二本目 ボートダイビング ポテトリーフ
昼食を済ませると他は疲れたのかベッドに横になっている。
私はその間にフィルム交換。ネクサスのバックハウジングを取り外し、まずはフィルムを捲き戻す。
Oリングには懸念した通り細かい砂が付着していた。フロントハウジングから苦労して取り外した。
シャンプーでシリコングリスと共に洗い流す。水滴を拭って暫く乾燥。
フィルムを詰め替えた。レンズポートとスピードフラッシュはノータッチ。
Oリングにシリコングリスを塗布。再びフロントハウジングにはめ込む。
バックハウジングを取り付け錠。フィルム交換終了。この間約30分。
午後三時。ドーニーに乗り込んだ。
タンクが座席の下に置いてあった。セッティングを済ませた。
全員が乗り込んだ。出航準備完了。ドーニーが桟橋を離れる直前Y子がウェイトを忘れたことに気づいた。
ドーニーから飛び降り走った。
「ドジ!」
漸く離岸。向かいの無人島クダバンドスとの間を北上して行く。
※ドーニーから視たバンドス
※防波堤の先にあるのがクダバンドス。撮影日と時間帯は異なる。
スピードは確かに遅い。我が愛艇(30フィートのセールボート・ヨット)の機走スピードと変わりがない。
しかしゆったりと流れるモルディブ時間ではこのペースが適当な気もする。
田中によるブリーフィング。
「あなたたちは放っておいても大丈夫そうだけど、どうしますか?」
私のネクサスに目をやり訊いてきた。
撮影の為にはガイドの金魚のウンコよりもフリーの方が専念できるだろうとの配慮だろう。
少々考えた。だがバディはまだビギナーのY子である。
「・・・・・・どうしようかな?」
「こちらはチェックダイブを行ったくらいだからついてきて貰うけれど」とM美に向かって言った。
田中は勘違いをしていた。チェックダイブを受けたのがM美だと思い込んでいた。M美が不安そうな顔をしているので見誤ったのだろう。
「違うよ、チェックダイブを受けたのはこっちの方」笑いながらY子を指さした。
「それじゃだめだ」
Eと二人で組んで女性二人をガイドに任せられれば楽なのだが・・・。
「いや、いいです。一緒について行きます」
ドーニーが走り出して30分ほど経った。そろそろポイントであろう。
大半の物はドーニーに乗り込んだときにすでにウェットスーツを着込んでいた。
私もファブリックスーツを着ることにした。手間は掛からない。
アンカーリング。まずは日本人以外のグループがエントリー。
つづいて我々のグループである。田中がエントリー。単独参加の男。そしてM&Y。 ボートスタッフにネクサスを一時預け預けエントリー。
すぐに振り返ってネクサスを受け取った。E君がラストエントリー。潜行。
ポテトリーフ 水深25mほどの砂地に大きなこんもりとした根があった。その形からそう名付けられたポイントである。
根の上は水深約5m。透明度はやはり思わしくない。
田中の後に続いて更に深場に移動。
田中の合図。砂地にヒラメ、あるいはカレイ。かなり大きいが保護色でビギナーが発見するのは難しいだろう。
水深20m。やや暗い。ミノカサゴが数匹優雅に泳いでいる。
「来るなら来い。しかし痛い目にあうぞ」と言った感じか。
此奴は背鰭に毒を持っている。その背鰭の構造が独特で背鰭を立てるとその根っこの近くにつっかえ棒があり倒れないようになる。
大きな魚が丸呑みしたら地獄を見そう。毒はかなり強く死亡例もあります。下手にちょっかい出さなければまず大丈夫ですが。
しかし水中に浮遊物が多すぎる。レンズのヘリコイドが往復してピントがなかなか合わない。
ソフトコーラルに群れているのはキンギョハナダイの類だ。
田中が何かを包み込むようにしている。
・・・・・・イザリウオ?。だが体系がずんぐりしていない。(後に図鑑でハダカオコゼであることが判明)
黒っぽいウミウシ。今まで視たものよりだいぶ大きい。
※撮影した写真と図鑑を比較するとどうも扁形動物のヒラムシらしい。
ウミウシは軟体動物後鰓類。貝殻の無い巻貝のようなもの。英名もsea slug(海のナメクジ)
ついつい撮影に専念しているとバディの確認がおろそかになる。Y子がいない!。周辺を見廻し上下を捜す。
『・・・・・・いない』
透明度が悪い故に5mも離れると殆ど何も視えない。
更に目を凝らすと田中の前方にタンクの黄が幽かに見えた。
泳ぎ寄った。「ガイドを追い越すな」とハンドサイン。どうやら理解したようだ。ついでにエアチェック。まだ半分ほど残っていた。
M美はガイドにピッタリ。E君は少々上方で浮遊感覚を楽しんでいる。
単独参加の男はまだビギナーであろう。周囲に気を配る余裕がない。
