子供の頃は「うばっち}とよんでいました。たぶん乳母乳(うばちち)のなまりなんだと思います。この花を摘んで花のもとのほうを口にくわえて吸うと「ポチッ」と小さな音がして甘い蜜が舌の上に落ちるんです。
80数年前子供だった私は小立岩という福島県側からの尾瀬登山口の檜枝岐村の隣の集落で暮らしていました。10数戸の小さな聚落です、子供のおやつなど売っているお店などありません。私たち子供はみんなふくべ(小さな瓢箪)に紐をつけて首から提げて遊んでいました、その中には稔らなかった青米と大豆を煎った物が入っていました。それをよく噛んでいると香ばしく甘くとても美味しいおやつになるのでした。それが親から渡されて美味しいおやつだったのです。食べ終わって空(から)になった小さな瓢箪の口を吹くと「プオー」と音がするのでフクベなんでしょうね。
それに私たち子供は野や山から美味しいおやつを採って食べていました、あけび・さなずら。やまぶどう・さるなし・はしばみ・くり・ぐみ・やず・ブナの実・・などなど、そのほかいっぱいあるんです。それについてこどもたちの間には面白いルールがありました。それはたれかがその美味しいものを見つけると「しめっ」と叫ぶんです。するとその物は最初に叫んだ者の所有物になるのです。それはたとえどんな力のあるガキ大将でも随わなければならない大事なルールでした。ですから私のような力の弱いものでも皆と同じく山や野のものを美味しくだべることが出来たのです。
でもこのオドリコソウ(うばっち)は違います。オドリコソウは群落をつくってたくさん咲いています。たれかが「うばっちだ!」と叫ぶとみんなが駆け寄ってそれぞれが花を手折ってぽちっと音をさせて蜜を吸うのです。それはほんとうに上品な甘さの蜜でした。
ですから91 歳の爺いになった私ですけどこのオドリコソウを見つけると「あっうばっちだ!」と心に叫んでとても幸せな気持ちになるんですよ。