老いの途中で・・・

人生という“旅”は自分でゴールを設定できない旅。
“老い”を身近に感じつつ、近況や色々な思いを記します。

市川昆監督の戦争映画  その③  ~「野火」1959年 大映~

2017年08月27日 19時21分12秒 | その他
 大岡昇平の小説を実写化した戦争ドラマで、第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、野戦病院を追い出されてあてもなくさまよう日本軍兵士の姿を追う。

 照りつける太陽、そして空腹と孤独によって精神と肉体を衰弱させていく
仲間を失った田村は、草を食べて生き延びていたし、現地住民を殺害して貴重な塩を横取りすることにも躊躇いはなかった。

 やがて生き別れたかつての仲間である永松と安田と再会するのだが、彼らは殺した味方の兵士を“猿”と称し、その肉を食べるに到っていた。


 船越英二、滝沢修、ミッキーカーチスの熱演で、飢えという極限状態に追い込まれ生と死の境界線を彷徨う日本兵にとっての相手はもはや米兵ではなく、口に入るものを求めるのが全てと言う状況が余りにもリアルに描かれています。

 特にこの映画の上映時にも話題になった、ミッキーカーチスがさりげなく演じる狂気は、背筋が冷たくなるほどでしたが、私の叔父がレイテ島で戦死していますので、余計に印象に残っている映画です。


(追記)
・題名の「野火」が何を意味するのか判らなかったのですが、今回漸く「野火」とは原住民が米やトウモロコシなどを収穫した後で、その茎などを焼く時の煙と言う事が判りました。
逃げまどう日本兵にとっては、恋しいが絶対に近寄れない俗世間の象徴なのでしょう。
・「野火」については、2015年に塚本晋也監督・主演で再映画化されたようです。


 このように市川昆監督の戦争映画を纏めて観ましたが、本当に重い映画ばかりで、普段は映画観賞時には水割りを片手にしている私も、今回だけは身じろぎも忘れて見入っていました。
普段は戦争総映画を好まないツレアイも、この3本の映画には最後まで付き合ってくれ、最後に、「こんな時代に生まれずに良かったね」という感想を一言もらしました。

 本当にその通りなのですが、戦争の記憶がない若い世代にも、戦争は決して格好良い物ではなく、前線に立たされた兵士の悲惨な様子を感じて貰うためにも、このような映画を観る機会がもっと増えれば良いのですが…(まさ)