興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

needsとwants

2011-01-30 | プチ臨床心理学
 最近アメリカ人のあるクライアントの話を聞いていて感心したことがある。その人がいうには、「私は自分のNeedsは基本的に満たしているけれど、Wantsについては結構無視しているところがある」ということだったのだけれど、これは実際、我々人間の人生の満足度、幸福度、メンタルヘルスにおいて非常に大切なポイントである。たとえば、人が精神的になんらかも問題を抱いたときに、まず必ずといっていいほど、その人にとってのNeedsとWantsにおいて問題が生じている。この「問題」にも実にいろいろな種類があり、たとえばこのクライアントのように、自分の「Needs」と「Wants」の違いについてきちんと認識できているひともいれば、NeedsとWantsを混同している人もいるし、本当は自分のなかに存在しているNeedsやWantsを否定、否認することで精神に支障を来たしているひともいるし、それから、何が自分のNeedsやWantsであるのか分からない、という人も世の中少なくない。本当は自分にとってNeedsでもWantsでもないのに、偽りの自分がそれらを求めていて、その偽物のNeedsやWantsによって生活や人間関係に問題が生じている人もいる。

 前置きがだいぶ長くなったけれど、それではNeedsとWantsの違いは何だろうか。もちろんこれらは重複することがあり、それからその人の気持ちや状況が変わることで入れ替わったり変化したりもするので、絶対的なものではないことが多い。そこを踏まえたうえで、便宜的に、この2つを切り離して考えてみたいと思う。
 経済学において、Needsといえば、「我々の生活にとって『必要』不可欠なもの」、つまり、食べ物、住居、服、医療などである。それとは逆に、Wantsとは、「必ずしも生きていくうえで不可欠なものではないけれども希求するもの」で、たとえば、我々は食べ物が必要だけれど、それが会席料理である「必要」もないし、服がブランドものでなければならないこともないし、住居が豪邸でなければならないこともないし、医療にしても、レーシックや、美容整形手術がなければ生きていけない、ということもないだろう。

 もちろん例外はある。たとえば、事故や大やけどなどでどうしても生活の質において、精神衛生において、整形手術が欠かせないこともあるし、重度の性同一性障害の人の外科的手術も、Needsであると思う。住居が豪邸である必要はないと書いたけれど、たとえば10代の子供が4人いて、祖父母が同居している8人家族がワンルームのアパートに住むわけにはいかず、彼らにはそれなりに大きな住居がどうしても欠かせないだろう。このように考えてみると分かってくるのは、臨床心理学、つまり、人間のメンタルヘルスにおけるNeedsとWantsというのはかなり相対的なもので、人生における状況や問題によってひとそれぞれかなり異なってくるということだ。

(たぶん続く)