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三日目 実技(海洋実習)
午前九時 ホテルの前にやはり年季の入ったワンボックスカーが停まった。
運転席には見るからに体育会系の男。年の頃なら三十やや手前か。
「インストラクターのKOです」と名乗った。
車は一路、大渡海岸へ。
「ぽーさん。漁師ですって?」とKO。
「はー・・・・・?」少々面食らった。
「海士と一緒に潜ったことはありますがー、漁業をなりわいにしたことはありませんね」
「違うんですか?」
「ええ」何処からそんな話になったのか???。
たぶん、S氏との『Chapter 2 SCIENCE』講習中。異種金属接触腐食の話となり、
私がスクリュー(真鍮製)のシャフトにはジンクボール(亜鉛の塊)を取り付けて云々。
その後、一級船舶免許を保持していることを話したから、そのあたりからだろう。
※イオン化傾向憶えてますか?。
Li > K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H2) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
リッチに> 貸そう> か> な> ま> あ> あ> て> に> すん> な> ひ> ど> す > ぎる> 借 > 金
ちょっと懐かしくて。無視してください。
大渡海岸に到着。セッティング。
背後から賑やかな話声。昨日のP団体御一行様だ。
KOよりポイントの説明。リーフを重い器材を担いで200mほど移動するらしい。
少々気が重くなってきた。
漸くポイントへ到着。※N→見出し画像の遠くに見える岩場のその先。
振り返るとP団体は波打ち際のすぐそばの浅場へエントリー。※P→手前の水路
昨日のプールも早々と引き上げて行った。巷でささやかれているように本当に楽そうなカリキュラムのようだ。
もっとも私は充分それを承知してNAUIを選んだのだが。
BCにエアを充填。水面移動。透明度はかなりよい。
テーブル珊瑚や枝珊瑚が根付いている。魚影もなかなか豊富そうだ。
M嬢が浮き輪から延ばしたロープを7mの海底に固定。マスク越しにそれを眺めた。
ロープワークに関しては全くの素人だ。
ロープ潜行。海底まで伸びたロープを伝わりゆっくりと潜行。
耳抜き。懸念した通りやはり抜けが悪い。三人は早々と海底へ。
耳鼻咽喉系が悪いのは生まれつき。時間を喰うのは仕方がない。
痛みを我慢して潜行するような愚は犯す気は毛頭無い。
水深3mで鼻を抓み苦労をしているとKOが寄って来た。
ハンドシグナルで『耳か?』と訊く。
「そうだ」と頷く。
KOが首を傾けて「片方ずつ抜け」とのサイン。
しばし奮闘。常人の数倍かかって無事海底へ。
房総の海中とはだいぶ趣が異なる。例えて云うならアクアリウムの水槽の中。
錦鯉を泳ぐ宝石と称したコピーがあったが、それはこちらの魚にこそふさわしい。
原色の鱗を纏った数種のチョウチョウウオが、スズメダイが、まだ名前を知らない魚が珊瑚の陰から現れ消え、文字通り我々の周りを舞っている。
ニコノス(1990年に購入)を持って来れなったのが残念だ。
水中移動。フィンキックでゆっくりと周囲を一周。ロープ迄戻った。
ウェイトの脱着。KOがゆっくりと手本を示す。
ブラックスキンのスーツに身を固めたKOはなかなか雄々しい。
講習生が若いオネーサングループだったら惚れるのが一人や二人はいることだろう。
両脚を揃えて海底に座す。ベルトを外す。両脚の上に広げて浮き上がるのを防ぐ。ベルトを半分ずらして身体を反転。うつ伏せになって再び装着。
少々ぎこちなかったがどうにか形になった。
次はJ子さんの番である。
水中移動。ウェットスーツがだいぶくたびれているので保温性が非常に悪い。
一馬身ほど遅れてフィンキック。こっそり排尿。振り返って視る。海水に着色は見られない。
