「核の戦国時代」が始まる:
日本が真の独立国になる好機
日高義樹 2016 PHP
そうだったのかと思われることが多く、興味深く読みました。
政治家に対する厳しい評価も納得できます。
著者は、「核の戦国時代」の始まりが日本の真の独立のための好機だと言う。
アメリカの「核の傘」は消えかかっている。
日本も核武装しろと言う声は国内でも表に出てくるだろう。
日本が水爆を作り保有することは比較的容易でも、それが即「核の抑止力」になる訳でない、とも指摘している。
世界中が難問を抱えている中で、日本は何をどのように選択していけばよいのだろうか。
以下は抜書き:
―――
(1)北朝鮮の核戦略
北朝鮮はアメリカを攻撃するミサイル開発に力を入れている。何年か経てば必ずアメリカ本土を攻撃する能力を持つ。
その第1段階が潜水艦に搭載するミサイルで、アメリカは既にその脅威にさらされている。
共和党の政治家たちは、ひたすら北朝鮮の政策の転換を待つだけのオバマ政権の戦略に飽き飽きし、苛立っている。
保守系の政治家たちは、北朝鮮を攻撃して政権を倒すというアメリカの姿勢を明確に示すことによって中国を動かすべきだと考えている。
北朝鮮と中国の関係は、外部から見るより複雑らしい。
中国領になっている国境に近い満州の一部は中国が不法に奪ったもので、歴史的には朝鮮のもので、北朝鮮は返還を求めようとしている。
アメリカの歴代政権は、北朝鮮が核開発を棚上げすれば、北朝鮮を国家として認めてもよいという姿勢を示してきた。
オバマ大統領は、北朝鮮を国家として認めるとともに、核開発問題について話し合うことを提案。
北朝鮮は、この提案の直後に核実験を行った。
オバマ政権の国連と経済封鎖を頼りにする政策は、実際には何の効果もあげていない。
オバマの失敗は、あまりに中国寄りの政策をとり、バカにされてしまった結果、中国が北朝鮮の核装備を阻止する努力を止めたことで、さらに深刻になった。
現在、金正恩が開発を進めている水爆は、海中発射のミサイルと組み合わせた場合、まさにアメリカに国家存亡に危機的状況をもたらすものと言える。
北朝鮮のミサイルシステムや水爆の開発は、世界が新しい核戦争時代に突入したことを象徴している。
(2)中国の拡張志向
世界はいま、大きな歴史の転換点を迎えようとしている。
米中冷戦の始まりである。
習近平はオバマ大統領に対して、南シナ海における中国の軍事力を強化することは無いと約束してきたが、まったくの空約束であることが判明した。
これまで中国は、あくまでも国際政治の脇役だった。
アメリカの国内政治からすると、中国はさして需要な問題とは思われてこなかった。
1962年のキューバ危機から1991年のソビエト崩壊まで、アメリカ外交の主役はソビエトであった。
レーガン大統領は、ソビエトとの軍事対決を図るうえで、中国を利用するよう指令するとともに、中国に多額の軍事援助を与えた。
オバマはワシントンでの政治の経験がほとんどなかった。
中国と関わったのは、大統領選挙で中国資金を貰った時だけだったといわれる。
オバマ大統領がリーマン・ブラザーズ倒産に伴う経済危機を、中国の資金で回避することに成功したことから、中国はいつの間にかアメリカにとって外交の主役になってしまった。
トランプの登場は、そういったオバマ外交と政治を一変させるものであった。
トランプは、アメリカにおける現在の諸悪の原因を中国であると非難することで、政治的立場を強化しようとしている。
トランプが大統領にならない場合でも、アメリカの政治家たちは中国を新しい敵とみなし、アメリカ国民をまとめていくことになると思われる。
中国の侵略的な領土拡大政策は、際限ない国防費の拡大に象徴されている。
中国は、歴史的にはシベリアは中国の領土で、ロシアに奪われたと主張している。
シベリアでは、ソビエト連邦が崩壊した後、ロシア人の数が減り続け、その後を国境を越えて入り込んだ中国人が埋めている。
中国経済の急速な拡大が止まり、経済全体に大きな矛盾が出始めたなかで、習近平に対する中国軍首脳の不満が急激に高まっている。
中国軍はもともと地元民によって構成され、軍と地元の政治が密接に結びついているが、習近平は軍の近代化と軍首脳の汚職追放のために、陸軍兵力を20%削減し、部隊を地元から移動させたりしている。
失業者が増えているなかでの陸軍歩兵30万人の削減は、国内に不安定な状況を作り出している。