ガイドにひっついていると写真は撮れない。いつものパターンで距離を取る。
濃紺に白色の渦巻。タテジマキンチャクダイの幼魚だ。成魚の文様とは全く異なる。
ちなみにタテジマキンチャクダイの成魚
名称の縦縞ですが???と思われる方も多いと想います。動物の縞模様は頭部を上、脚・尾を下にした状態で縦横を決めます。
ラガーシャツを着て横たわった場合縞は縦に見えますが縦縞のシャツとは言わないでしょう。
腹部分に付き纏っているように見えるのは「ホンソメワケベラ」
ほかの魚に近づき寄生虫などを食する。大型魚はホンソメワケベラを食することはほとんどなく、「共生関係」
ズームノブを回転。50mmに設定。スピードフラッシュを調節して近接撮影の用意。
ファインダーを覗いてシャッターレバーを半押し。
ファインダースクリーンに紺と白がが鮮やかに浮かび上がった。
閃光。更に追いかけて閃光。
残圧チェック。丁度100を残していた。Y子は80。M美もほぼ同等。E君は私より残っているはずだ。
田中の周りにまた集まっている。上から覗き込んだ。タコ!。シャッターを一枚切ってすぐに離れた。
数メートル離れた岩の隙間。タコ!。田中の見つけたものより大きい。
皆に知らせようかと思ったが感激は無いだろう。そう思い静かに離れた。
水深は約10m。多少明るさが戻って来た。
M美が田中に残圧計を見せている。少々あせった様子である。だがまだ残は充分な筈だ。
「もう少し余裕を持て」と言いたいが・・・・・・。
ガイドにピッタリ。残圧充分残し浮上。それが彼女のダイビングスタイルだから何も言えない。
田中は根の周囲に沿ってゆっくり深度を浅くして行った。
流れがだいぶ強くなってきた。
パーティを見失い程度に距離を取り撮影を続けた。
水深5m。頭上にドーニー。三人がロープに掴まっている。
残圧60。上が空くまで減圧停止。
田中が残圧を訊いてきた。ハンドサインで60。
フィルムが数齣残っていたが水上でも撮影可能なので気にしないことにした。
M & Y がドーニーに乗り込んだ。
浮上。E君を促して先に梯子を登らせた。ネクサスを預けて乗船。
タンクを降ろそうとするとボートスタッフが支えに来た。
「大丈夫だ。俺はそんなに軟ではない」掌を広げて制した。
タンクを降ろして振り返るともうすでにレギュレターを外されていた。そこまでのサービスはしてくれなくてもいいのだが・・・。
スタッフが金属製の皿に何かを載せて配りだした。コプラだった。「ノー サンキュー」
※ コプラ ココヤシの果実の胚乳を乾燥したもの。 灰白色で約40-65 %の良質脂肪分を含む。
午後五時。ドーニーが動き出した。甲板の上にはメッシュバッグその上にネクサス。
※ メッシュバッグ タンクを除くダイビング器材一式が入る大きさ。半分が網状で水が溜まらない。
面倒なときにはこのまま真水に漬けて水洗いをすることも。
隣の席の二十代半ば頃の白人の男。興味ありげにジーッと視ている。
ネクサスを持ち上げた。ポートキャップを外し持たせてやる。重量に驚いている。
ファインダーを覗く姿は珍しい玩具を初めて手にした子供のそれである。
「****************************?」
「・・・・・・?」難聴プラス英語緑不足で何を言っているのかよくわからない。
『!』私の怪しい英語力でも、どうやら「ハウジングの中身は普通のカメラか?」と訊ねていることが理解できた。
F4が普通のカメラと言えるかどうかは別として
「イエース ナイコン F4」
※Nikonは外国ではナイコンと発音されることが殆どあった。
男はうなづいている。
ズームノブを指し「廻してみろ」と手振りで伝える。
「Oh!」
桟橋が近づいてきた。単独参加の男が身を乗り出して何かを捜している。
「いや、女房が待ってるはずなのですが・・・『到着したところをビデオに録る』って、張り切ってたんですが・・・・・・」
「モルディブ妻の話、知りませんか?」
「・・・・・・?」
「亭主が一人でダイビングに現を抜かしていると・・・・・・日本に帰って十月もすると髪の毛や肌の色の違う子供が産まれる話・・・・・」
「・・・・・!。あっ、いました」女が一人木陰に寝そべって涼を取っていた。
翌日のボートダイブはバナナリーフ。予約を入れてダイビングサービスを後にした。
夕食を済ませると後は暇である。翌日のためにハウジングのセッティング。
そして恒例の絵葉書。今回は酒肴を変えて星印を用いる。
気温 ☆☆☆☆☆
水温 ☆☆☆☆☆
透明度 ☆
食事 ☆☆☆☆☆
帰りたくない度 ☆☆☆☆☆
バディ ☆☆
つ づ く