ダイビングサービス
午前十時。ダイビングサービスを訪れた。
カウンターには白人(ドイツ人らしい)と現地人のみ。
かたことの日本語・おぼつかない英語では意思の疎通が難しい。
他のことならともかくことは水中である。
・・・十一時四十五分頃、日本人ガイドが帰ってくることが解った。
M美はチェックダイブが気がかりである。
「アイ ド・・・ドント ライク トゥ・・・チェックダイブ」カウンターのスタッフに向かって訴えた。
「アホ!」後ろから後頭部を突いた。スタッフが笑った。
「そういう者にこそチェックダイブが必要なんだゾ」
スタッフの一人がY子の手首のサンフィッシュを目にして何やら話しかけてきた。
その男の手首にもサンフイッシュが。話を要約するとそれはプレゼントされた物らしく価格を知りたいのだった。
「250$だ」と伝えると驚いていた。
他のレジャー用品もそうだが日本のダイビング用品の価格は非常に高い。
「そんなベラボーな!」と言う顔をされても当然かもしれない。
※サンフィッシュ (見出し画像)
デジタル式腕時計・水深計付き・五本分のダイブ記録が保存できる。アポロブランド・カシオ製(ダイブコンピューターに非ず)
Y子の物とは同じモデルの色違い。私が予備に購入していた。未使用であるが流石に電池寿命が尽きていた。
ちなみに当時私の愛用していたダイバーズウォッチ 耐圧200m 水深計付き
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いったん部屋に戻り、とりあえずシュノーケリングである。
マスク・シュノーケル・フィン・ブーツを取り出しファブリックスーツを着込んだ。
玄関前に置いてあるバケツに水を満たした。(部屋に入る前にこれで足を洗い砂を落とす)
レストランから失敬してきた茹で卵とパンを二つほど持っていざ出陣。
三人にやや遅れて海の中へ。
「ぽーさん、スーツはいらないよ」とE君。
「いや、寒さには弱いので」と答えたが本当は怪我対策。
珊瑚にへたに触れると擦り傷はあたりまえ。その種類によっては炎症をおこしたりする。
パンをちぎって投げると魚が集まってきた。海面に波が立った。
M美の周辺に集中して投げた。魚の群れに襲われているかのようだ。(危害を加えられることは無い)
茹で卵は更に集魚率が良い。私の周りに集まって来た魚の群れを視て白人の男が近寄って来た。
「ライス?」私が日本人故にそう訊いたのか?。
「ノー ボイルドエッグ」茹で卵を見せた。
男は針金を持っていた。先端を釣り針状に曲げてあった。
茹で卵を半分にちぎって渡した。
「サンキュー」男は卵を針金に刺していた。
だがそんな道具で釣りあげられる莫迦な魚はいない。
「こんな近くにクマノミがいますよ」とE君。
波打ち際から数メートルの浅瀬に根が点在している。
マスクを装着。潜水。!。・・・・透明度が悪すぎる。
陸から見たときにはクリアーな水が湛えられるように視えたのだが・・・・・・。
プランクトンの影響だろう。水平方向の透明度は5mほどか。
・・・・・写真いできる距離はせいぜい1mほどだろう。
さらにすっきりした画を望むならば50cmが限界かもしれない。
「ブルーサージョンがいる」M&Yがはしゃいでいる。
正確にはパウダーブルーサージョンフィッシュ。スズキ目、ニザダイ科。
ブルーの体色、背鰭が鮮やかな黄。モルディブを代表する魚の一種だ。グラビアでは何度も目にしていた。
モルディブを選択した理由の一つがこの魚を実際に目にして撮影することであった。どうやらそれは叶いそうだ。
水深1mをヘラヤガラが泳いで行く。
リーフの縁までは50mほどだった。ドロップオフの底は見えない。
スキンダイビングで水深5mくらいまで潜水。
タテジマキンチャクダイ。ニシキヤッコ。が優雅に泳いでいる。
その他チョウチョウウオが数種類。名前が判らない。魚を含めると一潜り千匹だ。
透明度は不満だが魚は期待できそうだ。
「サメー!!!!!!!!!」M美が叫び声をあげた。
リーフの外をホワイトチップがゆっくりと回遊している。
サメも何度も視ているとさほどの恐怖感は無い。ましてダイビングポイントに凶暴なサメがいるとファンダイビングはできない。
※ホワイトチップ 和名ネムリブカ(眠り鱶)
サメ(マグロなども)は泳ぎ続けないとエラ呼吸が出来なくて死ぬことが知られているが例外もありましてこれはその例外。
日中は洞窟内でじっとしているところをかなりみかけます。それが眠っているように思われたのでしょう。
性格は大人しく、馴れると人の手から餌を摂ることもある。
時計を視た。十一時になっていた。
「いったん上がろう。ダイビングサービスに行かなければ」三人を促した。
シュノーケリングをしながらビーチへ。イソマグロがリーフの上を泳いでいる。
十一時半。日本人スタッフはまだいなかった。三人をサービスに残して桟橋の前へ。
腰まで視ずに使って探索。そのうち我慢が出来なくなってレイバンをかけたまま素潜り。
分かってはいたが、やはりサングラスでは水中眼鏡の代用にはならない。
ドーニーがダイバーを満載して近寄って来た。桟橋に係留。
※ダイビングサービス ドアには日本のステッカーがやたら多い。
日本人スタッフは 田中 と言った。年齢は二十代半ばのように見えた。
あまり愛想が良いとは言えない。喋り方が少々変だ。日本に来ている外タレのそれだ。
書類を出された。誓約書だ。住所、氏名、その他諸々。
Cカードとログブックを見せて完了。
チェックダイブはY子のみ必要とのこと。一定以上の本数を消化している者は免れる。
「で、ここにいるとそういう話かたになってしまう訳?」
「エッ!・・・・・」
「日本にはたまに帰るの?」
「任期があと二ヶ月ですから・・・そうしたら帰りますよ」
「そのままじゃ社会復帰できないよ。いっそここに骨を埋めたらどうかな」
「いや。帰りますよ」
我々三人は今からでもダイビングOKだがY子のみ翌朝のチェックダイブを待たなければならない。さてどうするか?。
「三人で言って。私は待っているから」・・・と、言われても。
「とりあえず昼飯にしよう。話はそれからだ。
ダイビングサービスを出た。
「ラッキー!」M美が叫んだ。
「田中くーん。このオネーさんもチェックダイブした方がいいと思うよ」
「やめて、やめて、チェックダイブするくらいならダイビングしなくてもいい」 私の揶揄に小声で叫んだ。
M美はマスククリアに異常なくらい恐怖心を持っていた。本当にこう言う者にこそチェックダイブが必要と思うのだが。
※マスククリア アクシデント対策 水中でマスクを外し 再装着 マスク内の水を呼気により排出させる一連の作業
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