尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

山は名前のあるものだろうか

2006年12月19日 10時00分42秒 | 詩の習作
生駒山
二上山
金剛山
信貴山…
しかし山は名前の
あるものだろうか

山は峠に
超えられるもの
だろうか

峠を越えたとき
名前のないものの
圧力に負けて
僕は
振り返った
それから
大声で山の名を呼ぶ
フタカミヤマ!

答えないのが山だ
そんなことは
分かっている
シーンとするのが山だろう
叫びの中で
叫ばななかったのが俺だろう
山と一緒になって

俺は名前の
あるものだろうか

真夜中
ふいに
霧が切れ
僕の肩のような
峠が現れた
その峠を越えたとき
振り返ったのは
誰なのだろうか
声の出ない声で
僕の名前のない名前を
呼んでくれたのは
誰なのだろうか

生まれなかった
僕の
子供なのだろうか
そんなことは
分からない
しかし
彼は
これから先も
ずっと
名前のないもの
だろうか
この寂しい肩が
無くなれば
どこを
歩いていくのだろうか

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除名

2006年12月17日 18時30分08秒 | 詩の習作
どこでも除名され続けてきた
まだ人の名前があるのが不思議だ
いずれにしろ最後に
自分で自分の名前を呼んで
終わりだ
金太郎!

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蝶を六匹

2006年12月17日 00時47分05秒 | 詩の習作
胸を指で押し潰し
蝶を六匹
殺す夢を見た
覚めてからも
指にその感触が残った

蝶とは
昔の女のことだったのか
それとも
詩のことだったのか
誤魔化さないでおこう
蝶を六匹
殺す夢を見た
どっと疲れた

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五行歌「山頭火…」

2006年12月15日 22時54分16秒 | 五行歌・自由律俳句
満員の地下鉄の中に
山頭火ひとり
肩身を狭くして
もういいだろう?
と、笑っている



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五行歌「空が言う…」

2006年12月15日 22時25分21秒 | 五行歌・自由律俳句
長い夜が明けて
見上げれば
空が僕に言う
そこが私の
まん中です

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五行歌ミニ歌集 『時の栞』

2006年12月11日 21時44分27秒 | 自選詩集

五行歌でつづるノスタルジー
     ミニ歌集『時の栞』    
              尾崎まこと


木の陰で
脱皮しても
脱皮しても
また蛇
わが思春期


遠い花火が開いて消えた
遅れて音がやってきた
唇が今ごろ
あなたの名前を呼んだ
これはなんという花火?


わけもなく楽しい日々に
たった一つのわけが来て
哀しみに立ちつくした
わけもなく美しい
夕暮れに囲まれて


自分が死ぬということを
納得できかねて
ジャックの豆の木のように
ベッドから空に伸びてきた
あなたの腕を抱いた


三度あなたの名前を呼んだ
二度、瞬いて答えてくれた
三度目 
答えはあなたを連れて
帰ってこなかった



追えばどこまでも逃げる
不思議な地平線を見つめ
僕は立ちつくしてしまった
ここがあなたの見ている
地平線の上であると知らずに


優しいあなたは
花のように
教えてくれた
ここが
わたしのまん中よ


少年時代
昼間は青い帽子を
夜は星の帽子を
被っていた
地球のように


わたしという本
軽いキスは
時の栞
深いキスは
命の栞


海は地球を四十億年洗い続けた
洗っても洗っても落ちなかったものが
陽に焼けて飴湯を呑んで
その子どもの手を握り
長い影を曳いて帰っていった
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7行ミニ詩集「ラブレター」

2006年12月10日 23時41分52秒 | 自選詩集
7行ポエム『ラブレター』
尾崎まこと


 ポスト

この秋の
深い空のどこかに
赤い切り傷のような
ポストの入り口は隠されていないか
ふいに明るい音がして
あなたからの手紙が
降りてくるのだ



 カシオペア

天の川からの流れ者は
窓辺のあなたへ片想い
銀の針のように光ってみます
ママに叱られただけなのに
北斗七星で首をくくってはいけません
カシオペア座でブランコしてなさい
さようなら



