天気予報では晴れるということで出かけてきたけれど、もうすぐ10時になるというのに青空の見えてくる気配はないよ。
今日は、一年前から考えていてルートを辿ってみるつもりなんだ。しかし、先日の大きな19号台風の後だから、渡れない橋があるかもしれない。
自転車を組んでいる間にも次の電車が到着して、大勢の登山者やハイカーなどがあちこちに集まって人数確認などをしている。
空はなかなか晴れてこない。風は少し冷たいよ。しかしこのくらいがちょうどいい。
出発してすぐ、県道15号へ出て巾着田へ向かったよ。
巾着田を流れる高麗川は、台風の大雨の名残で未だにひどく濁っている。なんでも、台風が来た12日には巾着田すべてが激しく流れる水の中に沈んでしまったらしい。そのときの様子をうかがわせる傷痕がまだそこここに残っているよ。
それでも水はだいぶひいていて、休日だからかたくさんの人が河原にテントを張っている。
大雨で多少崩れたかもしれない崖の様子だ。
「あいあい橋」の上からの流れの姿だ。水が濁っているのがよくわかる。本来は澄んでいてとてもきれいな水らしい。
巾着田をあとに、清流橋へ向かう途中に眺められた日和田山の景色だよ。今日は山へは行かない。ほとんど川沿いの水平移動だ。のんびり走ろう。
清流橋だ。この橋は台風の大雨でも無事だったようだね。でも、橋の上まで水がきていたことは橋の袂に堆積している小枝などのゴミでうかがえる。
これは高岡橋だ。
橋の近くの家の前で何か片付けものをしていた人に尋ねると、
「橋の上まで水がきていましたね。音もすごかったですよ。このあたりの人はみな避難しました」
獅子岩橋だよ。この橋も大丈夫だったね。頑丈そうな橋だ。
日高市を流れる高麗川にはいい雰囲気の狭い橋がいくつかあるんだ。橋脚は鉄やコンクリート製だが、橋面は木製の橋だ。そうした橋は地元では通称「ガタガタ橋」と呼ばれているようだよ。そんな橋を見るのが楽しみだったが…
新井橋。一つ目のガタガタ橋はこの有様だった。こんな無残な姿になっているとは予想もしていなかった。残念だ。なんだかとても悲しい姿だね。
仕方なく次の橋へ向かう。
途中、高台にある寺、聖天院の屋根が見えたよ。奈良時代に創建された古い真言宗のお寺だ。いつか訪ねてみようかね。
出世橋だよ。濡れて水がしみた欄干がなんだか淋しく見える。
江戸時代の古民家・高麗家住宅を横目に先へ行く。
二つ目のガタガタ橋・新堀橋も流されていたよ。ほんとに残念だ。
新堀橋が渡れないので、カワセミ街道を進む。
石灰石を運ぶベルトコンベアーの下をくぐる。
富士橋だよ。こんなに広いのに車がほとんど通らない静かな橋だよ。
この富士橋の隣には、平行して県道30号の平沢橋がある。新しい平沢橋のほうは県道ということもあって、かなりの交通量だ。
あれは先ほどカワセミ街道を横切っていたベルトコンベアーだね。
県道30号の平沢橋の上から見た高麗川下流の風景だよ。青空がのぞいているよ。このまま晴れ渡ってくれればいいがね。
八高線の踏切を渡る。空はまだ雲がいっぱいだよ。線路と線路脇のススキの姿がもの淋しい。
三つ目のガタガタ橋、久保の下橋へ向かう途中のT字路にあった青面金剛だよ。久保の下橋が無事でありますようにと手を合わせて通る。
この先に目指す久保の下橋があるはずだが、なんとなく不安がよぎる。
やっぱりここもだめなのか?
