朝。
冷蔵庫の上に置いてあるバスケットに入っていたミラーボールの箱を息子がたまたま見つけて、
「ミラーボールやりたい!ミラーボールとる。パパだっこ!」
と言った。それは1年ぐらい前に彼と一緒に出かけた時にAwesome Storeで買ったもので、1000円ぐらいだったのであまり期待しないで買ったら電池式ではなくまさかの電源式で、結構本格的なものだった。
妻がすかさず
「箱だけだよ。中身はないよ」
と言ったら、
「なかみ たしかめてみる。パパだっこして」
と言うので、抱っこして自分で箱を取らせた。なんでも自分でやりたがる。
箱は確かに空っぽだったけど、その奥にミラーボールの本体があったのを彼は目敏く見つけてしまった。
「あったあった!ミラーボールあったよ!」
とはしゃぐので、
「本当だ。あったね。でも、○○これからAに(一時保育に)出かけるし、Aから帰ってきたらやろうよ」、妻も、「そうだよ。帰ってきてからやろう」
と言うと、彼は、
「かえってきてからはやだ!いまやりたい!」
と言ってきかないので、こちらも少し考えて、
「そうだねえ。今やりたいよねえ。でもね、○○、見て!部屋の中、こんなに明るい。これが朝なんだよ。こんなに明るいとミラーボールやってもあんまり楽しくないよ」
と伝えてみた。
まだシャッターは1箇所しか開けていなかったがそこから入ってくる朝日がリビング全体を明るくしていた。
息子は無言で部屋を見渡して、なるほどいう表情をしたので、よかった、納得した、と思っていたら。
彼はおもむろに金属の踏み台を「よいしょよいしょ」と運んできて、そのリビングの大きなガラス戸の前に置いた。結構重い踏み台だが、いつしかこれは我が家では彼の手足の一部のようになっている。
不思議なところに踏み台を置くものだな、と思い、次の瞬間にハッとした。
もしかして、と思い、とりあえず彼を静観してみることにした。
すると彼はまずレースのカーテンを開け、ガラス戸の鍵を開け、その引き戸を開けると、用意しておいた踏み台に乗り、床から150センチぐらいの高さに垂れているシャッターの紐をしっかり掴んで、ゆっくりとシャッターを下ろしてしまった。
部屋は再び真っ暗になった。
私は彼の知恵と諦めない姿勢に感動してしまい、
「やれやれ、パパの負けだ。○○の勝ちだよ」
と言った。妻もやはり感心していた。
彼は嬉々として、
「パパのまけ?○○のかち?」
と言うので、「うん、そうだよ。○○の勝ち。シャッターを閉めたら部屋は暗くなってミラーボールが楽しいね。すごいアイディアだよ。じゃあ、ちょっとだけだよ。これから出かけるんだし」
と言うと、彼は「やった!やったぁ!ミラーボール!ミラーボール!」
と大はしゃぎになり、ミラーボールを自分で電源に繋いだ。
晴れた朝なのに部屋は真っ暗で、カラフルなミラーボールの光は確かにきれいだった。
昨夜の節分で部屋中まだ豆だらけだし、2月に入ったのに大きなクリスマスツリーも健在で、朝なのに80年台のディスコのようなミラーボールがくるくる回っていて、そこにはハイテンションの3歳児がいて、なんとも不思議な異空間だった。