バカにしてはいけませんよ。小学校一年生だって恋をするんです。あと四日で87歳になるじじいの遠い夢の思い出です。
81年前、私が六歳になった春父は仕事で遠くの山の村に移りました。私は一週間ほど土地の小学校に入学して、そのあとに父のいる村の小学校に転校することになったのです。
新しく入学した同級生の仲間は40数人だったと思います。当時は幼稚園などありませんから小学校に入学する前は2~3人の幼なじみと遊んでいたのに新しく40数人もの仲間との出会いはそれはそれは驚異の新しい世界でした。
貧しい山の中の子どもの仲間です、みんな木綿の絣の着物にゆっこぎ(雪こぎ)といううもんぺをはいたはな垂れの子どもたちでした。
ところが、その仲間のなかに一人かけ離れた輝くような女の子がいたのです。外からお出でになったお金持ちの事務所の所長さんのお嬢さんででもあったんでしょうか、あでやかな洋服にスカートそして白いソックス、お人形のような可愛い顔立ち・・・
当然はな垂れの小僧の男どもの目は一点に集中しました、もちろん私とて初めてみた美しいお嬢さんに胸をとどろかせておりました。
担任の先生は仲間作りのひとつとして広い講堂(今の体育館)でつなぎ鬼という遊びをさせました。
一人の鬼をじゃんけんで決め、鬼は子を追うのです。タッチされたものは鬼になって手をつないで子を追うのです。やがて手をつないだ鬼の帯は長くなってすべての子をつかまえてゲームは終わるのです。
なんという幸せ!
私もタッチされて鬼の帯の端につきました。そして偶然にもあのあこがれのお姫様にタッチしてしまったのです。
だから私はゲームが終わるまでお姫様と手をつないでいることが出来たのです。
なんと言うんでしょうか、「突きあげる喜び!」「天にも登るような気持ち!」舞い上がったおかしな気持ちなんですよ。小学校一年生の私は初めて恋の喜びを味わったんですよ。
当然お姫様がはな垂れ小僧の私のことなど目に止めてもらえるはずなど少しもなっかたのにです。
それから81年、私の人生にひそやかな片思いなどは別として恋の喜びはたったこれ一度だけです、幸せと言うんでしょうか、それともさみしい人生と言うんでしょうか、私は神さんに見放されていた人生だったような気がするんですけど、 神さんはどうも公平ではないように思うんですけど、どうなんでしょうか