五行歌でつづるノスタルジー
ミニ歌集『時の栞』
尾崎まこと
木の陰で
脱皮しても
脱皮しても
また蛇
わが思春期
遠い花火が開いて消えた
遅れて音がやってきた
唇が今ごろ
あなたの名前を呼んだ
これはなんという花火?
わけもなく楽しい日々に
たった一つのわけが来て
哀しみに立ちつくした
わけもなく美しい
夕暮れに囲まれて
自分が死ぬということを
納得できかねて
ジャックの豆の木のように
ベッドから空に伸びてきた
あなたの腕を抱いた
三度あなたの名前を呼んだ
二度、瞬いて答えてくれた
三度目
答えはあなたを連れて
帰ってこなかった
追えばどこまでも逃げる
不思議な地平線を見つめ
僕は立ちつくしてしまった
ここがあなたの見ている
地平線の上であると知らずに
優しいあなたは
花のように
教えてくれた
ここが
わたしのまん中よ
少年時代
昼間は青い帽子を
夜は星の帽子を
被っていた
地球のように
わたしという本
軽いキスは
時の栞
深いキスは
命の栞
海は地球を四十億年洗い続けた
洗っても洗っても落ちなかったものが
陽に焼けて飴湯を呑んで
その子どもの手を握り
長い影を曳いて帰っていった