習近平は軍部の不満を吸収するために南シナ海で緊張状態をつくっているが、今後さらに多くの不法な侵略行為を始めざるをえなくなる。
そしてその結果は、核兵器を手にしての危険な戦争である。
(3)ロシアの帝国再建
アメリカは冷戦が終わって以来、ヨーロッパに駐留していたアメリカ軍を急速に引き揚げた。
ヨーロッパ側の軍事力が低下するなかで、プーチン大統領はウクライナにロシア軍を送り込み、その独立を奪い取ってしまった。
プーチンの剥き出しの侵略に対し、オバマが一向に対応策をとらないため、アメリカ軍の首脳たちを中心とする保守勢力は強い反発の意向を明らかにしてきた。
プーチンは、ロシアの原油高がもたらしたバブル的経済を追い風に、国民から高い支持率を得て、ソビエト帝国再建のために軍事力を増強するとともに、政治的影響力の強化に努めてきた。
プーチンは国有だった石油会社を巧みに自分のものにし、大富豪になっている。
アメリカはロシアの軍事力を抑え込むために、原油安を国家戦略としてとることにした。
原油安が続けば、石油で荒稼ぎしてきた独裁者たちの資産が、いずれ消えてしまう、と。
(4)「核のない世界」
トランプが積極的に主張している政策は3つある。
1)10年間で10兆ドルの減税。
2)移民問題。
3)海外からアメリカ軍を引き揚げる。
国民は外国のために税金を使うことに強く反発するようになっている。
アメリカは、最も安上がりとされている「核兵器の抑止力」を頼りに北朝鮮・中東・ロシア・中国と対抗しなければならなくなっている。
オバマ大統領の「外国に軍事力で対抗すべきでない」というドクトリンによって、アメリカは戦わず、行動もしない国になった結果、中国・ロシア・北朝鮮といった核を持つ国々が勝手なことをやるようになり、世界はあらたな戦国時代に突入してしまった。
オバマは「核のない世界」を標榜するが、核兵器制限の努力をしてこなかった。
中国の核兵器の増強についても何ら対応策をとっていない。
(5)アメリカの不条理
ヒラリーがオバマのもとで国務長官だった時、リビアの公使館がイスラム過激派に攻撃され、大使が虐殺された。
ヒラリーは襲撃が偶発的だったとし、真相の隠蔽に加わった。
オバマは中東での戦争をやめると公約して大統領になったが、8年経った今も、戦争をやめることができないでいる。
ヒラリーが大統領になればアメリカと中国との同盟体制はより強固になり、危険な状況になる。
ヒラリーはプーチンに対抗する姿勢を明らかにしたことは無く、このためヨーロッパの国々はアメリカ離れを起こしている。
ヒラリーが大統領になったら、第2のウオーターゲート事件が起こる可能性が有る、と。
ヒラリーが国務長官だった時代に、国務省のコンピュータサーバーでなく、自宅につくったサーバーを使っていたのは、核エネルギー産業のシンジケートとの関わりが露見するのをおそれたから。
共和党の首脳は2度にわたって強い大統領候補を立てることができなかった。
そうした共和党指導者を無視して、トランプは大統領候補になった。
トランプが台頭したのは一般党員が共和党指導者に反発しているからで、一種の政治革命だ、との指摘もある。
(6)日米関係
アメリカはロシアをはじめとする国々の軍事力に押されはじめている。
今後、アメリカの世界における立場はさらに弱くなる。
オバマ政権で既にアメリカ外交は八方ふさがり。
「アジアへの大転回」という戦略は言葉だけに終わった。
トランプは「日米安保条約は必要ない」と主張。
日本は集団的自衛権体制のもと、アメリカと共同して戦う戦略を基本としているが、アメリカはどこまでアジアでの戦いに注力するか決めかねている。
1989年、ベルリンの壁が崩壊して冷戦が終わるまで、日本はアメリカの重要な同盟国だった。
日本経済はアメリカ経済とドル体制を支える強力な柱だった。
その基本的情勢が変わった。
好むと好まざるにかかわらず、現実に日本を守ってきた「核の傘」が消えかかっている。
―――
「鬼畜米英が日本に上陸して来たら竹槍で突き殺せ」という気に再びなれるだろうか。
自爆覚悟で「神は偉大なり」と叫ぶ人々の宗教は「人を殺してはいけない」と教えてきたのではないのだろうか。
核兵器の製造と保有が仮想敵国にとって「抑止力」になるためには、時に応じて国民を任意に煽り立て、そうした憎悪と殺意を生じさせなければならない。
何処の国も内に複雑な問題を抱えており、そうした国々に囲まれて日本がそんな風に誘導される時代が直ぐ目の前に来ている?!