 スイッチ

煙草を消して
テレビを消して
明かりを消して
おっと 窓の外の星も消して
そっとキスして
この深い夜にぽっと灯す
あなただけを


 凧
 
見えなくなったけれど
細い絆を握りしめている
地上の小さな手を信じる
胸の結び目にその力を感じ
僕は青い階段を駆け上る
てっぺんではくるくる回り
それから逆さまに落ちてあげる



 8月のダイヤモンド

逆光の海に
くびれた黒いあなたが立つと
水平線は地球の首飾り
幾重にも押しよせてきて
あなたの背中に
ダイアモンドをぶちまける
欲望のかわりに

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2006年12月08日 10時59分45秒 | 詩の習作
私は石組みの
高い塔である
屹立のその角度は
蛇でさえそりかえり
銀の腹を光らせ
神が投げた棒のように落ちていく

至上の楽しみは
頂上の物見から
前をたゆたう川の
山の方の始めと
海の方の終わりを
幾度も目で辿り目眩することだ
わき起こる不思議な郷愁は
このような超人の人生を
かつて私は生きたこともあるのだろう
しかし今
私は朝霧の多い
石組みの塔である

霧が晴れれば
この孤立の角度に
旅人が頭と背をあずけ
その来歴の 筋のない 寂しい
青い天を仰ぐことがある
そのために
影のような人の形の
石のくぼみもできはじめたが
緑色の蛇が落ちてきて
爬虫類と人類の
二つの悲鳴が木霊し
私の追えない小さな旅が
ふたたび始まるのだ
蛇も人もそれぞれの
記憶の海を探す川である

コメント (2)
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水母(くらげ)

2006年12月06日 23時28分06秒 | アバンギャルド集
とうとう
頭蓋骨が透明である
黄色い脳のヒモを
寒い海に垂れ流してみる
自虐であるにしろ
自分というものが
切れそうで切れないで
意外に長いとわかる
そのうちに
光る魚たちが集まる
魚という金属に
叙情はわからない
擦れ合う鱗(うろこ)の
キンキンと音がするだけ
脳と腸を間違えている
詰まっているモノが問題だ
おぞましい
父の乳房の筋肉とか
そそくさ
脳のヒモを回収する
その場所が
腹か頭かわからない
あなたがたも

わたしが
水の母である

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ほんとうの朝

2006年12月05日 21時11分04秒 | 詩の習作
夜を越すと
わたしがいる朝が来る
夜を越すと
わたしがいる朝が来る
夜を越すと
わたしがいる朝が来る
夜を越すと
わたしがいる朝が来る
夜を越すと
わたしがいる朝が来る 
ふいに
越せない夜がきて
わたしのいない朝が来る
哀しむことはない
その夜が
ほんとうの夜で
その朝が
ほんとうの朝だ

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大仏の作り方

2006年12月05日 20時20分15秒 | アバンギャルド集
あなたの皮膚が
超えられない国境です
痛い言葉で身体に
無数のピンホールを
あけるのです
あなたの中に
小人が住んでおれば
国境は
高原で見あげる
満天の星のようでしょう
ある限度を超えれば
皮膚はめくれあがって
すかすかの
まばゆい
大仏のできあがり

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関取ならぬ席取り

2006年12月04日 23時43分22秒 | 日記
始発の駅のプラットに
ほとんどで先頭に並んでいたのに
扉が開くと人に押されてくるくる回ってしまい
座れない

せっかく座れても
必ずお年寄りが前に立つ

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2006年12月04日 21時20分15秒 | 詩の習作
光のほこりを地平線へ
掃きよせている手
光のほこりを
地平線の向こうへ
掃きだしてしまった
ぶ厚い黒い
皮の手
死んだ父の手
指紋の消えた
厳しい手

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おとり釣り

2006年12月04日 20時57分09秒 | 詩の習作
弱った振りをして
あるいは本当に弱って熱を出し
都会の川の川上に
自分で自分を放り投げ
ゆらゆら流されてみる
お人好しの神様をつるんだ

つれるんだ
骨を抜いて
おいしく食べてくれるんだ

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ミニ詩集「海」

2006年12月02日 20時22分31秒 | 自選詩集
 
 
 [浜辺]


