ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

嬉しいはなし

2014-01-15 21:24:20 | Weblog
去年の7月に、日本語が話せない新卒の中国人女子を採用した。
日本語が話せないため、周囲の反対は少なからずあったけれど、
中国語の受け答えがしっかりしていたので、いけるだろうと思った。

入社後2ヶ月くらいは、彼女も学生気分のままで、
会社の上のほうからも「日本語ができなかったら、そもそもダメだろう」と
改めてツッコミが入っていた。

でも、今月の人事評価で私は彼女に最高点をつけ、上との面接の結果も上々。
結果、彼女は等級が上がり、給料も他の人よりずっと多く上がることになった。
昇給率で言ったら、社内随一だ。

昨年は、私の一言が、彼女を何度も泣かせた。
泣く理由は、できない自分に納得がいかないことによる涙だったから、
彼女の心がおさまるまで、私も23時過ぎまで残って話をすることがあった。

今日、久しぶりに2人で外出したとき、こんな話をしてくれた。

昨日、あまり仲が良くないお母さんが、めずらしく電話をかけてきた。
どうしたのかな、と思ったら、お父さんの話だった。

一昨日、お父さんが電話をくれたときに、人事評価はどうだった?と聞かれたから、
こう答えたの。
等級も給料もあがるんだよ。
こんなふうに認めてもらえたのは、社内で私だけなんだ、と言ったら、
お父さんが、たった半年でそんなわけないだろう。夢でも見てるんじゃないか、って。

だから私は、この半年でこんなことができるようになった。
そして、上司は私のことを2年目くらいの人と同じ実力がある。
もっと上を目指そうと言ってくれてる。

それで、上司と一緒にこの半年でやったことを書き出して、会社に提出した。
経営層には、口頭でもそれを報告した。
そしたら、社長たちも納得してくれたんだ、って話したの。

その日の夜、お父さんは、白酒を2杯も飲んだんだって。
普段、お酒が弱いからほとんど飲まないのに、2杯も。お祝いだって言いながら。
あんなお父さんを見たのは初めてだって、お母さんが私に電話をくれたの、と。

彼女の両親は、世界的に有名な中国国有企業の幹部で、
もちろんのことながら共産党員だ。中国のエリートに属する。
だから、きっと内心では、日本人の会社に入ること、上司が日本人であることに、
あまり賛成ではなかったろう。
しかも彼女の実家は北京のほうにあり、上海には血縁もコネもない。

それでもなお、ご両親は娘の決断を信じた。
そして、確実にたくましく歩んでいる娘に、きっと誇りを感じたんだろう。
彼女のご両親の気持ちを思ったら、私も嬉しくなって涙が出て来た。

日本人にとっては、北京も上海も同じような、中国の一都市に見える。
でも、中国人にとって北京と上海は、外国と同じくらいに遠い。
もし自分の一人娘が外国で、外国人の上司の下で働くとなったら、
普通の親はどう思うだろうか。

特に、中国には植民地時代の記憶がある。日本に対しては、特別な感情もある。

幸先のよいスタートを切ったが、日本には悪平等の伝統がある。
もう少し出世したら、彼女もその壁にぶちあたるだろう。

でもそのときには、
彼女は、身につけた実力をもって、もっと広い世界に飛び立ってほしい。
そしてもっと高い視点から、私たちが愛するそれぞれの祖国を眺めてほしいと思う。