大型書店に立ち寄り棚を眺めていたら「フィラデルフィア染色体」の題名が眼につきました。
慢性骨髄性白血病についてネットで調べ、遺伝子の名前にどんな由来があるのかなど、関心があり、読んでみました。
ジェシカ・ワプナー(Jessica Wapner 2013)斉藤隆央(訳) 柏書房 2015
フィラデルフィア染色体:遺伝子の謎、死に至るがん、画期的な治療法発見の物語
帯にあった解題:
がんの原因はただ一つ、遺伝子の変異である!
この事実発見までの長い道のりと、治療薬グリペック開発にまつわる研究者と製薬会社の対立と苦悩の物語を追いかけたノンフクション。
1959年、染色体自体が解明されておらず、調べる器具もなかった時代に、偶然の重なりから遺伝子の変異とがんの発生の関係が見つかる。そこから今日までの長い研究と治療薬開発の物語がはじまった。
目次:
プレリュード 骨の髄まで 2012年2月
第1部 染色体と疾患 1959~1990年
第2部 合理的設計 1983~1998年
第3部 臨床試験 1998~2001年
第4部 その後
エピローグ 生存期間
年表 遺伝子レベルのがん治療への道のり
用語集
慢性骨髄性白血病の発病率は10万人に1人と言われるが、身近な人のケースを聞くと、もっとずっと多いように思われる。
広島や長崎で被爆した人に多かったが、最近は血液検査で偶然発見され、原因が思い当たらないとされる場合も少なくないのではないだろうか。
分子標的薬グリペック(イマチニブ)が臨床試験を経てFDAに承認されたのが2001年。
今日では第2世代のスプリセル(ダサチニブ)やタシグナ(ニロチニブ)が承認されている。
こうした薬が用いられるようになる前、慢性骨髄性白血病の標準的薬はインターフェロンだったが効果無く、急性化したら骨髄移植して一時的に症状が治まってもやがて再発するのが普通だった。
分子標的薬が流通するようになって慢性骨髄性白血病は勿論、がん一般についての理解が大きく変わりつつある。
図鑑などにはヒトの染色体が細部も分かるように綺麗に着色され、大きさの順に並べられ、番号が付けられている。
細胞の中の染色体を顕微鏡で見るとゴチャゴチャしていて、とても一つ一つ取り分けることなど出来るものでない。
組み換えDNAと染色体分染の技術が進歩して、がんのメカニズム解明に寄与した。
がんの伝染に関与することが知られているエーベルソン・ウイルスは、遺伝子ablを宿主から奪い、それを腫瘍遺伝子にしている。
ablはヒトの22番染色体の中にもあるが、それ自体は無害。
慢性骨髄性白血病患者で見つかるフィラデルフィア染色体は9番染色体が短くなり、その切断点にあるbcr遺伝子の位置に22番染色体のabl遺伝子が転座している。
隣接してできたbcr/abl融合遺伝子と、それがコードするタンパク質Bcr/Ablが慢性骨髄性白血病の原因。
タンパク質Bcr/Ablはチロシンキナーゼの1種。
キナーゼはリン酸化酵素。ギリシャ語で運動を意味するキネティックに由来。細胞内でエネルギー・プロセスの開始を促進させる。ATP分子からリン酸を1つ抜いてタンパク質に付け、連鎖的シグナルを誘発し、タンパク質を活性化する。
チロシンはチーズから見つかったアミノ酸。キナーゼがリン酸化して悪性腫瘍を生じさせているのはチロシンとの複合タンパク質。慢性骨髄性白血病ではBcrがAblタンパク質のリン酸化を止められなくしている。
分子標的薬は、リン酸化の信号連鎖を阻害する。
慢性骨髄性白血病のための分子標的薬を先駆けとし、がん治療法は大きく変わっていくと期待されます。
慢性骨髄性白血病についてネットで調べ、遺伝子の名前にどんな由来があるのかなど、関心があり、読んでみました。
ジェシカ・ワプナー(Jessica Wapner 2013)斉藤隆央(訳) 柏書房 2015
フィラデルフィア染色体:遺伝子の謎、死に至るがん、画期的な治療法発見の物語
帯にあった解題:
がんの原因はただ一つ、遺伝子の変異である!
この事実発見までの長い道のりと、治療薬グリペック開発にまつわる研究者と製薬会社の対立と苦悩の物語を追いかけたノンフクション。
1959年、染色体自体が解明されておらず、調べる器具もなかった時代に、偶然の重なりから遺伝子の変異とがんの発生の関係が見つかる。そこから今日までの長い研究と治療薬開発の物語がはじまった。
目次:
プレリュード 骨の髄まで 2012年2月
第1部 染色体と疾患 1959~1990年
第2部 合理的設計 1983~1998年
第3部 臨床試験 1998~2001年
第4部 その後
エピローグ 生存期間
年表 遺伝子レベルのがん治療への道のり
用語集
慢性骨髄性白血病の発病率は10万人に1人と言われるが、身近な人のケースを聞くと、もっとずっと多いように思われる。
広島や長崎で被爆した人に多かったが、最近は血液検査で偶然発見され、原因が思い当たらないとされる場合も少なくないのではないだろうか。
分子標的薬グリペック(イマチニブ)が臨床試験を経てFDAに承認されたのが2001年。
今日では第2世代のスプリセル(ダサチニブ)やタシグナ(ニロチニブ)が承認されている。
こうした薬が用いられるようになる前、慢性骨髄性白血病の標準的薬はインターフェロンだったが効果無く、急性化したら骨髄移植して一時的に症状が治まってもやがて再発するのが普通だった。
分子標的薬が流通するようになって慢性骨髄性白血病は勿論、がん一般についての理解が大きく変わりつつある。
図鑑などにはヒトの染色体が細部も分かるように綺麗に着色され、大きさの順に並べられ、番号が付けられている。
細胞の中の染色体を顕微鏡で見るとゴチャゴチャしていて、とても一つ一つ取り分けることなど出来るものでない。
組み換えDNAと染色体分染の技術が進歩して、がんのメカニズム解明に寄与した。
がんの伝染に関与することが知られているエーベルソン・ウイルスは、遺伝子ablを宿主から奪い、それを腫瘍遺伝子にしている。
ablはヒトの22番染色体の中にもあるが、それ自体は無害。
慢性骨髄性白血病患者で見つかるフィラデルフィア染色体は9番染色体が短くなり、その切断点にあるbcr遺伝子の位置に22番染色体のabl遺伝子が転座している。
隣接してできたbcr/abl融合遺伝子と、それがコードするタンパク質Bcr/Ablが慢性骨髄性白血病の原因。
タンパク質Bcr/Ablはチロシンキナーゼの1種。
キナーゼはリン酸化酵素。ギリシャ語で運動を意味するキネティックに由来。細胞内でエネルギー・プロセスの開始を促進させる。ATP分子からリン酸を1つ抜いてタンパク質に付け、連鎖的シグナルを誘発し、タンパク質を活性化する。
チロシンはチーズから見つかったアミノ酸。キナーゼがリン酸化して悪性腫瘍を生じさせているのはチロシンとの複合タンパク質。慢性骨髄性白血病ではBcrがAblタンパク質のリン酸化を止められなくしている。
分子標的薬は、リン酸化の信号連鎖を阻害する。
慢性骨髄性白血病のための分子標的薬を先駆けとし、がん治療法は大きく変わっていくと期待されます。