元服すると同時に切腹すること前提に、元服するまで10年間ほど生かされ、15歳で元服したその日に切腹したり、ってこともあったかも…などと妄想してみる。
―門扉が固く閉ざされた古い屋敷に住む少年、祐之介。けして屋敷から出ることが許されず、武家の子息だが藩校に通ったりすることもなく、いつも独りで書物を読んだり剣術の稽古をしたりしている。
周囲の大人たちは皆、祐之介の父が十年前、同輩を切り殺してしまい直後に自刃したことを知っている。代わりに責めを負うことになった祐之介が十五歳で元服した後切腹することがすでに決まっているということも。しかし祐之介と同年代の子供たちには知らされてはいない。祐之介が元服、そして切腹する日(日付としては、祐之介の父が刃傷沙汰を起こし直後に自刃して果てた日)が一年後に迫っていた。
古い屋敷に自分たちと同年代の少年が住んでいるらしいというのを、周辺に住む武家の子供たちはなんとなく知ってはいるが、直接言葉を交わしたりした者はいない。その中の一人和馬が「屋敷に住む少年の父は昔大罪を犯した後に自害した」ということを知る。和馬はそれを友達数人に言いふらした後、屋敷に忍び込んで罪人の息子とはどんなやつか見てやろうと企てる。
「何者だ…!名を名乗れ!」ある日、独り剣術の稽古をしていた祐之介と、忍び込んだ和馬たち三人が顔を合わせる。罪人の息子と軽蔑する和馬たちと、他人は何をか言うだろうが誇りだけは失うなと育てられた祐之介は最悪の出会い方をした。
罵る和馬たちを祐之介は木刀で打ちのめす。思わぬ反撃に遭いほうほうの体で逃げ帰った和馬たちは、次の日真剣を携えて祐之介に仕返しをしに行く。しかし向けられた真剣を恐れるどころか木刀で立ち向かってくる祐之介に、和馬は驚き振り回した真剣で怪我をさせてしまう。
その場は慌てて逃げ帰った和馬だったが、数日後どうしても祐之介の様子が気になり、再び屋敷に忍び込む。書物を読む祐之介の腕には包帯が巻かれていた。和馬に気づいた祐之介は木刀を手に取るが、痛みに木刀を取り落とす。和馬は怪我をさせたことを謝り、怪我をさせたのは本意ではなく、ただ脅す目的だったと白状する。さらに真剣を向けられて恐くはなかったのかと聞く。祐之介は、命などもともと無いものだと思えば何も恐くはない、ただ武士としての誇りを失いたくはないのだと話す。
祐之介の堂々とした態度に、憧れに近い感動を覚えた和馬はそれから毎日祐之介の屋敷へ向かうようになる。ある時は剣術を教えてもらい、ある時は屋敷の外の様子などを話して聞かせた。和馬の誘いで他の二人も屋敷に通うようになり、祐之介と和馬たちはもとからの幼馴染のように付き合うようになった。
しかし、しばらくして屋敷に通っていることが和馬の親に知れてしまい、和馬たちは屋敷に通うことを禁じられる。それでも周囲の目を掻い潜って久しぶりに屋敷に忍び込む三人。祐之介には会えたのだが、祐之介の態度がこれまでと違ってよそよそしい。少しも話さないうちに理由も告げず帰ってくれという。屋敷からの帰り道、憤慨しもやもやした気持ちを抑えきれない三人。
その夜、和馬は親に今日祐之介の屋敷に行っていたことを叱られ、祐之介はもうすぐ切腹するということを告げられる。気が動転し、家を飛び出す和馬。屋敷に向かおうとするが、それもできず町はずれの河原に立ちつくす。
切腹の期日が迫り、屋敷の前には見張りが立つようになる。和馬たち三人は今まで以上に厳しくなった監視の目をなんとか掻い潜り夜陰に紛れて屋敷に忍び込む。
庭に祐之介が独り佇んでいた。すでに前髪は落とされ、月代が剃られている。和馬は供に逃げようと祐之介に百姓の着物を押し付ける。祐之介は首を横に振る。「自分は武士の子として生き、武士の子として死ぬ」と。「俺はお前を失いたくない、俺も武士を捨てるからお前も一緒に来い」和馬の顔は紅潮し大粒の涙が溢れる。祐之介も涙をこらえ、「この一年は一生分の思い出になった、来世でもまた和馬たちに会いたい」と言う。和馬はいきなり持ってきた短刀を抜き腹に突き立てようとするが、寸でのところで祐之介たちに押しとどめられる。「祐之介と供に生きられないというのなら供に死ぬ」という和馬に、祐之介は「俺の分まで生きて俺という武士の子がいたということを忘れないでいてくれ」と言う。「俺のことを知っているのはお前たち三人だけだから」と。
「誰かそこにいるのか!」見張りが近づいてくる。崩れ落ちるように泣く和馬を抱えて夜陰に紛れて行く二人の顔も涙でぐしゃぐしゃになっていた。
翌日、祐之介は作法通り腹を一文字にかき切って果てた。屋敷に赴いた検死役の話によると、歳十五ながら少しも取り乱すことなく介錯人にも気を使い、右脇腹まで短刀を引き回した後は微かな笑みすら浮かべていたという。武士の名に恥じぬ見事な切腹であった、と。
祐之介切腹の数日後、和馬が行方知れずになる。いずこかで追腹を切ったとか、武士に嫌気が差して出奔したとか、いろいろな噂が流れたが定かではない。
切腹という死刑執行まで10年間猶予期間がある、っていう状況はたぶんありえなかっただろう。若くして人に死を強制されるっていうことが分かっていながら10年生きるっていうのは残酷過ぎる。
それはさておき。この話、エロ要素グロ要素は極力省いてみた。エロ要素を入れるんなら、祐之介と和馬の付き合いの中で、和馬がウブな祐之介に千摺りを教えてやったりとか、切腹前日の夜、初めて二人が結ばれたりしてもよかったかも。
長い話にするんなら、事情を何も知らない和馬たちが祐之介に切腹の作法を教わったり、祐之介の日課である切腹の作法の復習をしたりする場面なんか入れてみたい。祐之介が「遅かれ早かれ俺は腹を切って死ぬんだから」と自棄になり短刀を腹にあてがって、しかし踏ん切りがつかず思い悩む場面なんかも。
別談として、切腹の当日祐之介がどのように過ごしたのか、などということも気になります。しかし、そうなると必然的にエロ要素とグロ要素も絡んでくるので、今回のゴッコ様の真意にはそぐわなくなってしまうのかもしれませんね。
和馬たちが屋敷を出た後から、翌日切腹するまでの祐之介の行動と心理描写を描くと物語のクライマックスになりそうですね。確かに、書くのならエロとグロもふんだんに入ることになるでしょう。切腹フェチが書く切腹フェチのための物語ならそれがなければ面白くないですよね。自分にはそれを魅力的に書く文章力がないので、その部分はそれぞれ想像におまかせしたいと思います。