ベインキャピタルとブラックストーンは共に日本投資を積極化する
【この記事のポイント】
・ブラックストーンは3年で1.5兆円
・KKRは今後10年で1兆円以上を投資
・高いリターン、円安基調が好条件に
米欧の買収ファンド会社が日本企業への巨額投資に乗り出す。
米ベインキャピタルは今後5年で5兆円と、直近5年の約2倍の投資計画を明らかにした。
米ブラックストーンも不動産を含めて3年で1.5兆円の投入をめざす。収益環境の厳しい米欧より高いリターンの見通しや円安基調など好条件にあるとの認識を強めているためだ。
ベインの共同経営トップにあたるデービッド・グロス氏は日本経済新聞社の取材に対し、29年までに5兆円強を拠出する方針を示した。同社は投資先の企業価値ベースで23年までの5年間に約2.5兆円投資した。
ベインは日本で最大規模の投資実績があるファンドで、18年には東芝の半導体事業を約2兆円で買収する企業連合の一つとなった。
10年代にコールセンターのベルシステム24やすかいらーくを再上場させた実績も持つ。今後の投資分野としてヘルスケアや人手不足の解決に資する自動化やロボット技術などを掲げる。
米ブラックストーンも日本シフトを打ち出す。ジョナサン・グレイ社長兼最高執行責任者は日経新聞の取材で、27年までに企業価値換算で1.5兆円程度を投資する計画を表明した。
07年の日本での事業開始以降で積み上げた額と同程度の規模を今後3年に集中させる。グレイ氏は「日本企業は自己資本利益率(ROE)を重視する経営になり、円安や株高と組み合わさって投資機会の拡大につながっている」と投資積み増しの意義を強調する。
米カーライル・グループは5月、日本企業への投資に特化したファンドを4300億円規模で新設した。20年の前回ファンドの約1.7倍で、日本特化型としては他社を含めて過去最大となった。他のファンドによる投資や銀行融資を合わせることで投資規模はさらに膨らむ可能性がある。
5月には「ケンタッキーフライドチキン」を運営する日本KFCホールディングスを約1300億円で買収すると発表。新ファンドでは大型案件の積み増しを狙う。
米KKRは今後10年で1兆円以上を日本に投資する方向だ。同社は10年以降、日本国内に約80億ドル(1兆2000億円)を投資してきた。
欧州の大手投資会社であるCVCキャピタル・パートナーズは2月にアジアを投資先とする68億ドルのファンドを立ち上げた。
資金の20%程度を日本への投資に振り向ける計画だ。14年に35億ドル、20年に45億ドルで同様のファンドを設立している。日本への比率は維持するものの投資額は増える。
買収ファンドは機関投資家などから集めた資金と銀行融資などを組み合わせて投資するのが一般的だ。投資先企業の大株主として、新たな資金を使って設備投資や不採算事業の整理などを求める。企業価値を高めたうえで株式上場や他のファンドへの売却を通じて利益を得る仕組みだ。
各社が日本投資を積極化させているのは、世界的にみて日本での投資が高いリターンを得られるとの見方が強まっているためだ。
投資で見込まれる利回りを示す内部収益率(IRR)でみると、カーライルが07年以降に設置した世界や欧州、アジアを対象にした主要ファンドはいずれも8〜14%だ。直近の日本ファンドのIRRは28%に到達する。
米国などでは市場金利が高止まりしており、ファンドの資金調達コストも上がり、収益環境が厳しくなっている。米コンサルティング大手のベイン・アンド・カンパニーの調査では、23年のプライベートエクイティ(PE=未公開株)投資は北米で前年比38%減、欧州で46%減だった。
東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業などを念頭に、資本効率の改善を促している。大企業を中心に非中核部門を手放す動きが強まっており、PEファンドが得意とする案件が増えている。
ベインのグロス氏は「(大企業などの)非中核事業の切り離しや投資家との意思疎通の促進などがプラスの循環を生み出している」と指摘する。
KKRのジョセフ・ベイ共同最高経営責任者(CEO)は「コングロマリット(複合企業)が事業改革に動き始めていることも、優良な事業の買収機会につながる」と語った。
物価上昇や企業の統治改革の進展、歴史的な円安水準などといったマクロ経済の状況が日本への投資機会になっているという。
アジア向け投資マネーの行く先として有力地域だった中国の後退も影響する。ベイン・アンド・カンパニーが実施するファンドへの投資家向けのアンケート調査では、「アジアで最も魅力的な投資先」として日本を選んだ割合が32%だった一方で、中国は3%だった。中国は直近のピークである21年の58%から急落した。
米大手投資会社アレス・マネジメントが24年にも日本で投資活動を始める意欲を示すなど、国内での投資実績の薄かった外資ファンドの参入も続くとみられる。
日経記事2024.06.11より引用
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(参考)