額に文字といえばマンガ「キン肉マン」を思い浮かべます。
東北地方では「ヤスコ」「アヤツコ」ともいわれ、乳幼児の額に×、犬、○などの文字を書き魔よけとする習俗です。
「アヤ」は×または十字を意味して、もとは×や十であった記号が犬、大などに変化したと考えられていて、東北に限らず全国に見られ、鎌倉時代には皇子女の幼少時の外出前に額に「犬」と奉書する慣習もあったとの事。
幼児だけでなく、葬送儀礼において遺体や葬儀を出す家に×印を記す習俗も全国に見られます。
「七歳までは神のうち」であった幼少時と、人が亡くなった印としての×や十。
まじないや民話の中に登場する二つの線が交わる記号は、ある種の神秘性を持っているようです。道路の交差する「つじ」は異界と現世の出会う場所ともいわれ、辻占いは現在でも生きている他、×には封筒の綴じ目に書かれるように封印の意味もあります。
青森県三戸郡地方や階上町晴山沢地区では三十三年忌に「マッカトウバ」「マダカリトウバ」といわれる、上部が二股または三叉になった落葉樹の丸木の塔婆を立てる習慣があり、アイヌと青森、岩手二県で同じ習俗が認められます。東日本には広く動物供養のためY字型塔婆を立てる習慣があったと記録されていますが、人の供養のための二股、三股の塔婆は弔いあげの際で、神様の領域へ移行する大きな区切りであり、人と神との境界を暗示しています。
十字型の他にY字型に関しては、二股の間から覗くと魔性の者が見分けられるとする俗信も多く、以下のような例もあり、十字型と意味の重なる部分も見られます。
・菅江真澄「けふのせばのゝ」 和賀と江刺の境界争いに白狐が現れたことから、二股の木を植えて境界を決めた
・古事記 根国行き 最後の部分 大国主命となった大穴牟遅神は八上比売を因幡から出雲へ連れてくるが、正妻の須世理毘売を畏れて生まれた子供を木の股にはさんで因幡へ帰ってしまった
×や十、Y型に関する習俗、伝承を拾い上げてきましたが、実はこれは前フリです。
「三頭木には神が宿る」という言い伝えを調べています。「三頭木」とは同じような太さで三股に分かれている木のことです。
三股に分かれた木の形を見ると、その要素としてYと十の形を含んでいて、型の持つ意味合いは伝承の意味を浮き上がらせてくれると思うのです。
林業・杣・山子の関連書籍を調べていくと、確かにこの言い伝えが出てきます。
『東北の生業 1 農林業』(明玄書房 昭和55年発行)では東北6県の内秋田県を除く全ての県で「三股の木」についての記載があり、秋田県に記載がないのは秋田杉についての記載で紙数を割いているため、このような伝承がないからではないと推察できます。
三股の木は ・神が宿る ・惜しみの木
・山の神である ・山の神のとまり木
・神の休み場である
表現は少しずつ違いますが、山の神と深く関係のある木が三股の木であることが分かります。
この他、「窓木」といわれる木も記載されていますが、二股になった木の枝が窓を開けたように上で交わる場合の他、単に二股の木としている場合もあり、上のY字型の俗信にもある通り、のぞき窓としての意味合いがあると思われます。
ここまで書いてきて、二股も三股もおなじでは ? と感じた方も多いと思いますが、三股の木について別の見方からの話はまだ続きます。
参考図書
しぐさの民俗学
井之口章次 日本の俗信
近代八戸地方の農村生活 八戸市発行
人・他界・馬
古事記
東北の生業 1 農林業(明玄書房 昭和55年発行)
東北地方では「ヤスコ」「アヤツコ」ともいわれ、乳幼児の額に×、犬、○などの文字を書き魔よけとする習俗です。
「アヤ」は×または十字を意味して、もとは×や十であった記号が犬、大などに変化したと考えられていて、東北に限らず全国に見られ、鎌倉時代には皇子女の幼少時の外出前に額に「犬」と奉書する慣習もあったとの事。
幼児だけでなく、葬送儀礼において遺体や葬儀を出す家に×印を記す習俗も全国に見られます。
「七歳までは神のうち」であった幼少時と、人が亡くなった印としての×や十。
まじないや民話の中に登場する二つの線が交わる記号は、ある種の神秘性を持っているようです。道路の交差する「つじ」は異界と現世の出会う場所ともいわれ、辻占いは現在でも生きている他、×には封筒の綴じ目に書かれるように封印の意味もあります。
青森県三戸郡地方や階上町晴山沢地区では三十三年忌に「マッカトウバ」「マダカリトウバ」といわれる、上部が二股または三叉になった落葉樹の丸木の塔婆を立てる習慣があり、アイヌと青森、岩手二県で同じ習俗が認められます。東日本には広く動物供養のためY字型塔婆を立てる習慣があったと記録されていますが、人の供養のための二股、三股の塔婆は弔いあげの際で、神様の領域へ移行する大きな区切りであり、人と神との境界を暗示しています。
十字型の他にY字型に関しては、二股の間から覗くと魔性の者が見分けられるとする俗信も多く、以下のような例もあり、十字型と意味の重なる部分も見られます。
・菅江真澄「けふのせばのゝ」 和賀と江刺の境界争いに白狐が現れたことから、二股の木を植えて境界を決めた
・古事記 根国行き 最後の部分 大国主命となった大穴牟遅神は八上比売を因幡から出雲へ連れてくるが、正妻の須世理毘売を畏れて生まれた子供を木の股にはさんで因幡へ帰ってしまった
×や十、Y型に関する習俗、伝承を拾い上げてきましたが、実はこれは前フリです。
「三頭木には神が宿る」という言い伝えを調べています。「三頭木」とは同じような太さで三股に分かれている木のことです。
三股に分かれた木の形を見ると、その要素としてYと十の形を含んでいて、型の持つ意味合いは伝承の意味を浮き上がらせてくれると思うのです。
林業・杣・山子の関連書籍を調べていくと、確かにこの言い伝えが出てきます。
『東北の生業 1 農林業』(明玄書房 昭和55年発行)では東北6県の内秋田県を除く全ての県で「三股の木」についての記載があり、秋田県に記載がないのは秋田杉についての記載で紙数を割いているため、このような伝承がないからではないと推察できます。
三股の木は ・神が宿る ・惜しみの木
・山の神である ・山の神のとまり木
・神の休み場である
表現は少しずつ違いますが、山の神と深く関係のある木が三股の木であることが分かります。
この他、「窓木」といわれる木も記載されていますが、二股になった木の枝が窓を開けたように上で交わる場合の他、単に二股の木としている場合もあり、上のY字型の俗信にもある通り、のぞき窓としての意味合いがあると思われます。
ここまで書いてきて、二股も三股もおなじでは ? と感じた方も多いと思いますが、三股の木について別の見方からの話はまだ続きます。
参考図書
しぐさの民俗学
井之口章次 日本の俗信
近代八戸地方の農村生活 八戸市発行
人・他界・馬
古事記
東北の生業 1 農林業(明玄書房 昭和55年発行)