょう^^
平和なヤマト世界…想像するとキリがないです。