さらに先へ進むと、久保の下橋の無残の姿が目に飛び込み、思わず息を呑んだ。
三つのガタガタ橋はすべて全滅だ。
みみ爺はひどくがっかりしたのと同時に、こうした被害を目の当たりにして、台風19号の大雨のすさまじさを実感した。
気を取り直して先へ進むことにした。
少し引き返して高麗川橋を渡る。
これが高麗川橋だよ。そして八高線の青い鉄橋だ。
なんとなく気持ちが沈む。
途中、広場になってる空き地で、地元の小さな祭りに出会った。ローカル色の濃い祭りの様子に少しだけ気持ちが晴れたかな。
多和目天神橋へ向かう。この橋は今日最初の沈下橋(冠水橋)だ。
…しかし、多和目天神橋も通行止めになっていたよ。
ガタガタ橋は、どれも渡ることもまともな姿を見ることもできなかったけれど、この多和目天神橋は、渡ることはできなくても、雰囲気のあるその姿を見ることはできた。まあよしとしよう。
多和目天神橋のところからはコンクリート舗装の遊歩道が続いていたのでそっちへ進んでみることにした。
遊歩道脇の草がみな川下の方へ倒れている。ここもあふれた水が激しく流れていたんだね。
少し行くと、反対側から地元の人がガシャガシャとチェーンの音を立てる錆びたママチャリに乗ってやってきた。
「この先は砂に埋まって走りにくいですよ。頑張って行ってください」
なるほど、遊歩道はその先ですっかり深い砂に埋もれていたよ。
タイヤも靴も砂にもぐりこんだが、なんとか自転車を押して多和目橋にたどり着くことができた。
この橋は橋脚がコンクリートと鋼管でできているが、橋面は木製だ。車が通るとガタガタ音を立てる。これも「ガタガタ橋」ということになるのかな。
森戸橋へ向かう途中、道の真ん中にポツンと立つ秋葉神社というのがあったよ。鳥居もなく、小さな社をそこにポンと置いたような感じだ。背後には高麗川が流れている。不思議な神社だ。
先へ進むと高麗川に沿ってふたたび遊歩道があったんだ。水もひいているし、コンクリート舗装の道なので自転車で走れそうだ。
しかし、進むにつれて道は怪しくなってきた。
とうとうこんなぬかるみに行く手を塞がれてしまった。仕方なく右手の草の上を、ズブズブ靴を沈ませながら自転車を押して、やっとのことで乗り切ることができたよ。
そして森戸橋に出た。狭いが車や自転車が頻繁に通り、通学路としても使われているようだ。現在、すぐ横の川下側に新しい橋の工事が進んでいる。
新しい橋ができても、こちらの橋は残しておいてほしいなあ。
次の万年橋へ向かう途中、田んぼの中をくねくねと続く道のY字路の桜の木の下に、吉原地蔵というのがあったよ。詳しくは知らないが、なんでも江戸中期、吉原の遊女の霊を慰めるために巡ってきた僧がここで亡くなった。行き倒れになった僧と吉原の遊女の霊を祭ったのだそうだ。
こんなのんびりした道を進む。曇っているが雨は降らない。まあまあだ。
万年橋だね。県道114号にある橋だよ。
この辺からは堤防の上に道があるので、そこを走ることにした。走りやすいが少し退屈だ。
のんびりとペダルをこぎながらとりとめもなく考えた。みみ爺にとって橋とはなんだろう。どうして橋に興味がわくのだろうか。
小さな川の小さな古い橋にはその土地の歴史や生活観がにじみ出ている。それを感じるのが楽しい。
大きな橋の場合、川の対岸にはこちら側とはまた何かが違う風景、景色、人々の生活があるにちがいないと思う。その何かが違う町や風景の中へ続いている道が橋だ。橋を渡る時、なんとなくワクワクするのは、そんなまだ知らないところへ入っていくという小さな期待感からかもしれない。
いずれにしろ橋を渡るのは、その橋の上からの眺めもまた楽しい。
ほどなく若宮橋という沈下橋(冠水橋)に着いた。
沈下橋はやっぱりいいね。風景の中に自然に溶け込み、とてもいい雰囲気だよ。
自転車に乗って渡ってしまうのはつまらない。ゆっくりと歩いて渡ることにした。
橋の中ほどからの上流の様子だ。
左岸へ渡ってからも堤防の上を走っていくよ。たった今渡ってきた若宮橋が上流に見える。
堤防上の道は走りやすい。遠い山並みも見えて気持ちがいい。
高麗川大橋だ。関越自動車道の大きな高麗川橋のすぐ先だよ。
対岸に打ち上げられているのはどこかの橋の残骸だろうかね。
きれいなライトグリーンの橋が見えてきたよ。
