現在、秋田市立千秋美術館にて、ドキュメンタリー写真家・野町和嘉展「聖地巡礼」が開催されています。2日、いつもお世話になっている写真家の鎌田勉さんと共に、野町氏の講演会に出席して来ました。ご一緒頂いた鎌田さんは、2007年に土門拳文化賞・奨励賞を受賞され、秋田を拠点としてチベットやインド、東南アジアなど、主に仏教文化を背景とした地域を精力的に取材しカメラに収め続けています。現在は小学校や地元での講演活動を始めとして、お寺にも関わりながらご活躍されている写真家です。
さて、野町氏の講演は写真に関する事はもちろん、人間と自然、人間と宗教との関係性や、その背景にあるものなども含めてお話を頂き、大変勉強になるものでありました。野町氏は25歳の時に訪れたサハラ砂漠のスケールに圧倒され、過酷な環境に生きる人々に衝撃を受けた事をきっかけに、今日まで撮影を続けてこられたそうです。グローバル化で文明の平均化が進むとされる現代において、彼らの「生きる心の糧とは何か」という思いの下、約40年に渡って世界各国を取材し、「大地と祈り」の現場を見つめ続けてきたと言います。講演中、プロジェクターで映し出される写真と野町氏の語り口は、重厚さと共に明快な説得力があり、現場を見つめ続けてきた凄みを感じました。
「神から与えられた支え」として、年間1000万人を数えるという聖地「メッカ」への巡礼。そこには「心を裸にする空間」があるという事。そして、それが巨大な観光産業としても成立しているという事。何十万、何百万とも言える人々が一つのフレームに収り、祈りを捧げている写真は、圧倒的なスケールをもって見る者に迫り来るようでありました。
イスラムの理念や宗教、その背景を始めとして、各地域における風習や思想、風土がもたらす価値観なども含めてお話を頂き、人々の生きる姿、祈りの形を、写真を通して心に刻む事が出来ました。取材時の苦労話も交えて伺い、人間野町氏にも触れたような気がします。講演の中で特に印象に残ったのは、「神との距離間」、「宗教と日常との距離」という言葉でした。それぞれの距離間が生き方や思想に影響しているというお話を頂き、自分自身の立ち位置を考えさせられるものとなりました。
講演後に拝見した写真作品・オリジナルプリントは、以前から写真集で拝見していた作品以上に、圧倒的な凄みをもって心に迫るものを感じました。特に気になっていた1970~80年代にかけて撮影されたアフリカの作品は、それを前にして鳥肌が立つようでありました。砂漠の大地、その風土に生きる人々。それぞれの根幹を示すかの如く心に迫る作品群は、自分自身に強いメッセージと戒め、そして深い感動を与えて頂きました。と同時に、野町氏の優れた人間性の存在を実感出来たように思います。どうもありがとうございました。