2020年2月29日午前8時5分、ゆっくりとフェリーは長崎港の岸壁を離れました。
やがて美しい斜張橋の下を通過し、フェリーは外海へと進んで行きます。
フェリーが目指す先は、五島列島最南端の福江島です。
実は今日から、福江島でツバキ愛好家によるツバキサミットが開かれる予定でした。
しかし、予期せぬコロナウイルスの拡大で、1週間程前に突然の中止が決まっていました。
ですから今日、私が目指す福江島に、私を待つ人は誰もいません。
灰色の雲に覆われた、霧雨が降る東シナ海を、フェリーは淡々と航路を刻みます。
やがて視界の先に、福江島と平らかな五島市街が見えてきました。
フェリーはそのまま、小さな赤い灯台が迎える島の港に進み、
フェリーは何事もなく、定刻の11時15分に福江港に到着しました。
そして私は、この後すぐに、隣の久賀島(ひさかしま)へ渡る予定です。
福江港の案内所で確認すると、1号桟橋に泊まる黄色い「シーガル」という小船が久賀島へ渡ると知らされました。
渡船が出る12時5分までの間に、港付近の食堂でラーメンを食べ、久賀島を目指すシーガルに乗り込みました。
乗客は私以外、島の住人と思しき3人だけです。
船内の目立つ場所に赤字で「久賀島は交通機関が限られます。事前確認をお願いします」に続き、久賀タクシーの電話番号が記されたポスターが掲げられていました。
私は事前に久賀島のレンタカーを予約してるあるので、島の港にレンタカー会社の迎えが待っている筈です。
暫くするとシーガルは、小雨に濡れる港の桟橋を離れました。
船内に掲げられたテレビに、北海道で新型コロナウイルス患者が増えているニュースが報じられていました。
日本全国に、新型コロナウイルスの影響が及び始めたようです。
しかしそんなニュースを横目に、船足は至って順調です。
ところで私は近年、北海道へ渡る太平洋フェリーなど大きな船は乗っていますが、船縁で波しぶきを浴びるよう小船に乗るのは数十年ぶりかもしれません。
船上から島影を写す時、手元に波しぶきがあがることに新鮮な感動を覚えたりします。
視界の先に、福江島に掛かる赤い橋が見えてきました。
順調に旅が進めば、明日はあの橋を渡る予定なのです。
小船の上から、田ノ浦の瀬戸の水の上に、久賀島の印象的な白い浜脇協会が見えていました。
それにしても、教会の周囲に人家が殆ど見えません。
蒼緑の森を背に、白い協会がポツンと立つのみです。
シーガルは当り前の素振りで久賀島田ノ浦港に接岸し、私は滞りなく迎えの車に乗り込み、レンタカー会社事務所のある、久賀町の中心部へと向かいました。