粟生田大橋だね。
さらに堤防上を進む。
北坂戸橋だ。堤防下には台風の大雨で流されてきたのだろう、大きな木の枝などが打ち上げられたまま残っている。
この北坂戸橋を渡って右岸へまわるよ。
東武東上線の鉄橋だね。空がいくらか明るくなってきたよ。
国道407号の高坂橋だよ。
さあ、島田橋だ!完璧に木造の沈下橋だよ。
この辺では冠水橋というらしい。正式な名称は潜水橋とか潜り橋とかいうそうだよ。
それはともかく、みみ爺はこんな橋が見たかったんだ。
上流側に斜めに突き出した丸太は、冠水時の流木やゴミから橋を守るための流木除けだね。
さあ、この橋の中ほどまで行ってみよう。
とても満たされた気持ちでペダルを踏むよ。
柿の実が秋の深まりを感じさせるね。
あれは水管橋だね。青空が見えるよ。
堤防下の河川敷には大きな木が根こそぎ倒されている。すごい水の勢いだったんだね。
青空と同じ色の天神橋だ。きれいな色だな。
さらに堤防上を進む。青空が見えてくると気持ちも明るくなるよ。
道は砂利道になり、草の道になる。
高麗川は都幾川と合流して、越辺川と名称が変わった。
八幡橋だね。こちらも木製の沈下橋だ。水に潜ったのだろうが無事でよかった。
橋を渡るよ。いいねえ。
ふたたび左岸にもどり堤防の上を走っていく。砂利道が続く。
河川敷の草がすべて川下方向に押し倒されている。水の勢いがよくわかるね。
これは道場橋だ。心霊スポットという噂もある橋だ。言われてみればなんとなく暗い感じがしないでもないよ。
落合橋の手前に、テレビの台風被害のニュース映像にも出てきた建物が見えるよ。あそこが大きな被害をもたらした堤防の決壊現場なんだね。復旧工事はだいぶ進んでいるようだよ。
落合橋だ。国道254号の橋だよ。
そして釘無橋だ。この先で越辺川は入間川と合流し、川の名称が入間川となるんだね。
入間川となった川の堤防上をさらに進むよ。
高麗川、越辺川、入間川と橋を訪ねて走って来たが、最後にこの橋を渡って、川越の駅へ向かうんだ。橋の名前は出丸冠水橋というらしい。狭い橋だがけっこう車も通る。
川越の町を目指して田んぼの中の真っ直ぐな道を走る。
本川越駅へ向かおうと思ったら、この人の多さだ。
どうやら今日はお祭りのようだ。かなり広い範囲にわたって通行規制されていて、車はもちろん自転車も走れない。この人ごみの中、駅までの距離を自転車を押して歩きたくはない。
警備をしている人に道を尋ね、通行規制された範囲を避けて大きく迂回し、なんとか東武東上線の川越市駅にたどり着いた。
輪行の準備をしているあいだ、みみ爺の自転車を興味ぶかげに見ていた人に、
「すごい人出ですね」
「この駅はまだいいほうですよ。本川越駅はもっとすごいですよ」
「階段の下まで続いている行列は何でしょうね」
「あれは切符を買おうとしている人の行列ですね」
本川越駅ほどではないということだったが、かなりたくさんの人であふれていたよ。やれやれ。
今日は、日高市を流れる高麗川のガタガタ橋は見ることも渡ることもできなかったけれど、下流の多和目天神橋や若宮橋、越辺川の島田橋や八幡橋などのステキな沈下橋を見ることができて、ほんとに楽しかった。
それにほとんど平地移動だったので疲れることもなかったよ。たまにはこんなサイクリングもいいかな。
それにしても、19号台風の雨がいかに大きな被害をもたらしたかを今日一日で思い知らされた感がある。
この台風で被災した皆様、どうか負けないでください。
奥武蔵の林道の情報ありがとうございます。それではこれからどこへ行きましょうかね。悩みます。
そして、随分と流されてしまいましたね。
でもなんでそんなに、橋に執着なさるのか。
やはり、川は区切りと言うもの。
この世とあの世、現世と来世。
そうした、不思議なもの。
それを繋ぐものへの魅力。
うーーん
難しい。
房州の林道も相当なものですが、また、ある意味普段とは違った雰囲気がありますね。
お祭りは、川越の大きな祭りより、小さな空き地で行われていた地元色の濃い地味なお祭りの方が、ずっと深く心に刻まれました。
一つだけ残念だったのは、日高市の城山橋がルートから抜けてしまったことです。久保の下橋が流されてしまっていたので、しかたなくルートを変更し、城山橋をうっかりはずしてしまったんです。