マスククリアー。本日はマスクを完全に頭から外す。
眼は開いたまま。
被りやすいようにストラップを前に廻して顔に合わせる。ストラップを後頭部にかける。
挟まった髪の毛を直してマスク上部を抑える。鼻から呼気。完了。
完璧だ。OKサイン。
いよいよJ子さんの番。KOの指示でJ子さんがマスクを外した。もたついている。
突然J子が浮上を始めた。パニック!。
急浮上は生命に関わる。(水深7mではまず無いと思うが)KOとM嬢がJ子に飛びつく。強引に海底に連れ戻す。
私にも憶えがある。水中で眼を開く行為は、それが初めてならばかなりの恐怖心が伴うものである。いくら口頭で「大丈夫だ」と言われても抵抗があるものだ。
J子の行動は充分理解できた。
私は簡単にやってのけているように思われるかもしれないが、実は小学生の時にその訓練をしたことがあった。
洗面器に水道水を満たして顔を漬け、おそるおそる眼を開いた。
豪放の陰には必要以上の慎重さが隠れている場合が少なくないのです。
KOとJ子がマスククリアーを続行している間にM嬢とバディブリージングとあいなった。
相手に不満は無い。が、シリコンのマウスピースだからなぁ。
浮上。水面移動。スノーケリングはどうも好きになれない。スノーケルの形状が私の体にマッチしていない所為もあるようだ。
エアは充分残っていた。レギュレターに咥え直した。
波打ち際に到着。ウェットスーツの上半身を脱ぐ。ブーツを脱ぎ捨てる。急速に開放感が広がる。特に足は。
P団体の姿はすでに視えない。
昼食。出来合いの弁当。早々と済ます。防水カメラを片手に周囲の風景をスナップ。
J子は満足に出来なかったマスククリアーを気にしている。
KOがアドバイスをしているが不安は拭えないようだ。
二時間ほどの水面休息時間を終えて再びエントリー。
午前中のカリキュラムを繰り返す。今度はだいぶ余裕を持って行えた。
J子もマスククリアー以外は問題無さそうだった。
BCの脱着。今度もM嬢が御相手。片膝立ち。人差し指を立ててBCのベルトを捜す。外す。
左肩を抜く。続いて右肩を抜く。身体が浮き上がる。バランスが崩れた。M嬢のサポート。どうにか再度装着。
いままではほぼ問題なくこなしてきたがどうもこれは巧くゆかない。
ワンモア。Mの動作を凝視。結構イイ女だ。好みのタイプかもしれない。吊り橋効果?。
本来緊張するのが当たり前な場面であるがどうも私は雑念が多すぎるようだ。
水中では個人差もあるが思考能力が著しく落ちるそうだ。
私も著しくとまでは言わないが多少鈍っていたようだ。
BCを脱いでタンクを高く掲げるのは、その重みで浮力を抑えつけるためであった。
と、気づくのに二回もM嬢の手を煩わせてしまった。
M嬢のハンドサイン。「やれ」と促す。
頷く。インフレーターホースからBcのエアを抜く。
この時ホースからBCのエアを抜く。この時両腕でBCを圧し潰してエアを充分に抜いた。多少の差は出るだろう。
両腕を抜いてタンクを掲げる。先刻ほでではないもののやはりバランスが崩れた。
再び装着。まあ及第だろう。
夕刻。学科。講師はKOだった。
S氏は隣室で別のクラスの学科講習をしているようだ。
私相手の講習は疲れるのかもしれない。
(本当のところは、本日到着した新たな生徒との講習を我々が帰還する前に始めていた)
別に意地悪をするつもりでは無かったのだが減圧症についてかなり専門的な質問をした。
我が町でも潜水漁(海女レベルではなく高深度の)を営んでいる家が何軒かあった。
潜水事故の話も聞いたことがあった。
KOは答えに窮していた。
「ぽーさんはプロフェッショナルコースの方が向いてますね」
「そうかもしれません。教わる側より教える側の方が慣れてますね」
翌日は学科試験だそうだ。
つ づ く
※ニコノスを持って行かなかったので水中シーンは別の年の沖縄で撮影した画です。