東京の自宅から一般道を走り、6時間かけて、浅間山の外輪山に位置する車坂峠の麓に到着しました。
小諸市内へ向かう途中で、「鉄兵」という看板を掲げた居酒屋を見付けたので、空き地に車を停めて暖簾を潜りました。
客の居ない店の中、寛いだ様子で、小上がりへ座ってテレビを見ていたご亭主に、「まだ大丈夫ですか?」と声を掛けました。
「ええ、どうぞ」と言いながら、ご亭主は、カウンターに座った私の前に立ちます。
「お店は何時までですか?」と聞くと、
「朝が早いので、そろそろと思いますが、11時ぐらいまでなら大丈夫です。朝野球をやっているものですから」
「車をあそこの空き地へ停めましたが大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫です。どちらから来られたのですか?」
「東京です。車の中に泊まって、明日の朝から黒斑山へ登って花の写真を撮るつもりです」
「ご趣味ですか?」
「ええ、2年前に定年退職して、花の写真を撮り歩いています」
「そうですか、花の写真はいい趣味ですね。私は野球しかできませんが」
「野球は永くされているのですか?」
「そうです。もう朝野球を始めて45年ほどになるでしょうか」
「それは凄い。ずーとこちらで?」
「ええ、この店を始めてから30年になりますが、その前から朝野球をやっていました」
そういわれて、店内を見回すと、レトロな雰囲気のポスターが目に入ります。
しかし、店内はこざっぱりと掃除が行き届いて、古びた様子はありません。
カウンター横の壁には、アウトローと名が入った野球チームの集合写真が貼ってありました。
棚には7、8個のトロフィーも並んでいます。
トロフィーを見ながら 「結構強そうですね」
「いやー、2位まではいくんですけど、優勝がないんですよ」
「ポジションはどちらですか? まだ現役ですか?」
「いえいえ、30年ほど監督をしていましたが、今は世話役です」
「しかし、この商売で、よく朝野球を続けてこられましたね。凄いな~!」
「昔は寝ないで、朝グラウンドへ駆け付けたこともありました。一度だけ、父親が亡くなった日に休んだだけです。」
「へー、大したものだ。朝は辛くないですか?」
「朝一番に行かなければ、誰も言うことなんて聞きません。真っ先にグラウンドへ行って、準備しているぐらいでなければ、続かないです」
「いやー、凄い話だ。そうだ、この話をブログに書かせてもらおうかな、いいですか?」
「ええどうぞ、かまいませんよ」
ということで、許可を頂いたので、パチリと。
この夜は、お銚子二本と漬物の盛り合わせ、素敵なお話にすっかり気持ち良くなって、お会計は1800円でした。
高速道路の料金を節約して、寝酒をと思って入った小諸の居酒屋「鉄兵」さんでしたが、印象に残る素敵な夜となりました。
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