日本が真の独立国になる好機
日高義樹 2016 PHP
そうだったのかと思われることが多く、興味深く読みました。
政治家に対する厳しい評価も納得できます。
著者は、「核の戦国時代」の始まりが日本の真の独立のための好機だと言う。
アメリカの「核の傘」は消えかかっている。
日本も核武装しろと言う声は国内でも表に出てくるだろう。
日本が水爆を作り保有することは比較的容易でも、それが即「核の抑止力」になる訳でない、とも指摘している。
世界中が難問を抱えている中で、日本は何をどのように選択していけばよいのだろうか。
以下は抜書き:
―――
(1)北朝鮮の核戦略
北朝鮮はアメリカを攻撃するミサイル開発に力を入れている。何年か経てば必ずアメリカ本土を攻撃する能力を持つ。
その第1段階が潜水艦に搭載するミサイルで、アメリカは既にその脅威にさらされている。
共和党の政治家たちは、ひたすら北朝鮮の政策の転換を待つだけのオバマ政権の戦略に飽き飽きし、苛立っている。
保守系の政治家たちは、北朝鮮を攻撃して政権を倒すというアメリカの姿勢を明確に示すことによって中国を動かすべきだと考えている。
北朝鮮と中国の関係は、外部から見るより複雑らしい。
中国領になっている国境に近い満州の一部は中国が不法に奪ったもので、歴史的には朝鮮のもので、北朝鮮は返還を求めようとしている。
アメリカの歴代政権は、北朝鮮が核開発を棚上げすれば、北朝鮮を国家として認めてもよいという姿勢を示してきた。
オバマ大統領は、北朝鮮を国家として認めるとともに、核開発問題について話し合うことを提案。
北朝鮮は、この提案の直後に核実験を行った。
オバマ政権の国連と経済封鎖を頼りにする政策は、実際には何の効果もあげていない。
オバマの失敗は、あまりに中国寄りの政策をとり、バカにされてしまった結果、中国が北朝鮮の核装備を阻止する努力を止めたことで、さらに深刻になった。
現在、金正恩が開発を進めている水爆は、海中発射のミサイルと組み合わせた場合、まさにアメリカに国家存亡に危機的状況をもたらすものと言える。
北朝鮮のミサイルシステムや水爆の開発は、世界が新しい核戦争時代に突入したことを象徴している。
(2)中国の拡張志向
世界はいま、大きな歴史の転換点を迎えようとしている。
米中冷戦の始まりである。
習近平はオバマ大統領に対して、南シナ海における中国の軍事力を強化することは無いと約束してきたが、まったくの空約束であることが判明した。
これまで中国は、あくまでも国際政治の脇役だった。
アメリカの国内政治からすると、中国はさして需要な問題とは思われてこなかった。
1962年のキューバ危機から1991年のソビエト崩壊まで、アメリカ外交の主役はソビエトであった。
レーガン大統領は、ソビエトとの軍事対決を図るうえで、中国を利用するよう指令するとともに、中国に多額の軍事援助を与えた。
オバマはワシントンでの政治の経験がほとんどなかった。
中国と関わったのは、大統領選挙で中国資金を貰った時だけだったといわれる。
オバマ大統領がリーマン・ブラザーズ倒産に伴う経済危機を、中国の資金で回避することに成功したことから、中国はいつの間にかアメリカにとって外交の主役になってしまった。
トランプの登場は、そういったオバマ外交と政治を一変させるものであった。
トランプは、アメリカにおける現在の諸悪の原因を中国であると非難することで、政治的立場を強化しようとしている。
トランプが大統領にならない場合でも、アメリカの政治家たちは中国を新しい敵とみなし、アメリカ国民をまとめていくことになると思われる。
中国の侵略的な領土拡大政策は、際限ない国防費の拡大に象徴されている。
中国は、歴史的にはシベリアは中国の領土で、ロシアに奪われたと主張している。
シベリアでは、ソビエト連邦が崩壊した後、ロシア人の数が減り続け、その後を国境を越えて入り込んだ中国人が埋めている。
中国経済の急速な拡大が止まり、経済全体に大きな矛盾が出始めたなかで、習近平に対する中国軍首脳の不満が急激に高まっている。
中国軍はもともと地元民によって構成され、軍と地元の政治が密接に結びついているが、習近平は軍の近代化と軍首脳の汚職追放のために、陸軍兵力を20%削減し、部隊を地元から移動させたりしている。
失業者が増えているなかでの陸軍歩兵30万人の削減は、国内に不安定な状況を作り出している。
