20年ほど昔、私は集落の鎮守さまの氏子総代の会計係をやらされておりました。お祭りがあると私は神さまにお供えする物をそろえなければなりませんでした。その中にスルメが1枚ありました。
鎮守さまの祭礼のしきたりをしっかり受け継いでいらしゃる総代長さんはスルメは町の清水屋さんから求めてくるようにと私に言いました。
その頃は家の買い物のすべてはばばちゃんがやっていました。当時の私は「男子厨房に入らず」そういう生活の内々のことに手を出すのは男子の沽券に関わると思っていました。
(念のためにいっておきますけど、今の私はうちの食料の買い出しのすべて、朝の掃除洗濯、食後の食器洗いなどの後始末などなど・・まぁ内々の仕事の二分の一は私は楽しくやっています。もうばばちゃんが風邪を引いて家事が出来なくても私は動じなくなっています)
だから、スルメ1枚を町のお店屋さんから購入するのが気恥ずかしく思っていましたけど、総代長さんの言いつけですから勇をこしてスルメ1枚を買い求めました。
その乾物屋さんがこのお店です。20年前と少しも変わらず今も営業されています。
お店のご主人は笑顔でスルメ1枚を売って下さって、小さなポケット計算機でおつりを計算して私に見せてスルメを袋にいれて渡してくれました。私はなんか嬉しくって心が温まりました。
このお店では、お客さんがやってくると、お店の奥のご主人の前に置かれた椅子に腰掛けて世間話のあれこれをお茶など飲んで楽しんで、今日はアサリ100円をもらっていこうかなどと帰っていくんだと思います。そういうお店なんだと思います。
私のばばちゃんは、家の衣類のすべてを町の古い老舗の衣服のお店から求めています。このお店でなければ私の純白の昔の「サルマタ」に似た木綿の下着などは購入出来ないと思います。
ばばちゃんは町に用事があって出れば買い物があってもなくても必ずこのお店に立ち寄ってお話など楽しんでおります。だから町に出たばばちゃんのお迎えはこのお店に行くことになっています。親戚でも何でもないのにこのお店のおばあさんがお亡くなりになった時などはばばちゃんがお葬式に参列してたくさんのお返し物をもっらてきました。さすが老舗のお葬式は違うなと私は思ったものです。
私がばばちゃんを迎えにいくといつもご主人の奥さまがばばちゃんが車に乗るまで笑顔で送って下さるのでいつも恐縮しております。ばばちゃんが電話をすればいつでもご主人が品物を届けてくださいます。
町のあちこちにこのようにお店とお客の心の通いあうお店があって営業しているんですね。
私にしても文房具のボールペン一個、ペーパーボンド一個の購入にしたって量販店からではなくって古くからなじみのお店から購入しています。私はお店の方が私のことを知っていて下さっていて笑顔で言葉を交わしながら買い物が出来るのが嬉しいのです。
この前、ばばちゃんに言われてミカンを1箱を町のお店から買ってきました。元気だった頃のばばちゃんのなじみの八百屋さんです。私のことなど知っていらっしゃるはずなどないと思っていたのに「奥さまお元気ですか」と言われて私は驚きました。ばばちゃんが買い物をする間、車の中で待っていた私のことをちゃんと覚えていて下さったんですね。
やっぱり、量販店ではなくって個人経営のお店から買ったミカンは甘くて味が濃いなどと思いながらミカンを食べました。
考えて見れば私はもう87歳、90歳に近い古老です。心の通いあう町のお店での買い物は心があたたまって楽しいんです。