兵藤恵昭の日記 田舎町の歴史談義

博徒史、博徒の墓巡りに興味があります。博徒、アウトローの本を拾い読みした内容を書いています。

竹居安五郎と祐天仙之助、甲州博徒の抗争

2018年11月30日 | 歴史
明治4年処刑直前に黒駒勝蔵が、自身の博徒としての半生を記録した「口供書」がある。勝蔵は、天保3年(1832年)4月15日上黒駒村百姓嘉兵衛の次男に生まれ、安政3年、25歳のとき欠落逃亡し、近隣博徒親分の竹居村甚兵衛の子分となった。甚兵衛には「吃安」と異名をとる安五郎という弟がいた。

勝蔵と安五郎は各地で賭場を開帳し、勢力拡大、子分90人を従える博徒となった。安五郎・勝蔵グループは勢力拡大すると、甲府の大親分柳町卯吉の跡を継いだ修験の祐天仙之助・国分村三蔵・上州浪人犬上群次郎らと対立、文久元年の春頃から激しい抗争を繰り返すこととなる。

文久元年(1861年)3月12日、国分三蔵の指示を受けて、勝蔵の子分の無宿兼吉が、三蔵子分の無宿源吉に斬殺された。殺害した源吉が殺された兼吉の脇差を奪って、これ見よがしに誇示した。黒駒勝蔵が国分三蔵にその意図を問いただした。三蔵は知らぬ存ぜぬとはぐらかした。安五郎・勝蔵は自ら勢力の無さを相手に侮られたと感じ、仙之助・三蔵陣営に決闘状を送り、両陣営は本格的抗争に至った。

5月29日夜、安五郎・勝蔵側が祐天仙之助子分の源吉を斬殺した。これを知った仙之助・三蔵側は子分30余人を集め、鑓・鉄砲を持たせて、報復として安五郎・勝蔵側の中川村の新左衛門、吉田村の房吉の2名を殺害した。祐天側の報復を知った安五郎・勝蔵側はこの仇を討つべく、黒駒山に100名近くの手勢を招集した。この騒ぎは甲州東郡に大混乱を招いた。

甲府、石和、田安の三つの代官所は、千人余りの捕り方を派遣して、安五郎の捕縛に動いた。安五郎、勝蔵ともに博徒として一家を構え、一人前の親分となっていた。当時、勝蔵一家は安五郎一家の勢力には及ばず、大物と言えるほどの博徒の力量ではなかったが、その戦闘力は他の博徒から恐れられていた。一方、安五郎一家は、すでに甲州で大物博徒として名を売っていた。

安五郎の子分招集の目的が、自分の首を取ることと知った祐天仙之助は、6月8日、大菩薩峠を越えて武蔵国へ逃れた。一方、代官所の捕り方派遣を知った勝蔵も、安五郎を残し、甲斐国から逃亡した。武蔵国へ逃亡した祐天仙之助は、勝蔵の不在を知り、間もなく甲州に帰国した。

祐天は甲州勤番から十手を預かる目明しである。盟友の国分三蔵は関東取締出役の手先と言われる十手持ちである。国分三蔵は、変名で武州高萩を根城とする万次郎というの二足草鞋の博徒という説もあった。三蔵は関東取締出役の命を受け、甲州入りし、国分村に定着して、活動していた。

三蔵は、戦闘力のある黒駒勝蔵を甲州から追放しようと企み、見事成功した。勝蔵は甲州を脱出し、駿河に逃れざるを得なくなった。安五郎は、後ろ盾の兄・甚兵衛が急逝し、股肱の子分の勝蔵も失い、孤立していた。そこに付け込んだ祐天仙之助は、盟友の国分三蔵、上州舘林藩浪人犬上郡次郎と策を弄して、安五郎捕縛へと追い詰めていく。

祐天の策は、犬上郡次郎を安五郎の元へ間者として送り込むことだった。当時、犬上郡次郎は関東取締出役から手配されており、捕縛の命を受けた祐天は勝沼村で郡次郎を捕縛、身柄を舘林藩へ引き渡した。その後、郡次郎の容疑が晴れ、再び甲州に戻ってきた。その際、郡次郎は安五郎のもとを訪れ、祐天の策略に陥り、捕縛され残念であると言い、祐天を討つための助力を安五郎に要請した。安五郎はこれを承諾、郡次郎を身内にする。

それから約1年後、信用した郡次郎に連れられて、安五郎は檜峯神社神主武藤外記屋敷で碁石の帰途、郡次郎の誘いでいつもの帰り道を変えた。桑畑に潜んでいた三蔵の一味に捕縛される。文久2年(1862年)2月17日、一緒に捕縛したのは石和代官所役人であった。翌月、安五郎の身柄は石和代官所から甲府番所牢へ移され、厳重な警戒が敷かれた。半年後の10月6日、安五郎は牢内で死亡した。

駿河で安五郎の死を知った勝蔵は「憤激に堪えず」と言って、以後復讐のため、祐天・三蔵・郡次郎の3人の殺害を決意する。奇跡ともいうべき島抜けして帰った親不孝の息子を一貫して見守り続けた母やすは、安五郎の最期を見届け、半年後の8月29日この世を去った。
参考「日記資料に見る博徒黒駒勝蔵の文久元年以降の動向について」原祥著・山梨郷土研究会・甲斐145号


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博徒・竹居安五郎の三つのお墓


下の写真は八代町竹居にある浄源寺の安五郎の墓。安五郎捕縛の日である文久2年2月17日を没年としている。側面には「中村甚兵衛建立」と刻まれている。甚兵衛とは安五郎の父親である。
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