この『さまよう刃』を読んで、すぐに思い出したのが綾瀬女子高生コンクリート詰め殺人です。この事件の犯人は未成年だったので、主犯格を除いてわずかな刑期で出所し、2004年にこの中の一人がまた、知人を恐喝・監禁した・・・というものです。
『さまよう刃』の主人公は高校生の娘を持つ長峰。花火を見に行った帰りに行方不明になった娘は数日後、変わり果てた姿で発見されます。
長峰は謎の人物から知らされた主犯格の少年のアパートへ向かい、犯行を録画したビデオテープを発見し、その中に娘の姿を見つけてしまいます。
覚せい剤を打たれ朦朧とした状態の娘が、やがてクスリのショックで死んでしまう様子まで映っていました。その時、帰ってきた主犯格の少年を発作的にメッタ刺しにして殺したあと、もう1人の少年を追って長野へ向かうのです。
私は鬼畜とも言うべき少年たちに何の同情も持ちませんでした。長峰を応援さえしていました。これは物語の中の刑事たち、同じ境遇の親たちも同じ気持ちなのです。
私刑はいけないと頭では分かっていても、同じ立場に立たされたら、そしてそれが可能なら長峰と同じ行動をとるかもしれない。
警察に捕まっても、どうせ数年で出てきて、再犯でも「少年A」のまま。こんなバカらしい法律で鬼畜は護られているんですねぇ。
綾瀬女子高生コンクリート詰め殺人の少年Bも、実名報道したのは「週刊新潮」だけ。あとは新聞各紙すべて「元少年」でした。33歳の男に「元少年」もないでしょうに。
長峰に情報を流し続けた男は意外な人物なのですが、これから読む人のために伏せておきます。ちょっと胸が痛い小説の結末も。
『容疑者Xの献身』で直木賞を取った東野圭吾氏ですが、私はこの『さまよう刃』で差し上げても良かったんじゃないかなと思いました。