「戸塚の車内トラブルってなんだったんだろうね?」
今朝、駅で会った男が言った。
文庫本だ。
正確には車中で会った。
通路を挟んで隣の列に座っていたようだ。
ところが。
それを聞かれた方の男は、
そんな車内アナウンスすら聞いていない。
昨夜のこと。
電車が大幅に遅延したことで、
帰宅が想定より遅れた。
1時間で終わるはずだった仕事は、
思いのほか捗り、気付けば3時だった。
それも想定外だった。
睡眠時間も想定外に削られた。
そのような状態での出勤。
電車に乗り、電子新聞に接続し、
NISAの記事を一文字読んだ瞬間に寝た。
つまり、文庫本が電車に乗り込んだ時点で、
電子新聞はすでに夢の中。
戸塚に着く頃には、
もう夢の中で分析を終えている。
後は文庫本が戦略を立てるのを待っている。
電子新聞は文庫本と一昨日に会っている。
拳を合わせたのだ。
そして、翌日も会うだろう。
音を合わせるのだ。
改札を出る別れ際、
文庫本が言った。
「今日も1日無事で過ごせますように。
行ってらっしゃい。」
何て素敵な挨拶だ。
電子新聞は文庫本に到底敵わない。
敵うはずがない。
スペックが違い過ぎる。
良い朝だった。
ただし、文庫本が本当にそんな事を言ったかは定かではない。
電子新聞はまだ目覚めていなかった。