習近平は軍部の不満を吸収するために南シナ海で緊張状態をつくっているが、今後さらに多くの不法な侵略行為を始めざるをえなくなる。
そしてその結果は、核兵器を手にしての危険な戦争である。
(3)ロシアの帝国再建
アメリカは冷戦が終わって以来、ヨーロッパに駐留していたアメリカ軍を急速に引き揚げた。
ヨーロッパ側の軍事力が低下するなかで、プーチン大統領はウクライナにロシア軍を送り込み、その独立を奪い取ってしまった。
プーチンの剥き出しの侵略に対し、オバマが一向に対応策をとらないため、アメリカ軍の首脳たちを中心とする保守勢力は強い反発の意向を明らかにしてきた。
プーチンは、ロシアの原油高がもたらしたバブル的経済を追い風に、国民から高い支持率を得て、ソビエト帝国再建のために軍事力を増強するとともに、政治的影響力の強化に努めてきた。
プーチンは国有だった石油会社を巧みに自分のものにし、大富豪になっている。
アメリカはロシアの軍事力を抑え込むために、原油安を国家戦略としてとることにした。
原油安が続けば、石油で荒稼ぎしてきた独裁者たちの資産が、いずれ消えてしまう、と。
(4)「核のない世界」
トランプが積極的に主張している政策は3つある。
1)10年間で10兆ドルの減税。
2)移民問題。
3)海外からアメリカ軍を引き揚げる。
国民は外国のために税金を使うことに強く反発するようになっている。
アメリカは、最も安上がりとされている「核兵器の抑止力」を頼りに北朝鮮・中東・ロシア・中国と対抗しなければならなくなっている。
オバマ大統領の「外国に軍事力で対抗すべきでない」というドクトリンによって、アメリカは戦わず、行動もしない国になった結果、中国・ロシア・北朝鮮といった核を持つ国々が勝手なことをやるようになり、世界はあらたな戦国時代に突入してしまった。
オバマは「核のない世界」を標榜するが、核兵器制限の努力をしてこなかった。
中国の核兵器の増強についても何ら対応策をとっていない。
(5)アメリカの不条理
ヒラリーがオバマのもとで国務長官だった時、リビアの公使館がイスラム過激派に攻撃され、大使が虐殺された。
ヒラリーは襲撃が偶発的だったとし、真相の隠蔽に加わった。
オバマは中東での戦争をやめると公約して大統領になったが、8年経った今も、戦争をやめることができないでいる。
ヒラリーが大統領になればアメリカと中国との同盟体制はより強固になり、危険な状況になる。
ヒラリーはプーチンに対抗する姿勢を明らかにしたことは無く、このためヨーロッパの国々はアメリカ離れを起こしている。
ヒラリーが大統領になったら、第2のウオーターゲート事件が起こる可能性が有る、と。
ヒラリーが国務長官だった時代に、国務省のコンピュータサーバーでなく、自宅につくったサーバーを使っていたのは、核エネルギー産業のシンジケートとの関わりが露見するのをおそれたから。
共和党の首脳は2度にわたって強い大統領候補を立てることができなかった。
そうした共和党指導者を無視して、トランプは大統領候補になった。
トランプが台頭したのは一般党員が共和党指導者に反発しているからで、一種の政治革命だ、との指摘もある。
(6)日米関係
アメリカはロシアをはじめとする国々の軍事力に押されはじめている。
今後、アメリカの世界における立場はさらに弱くなる。
オバマ政権で既にアメリカ外交は八方ふさがり。
「アジアへの大転回」という戦略は言葉だけに終わった。
トランプは「日米安保条約は必要ない」と主張。
日本は集団的自衛権体制のもと、アメリカと共同して戦う戦略を基本としているが、アメリカはどこまでアジアでの戦いに注力するか決めかねている。
1989年、ベルリンの壁が崩壊して冷戦が終わるまで、日本はアメリカの重要な同盟国だった。
日本経済はアメリカ経済とドル体制を支える強力な柱だった。
その基本的情勢が変わった。
好むと好まざるにかかわらず、現実に日本を守ってきた「核の傘」が消えかかっている。
―――
「鬼畜米英が日本に上陸して来たら竹槍で突き殺せ」という気に再びなれるだろうか。
自爆覚悟で「神は偉大なり」と叫ぶ人々の宗教は「人を殺してはいけない」と教えてきたのではないのだろうか。
核兵器の製造と保有が仮想敵国にとって「抑止力」になるためには、時に応じて国民を任意に煽り立て、そうした憎悪と殺意を生じさせなければならない。
何処の国も内に複雑な問題を抱えており、そうした国々に囲まれて日本がそんな風に誘導される時代が直ぐ目の前に来ている?!