昼も夜も
海は地球を
洗っている
四十億年洗っても洗っても
落ちなかったものが
夕方
陽に焼けて
飴湯を呑んで
その子どもの手を握り
長い影を曳きながら
帰っていった



  [釣り人]


怖ろしく
静まりかえった池だなあ
この宇宙というやつは

そのまん中あたりに
まん丸いお月様が
銀の光の釣り糸を
一本垂らしている

 お月様 
 まるであなたは
 地球という青い魚を
 釣りあげているようですよ

いいえわたしは
この地球で
神様を釣るのです



  [少女]


夏休みも
終わりのころ
まじめなあなたは
とっくに宿題も終え
なんだかとても退屈で
海で拾った
青いビンの口を
耳に押しあて
潮騒のリズムを
懐かしんでいた

もっと退屈すると
自分をビンにして
逆さにしたり
揺さぶったり
遠くへ放り投げたり
息を荒くし
そして 
あなたは発見したね
自分が
宿題のない
海であること



   [夏の犬]


僕は歯と歯の間に
誰にも見えない海を
皿のように一枚くわえて
一夏 すたこらと
街を駆けています

遊びほうけたあなたを
涼しい汐風とともに
すばやい影が追いこしてゆき
びっくりさせたなら
それは僕です

さゞ波の反射が
しわくちゃの銀紙のように
まばゆいので
振り返った 風の犬 
目を細めて
笑っているように
見えましたか

それとも
振り返った 蒼い犬
もうすぐ泣きだしそうに
ゆがんで見えましたか
岸辺の風は遠かったですね

夏がいま 
赤い舌を垂らして
走って行きました




[見えない岸辺]


 ほんとうの海を見せてあげよう

父に手を引かれ
はじめて海を見た朝
驚く僕の小さな胸から
羽ばたく音がして
鳥が空に 白い軌跡を描いたのだった
水平線の向こうの
見えない岸辺の方へ

 これが海だよ

果てしのないまぶしさに
少し怖くなって父の顔を見上げた

 僕はこの海を渡りきれるだろうか

    *

 もう一度一緒に飛ぼうよ

ようやく同じくらいの大きさになった翼を
動かなくなった父の翼に重ね
蘇生のため一夜風を送り続けたが
一筋の涙を落として
父が最後に見たものは
見えない岸辺ではなかったか

父の年を追い越しても
僕に息子はできなかった
それでも海を感じると
あの朝の白い羽音の
いのちの列が聞こえてくるのだ

今また 真新しい翼が答えている
 これが海だね



  [提灯アンコウ]


俺というほの白い
ちっぽけな照明では
この海は深すぎる
この海は広すぎる
この闇は
静かすぎるのだ

砂時計の砂の代わりに
降りそそぐ海雪と
斑点のある
ゆがんだ岩石の顔だけを
俺は妖しい幻灯のように
映し出している

そう 奴は
見るからに醜い岩石である
純然たる岩石が
地球誕生以来
鉱物の沈黙する激怒の果てに
今 命を得たのだ

クレバスのような口が
顔全体を斜めに横断している
腹をへらしては
俺を手旗信号のように
激しく振る

奴も俺も
繋がっているので
次から次へと降りそそぐ
白い時間を睨み
しかし時間は食えないので
もう 泣き笑いだ

四十億年
何も食ってないよ 




  [真珠貝の唄]


わたしは石のように硬くて 
閉ざされた目蓋の形をして
深い海の底に置かれています
自分の吐き出した砂粒でさえ
見ることはないでしょう

遠い呼吸のような 
繰り返される潮騒の音に
耳を澄ませています
果てしない夜と
果てしない昼と
果てしない夢と

果てしなく
広がってゆく
気持ちのその真んなかで
たった一つ
痛みとともに結晶していく 
小さな星があるのです

地球は
こんな形じゃないかしら
あなたは
こんな形じゃないかしら


 
  [浦島]


昔話では 白い煙が上がって
大人のために 悲劇で終わっているが
ほんとうは もう一度女に会おうと海に出て
子供のために 笑って死んだ

太郎!

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