尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

くしゃみ

2006年12月31日 13時41分51秒 | 詩の習作
会社を首になった
と云うようなことではない
妻が印鑑のセールスマンと浮気をしていた
と云うようなことでもない
明るみに出てくしゃみするよりも
もっと些細なことで
この人は生きてはいけないだろうと
左手の上に右手を重ね
自分のことをそう思ってきた

小学校の門をくぐったが
いきなり教室を忘れてしまい
校庭の奥の藤棚の下に座っていた
空っぽの校庭の四隅からは
子供たちが一斉に椅子を引き
立ち上がる音や元気な挨拶が
青い空に
夢のように立ちのぼっていた

校庭の正面から
駆け足でやってきたのは
授業のない
校長先生か教頭先生だったのだろう
名札を見て僕を
藤棚の影から引き出した
そのとき僕はきっと
くしゃみをしたのだろうと思う
くしゃみして振り返ると
僕はまだ
藤棚の下にいたのだ

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