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「ポピュリズムの欧州」が勢いを増す(ドイツの極右政党、AfDのワイデル共同党首)
勝利の陶酔感はなかった。ドイツ連邦議会選挙で第1党を奪還し次期首相に就く見通しのキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のメルツCDU党首は「いち早く欧州(の防衛力)を強化し、米国からの真の独立を一歩一歩可能にする」と明言した。
同氏は選挙後の恒例のテレビ番組で「こんなことを話すとは思ってもみなかった」と吐露した。
トランプ米大統領は北大西洋条約機構(NATO)を通じた欧州への支援に消極姿勢を見せ、バンス副大統領はミュンヘンの安全保障会議で「(欧州の)脅威は体制内にある」と既存勢力のリーダーを非難した。これがメルツ氏の背中を押した。
トランプ氏が矢継ぎ早に引き起こす「米国第一」の雪崩が欧州の安定を揺るがした。
バンス氏や実業家イーロン・マスク氏が露骨に後押しした極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が20%を超す得票で2位に浮上し、旧東ドイツの共産主義政党の流れをくむ左派党も急伸した。
森井裕一東大教授は「議会内の中道政党で憲法改正に必要な3分の2の議席がとれなくなった。民主主義や欧州統合、米欧同盟などフルセットの価値を維持してきた戦後ドイツの終わりの始まりと言える」と懸念する。
「パックス・アメリカーナ」の終わり
トランプ政権発足から1カ月あまりで、国際秩序の「液状化」がみるみる進む。
功を焦るトランプ氏が3年越しの侵略の首謀者、プーチン・ロシア大統領と頭越しの停戦に走る。関税の乱発で自由貿易体制はないがしろにされ、気候変動対策や国際援助は後退が著しい。20カ国・地域(G20)議長国の南アフリカへの不満で、米国務長官と財務長官の有力2閣僚が会議を事実上、ボイコットした。
「トランプ主義が表す不都合な真実とは『パックス・アメリカーナ(米国主導の平和)』の終わりだ。
能力的にはまだできても、支える意志がなくなりつつある」と冨田浩司前駐米大使は語る。バンス演説にみるように「欧州のただ乗りに対する米保守派の恨みが噴出した。ハードランディングを防がねばならないが簡単ではない」と覚悟する。
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極右など過激な勢力の政治進出に歯止めをかけ、民主主義体制を守る欧州の「防火壁」も決壊寸前だ。
SNSも駆使した「選挙工作」が横行し、生活苦や治安の不安に怒る若者の人気をさらう。世界大戦を受けた不戦の決意や共通市場の恩恵が薄れ、欧州統合にほころびが生じた。
帝京大の渡辺啓貴教授は「2つの欧州」への分化があるとみる。
第一に民主主義を旗印として欧州連合(EU)が進める経済合理主義による「エリートと効率性の欧州」。だが日々の生活や文化的なアイデンティティーを優先するもう一つの「ポピュリズムの欧州」が、トランプ主義とも共鳴して勢いを増している。
似通う日本と西欧の国益
フランスでも極右の国民連合(RN)を率いるルペン氏は2027年の大統領選に向け、現職のマクロン大統領を支持率で圧倒する。
欧州は盟友のはずの米国から圧力も受けた内憂外患の構図から抜け出す展望を開けないでいる。
自国の利益確保に走る米国のもとで崩れかけた国際秩序。誰もがトランプ氏の予測不可能な動きに困惑し、身構えている。
だがこの空白を埋める努力を怠れば、中国やロシアなどの強権勢力が既成事実を重ねて世界を動かす流れになりかねない。日本と欧州が協調し、一歩引いた視点で戦略と行動を磨く時だ。
米国が世界秩序の安定から身を引くことで「日本と西欧の国益は著しく似通う。ユーラシア大陸の中で日本の役割はさらに重きを増す」と米ジョンズ・ホプキンス大ライシャワー東アジア研究センター長のケント・カルダー氏は話す。
傷を負う欧州、主要7カ国(G7)で存在感を高めた日本、そして中国の相互関係が重要な問いになる。
石破茂首相が初会談でトランプ米大統領と一定の親密さを演出したことは「トランプ氏も外交上の成功の証しとして日本を重視したいのだ。
世界の誰からも孤立することはできない」とカルダー氏はみる。日米双方の国益に合う協調を最優先するのは当然だ。だがトランプ氏との関係を巧みに世界の安定に生かす役割も首相は自覚してほしい。
石破首相は欧州諸国首脳と積極的な対話を
石破氏はトランプ氏との会談に続き、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席との会談に意欲的だといわれる。
明暗が交錯する隣国との首脳外交も確かに重要だが、ウクライナ問題など今後の世界秩序を左右する懸案に対し、もっと欧州諸国の首脳と積極的な対話を進める必要があるのではないか。
「米国の孤立を世界は望まないし、中国を利するだけだ。欧州も米国自身もそう考えているだろう」(渡辺帝京大教授)。
包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)のような同志国のグループによる連携で自由貿易を維持することは有意義だ。
政策研究大学院大学の岩間陽子教授は安全保障面での日欧連携を提唱する。「アジアと欧州の防衛産業で合理的な西側のサプライチェーン(供給網)や武器の共通化を進めるべきだ。
欧州だけでなく日本は(中ロなどに対する)前線国家。いざという時に互いに融通できるシステムをつくることが、ウクライナ戦争の最大の教訓だ」と話す。
押しつけや敵対はせず、実績を示し米国に協調の利益を説く。その戦略と行動が、民主主義の侵食と世界秩序の崩壊を防ぐ決め手になろう。
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