邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

昭和41年版の義経その2

2005年08月12日 | ★ぐっとくる時代劇
昭和41年版の総集編第一部では
義経の兄を慕ういちずな面と、
戦において
神かかり的な手腕を発揮する天才武将としての面
そして
頼朝との亀裂の始まりが描かれていた。

一の谷の奇襲で華々しい勝利を収めたまさにその日、
金売り吉次(加東大介)が義経を案じ、
平泉からの出立を止めなかった自分を責めて
泣くシーンがあり
その後の義経の運命を思うときわめて暗示的だった。

あまりの栄達、飛びぬけた才能のほとばしりと共に
儚さや危さもすでに見えていたのか。

尾上菊之助(現菊五郎)には常人とかけ離れた神秘的なオーラが漂う。

ピュアで全瞬間全力投球の一生懸命さに
応援せずにいられなくなるのだ。
真摯なまなざしは見るものの心を芯から熱くさせる。

屋島での決戦は
さらっと逸話のみで流されていたが
圧巻だったのは
壇ノ浦の合戦だった!

まず空から当時の(現代)壇ノ浦地区の
入り組んだ地形を鮮明に映し出し、
さらに絵図面で平家と源氏の船の配置を
時間を追って克明に記している。

800年以上たった今も変わらないという、
当地の特異な潮の流れも詳しく説明されていた。

丁寧な説明によって
手にとるように義経の巧妙な作戦がわかる仕組みだ。

そしていよいよ合戦シーンになるのだが
驚いたことに
すべての音楽は消され、
びゅんびゅん鳴る弓の音と
掛け声、叫び声のみが聞こえ、
まるでドキュメンタリーを見ているかのような
緊迫感をあおってくる。

カメラは船の下、横、上からと
あらゆるアングルで、
斬りあい、組みあいながら
共に海に落ちる凄まじい戦闘を映し出す。

郎党たちの体を張った大熱演もさることながら
中村富十郎演じる知盛と、
強弓として知られる能登守教経(山口崇)の猛将ぶり
には震えがくるほど興奮した。


船に乗った大将同士が
共に名乗りを挙げる古式に乗っ取った戦い方にも注目した。

女官たちの入水の場面は
哀しみに満ちている。
海中に漂う黒髪と沈んでいく兜。
無音の深海の美しさ。

ここにいたって、
「滅びの美学」の真の意味、
「無常」ということ、
「壇ノ浦の戦い」がなぜ私たちの心をつかむのかがわかった!

驚異の勝利を収めた義経を、
称えるどころか
頼朝は言い知れぬ不安を感じ、
もはや自分の手にあまると判断する。

頼朝の心をはじめて知った義経が
驚いて鎌倉に駆けつけるが面会を拒否され、
切々と心中を訴える長い書状をしたためるところでこの回は終わっている。

弁慶との堅い絆も痛いほど伝わり
芸術的ともいえる昭和41年版のドラマの高い水準に
あらためて驚嘆した。

興奮!してしまい、長々と失礼いたしました。

主な配役は前回の記事■昭和41年版「源義経」第一部に書いてあります。

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昭和41年版「源義経」(第一部)

2005年08月11日 | ★ぐっとくる時代劇
昭和41年に放送された大河ドラマ
「源義経・第一部」を見た。

総集編なのでナレーションが入った
駆け足のドラマだが、たいへん面白かった!

武満徹の音楽(尺八、琵琶の音が印象的)
が物語を格調高く彩っている。
白黒。

頼朝と義経の
初対面の場面から、壇ノ浦の戦いまでを描く。

初めて兄に会う喜びを
全身で表す義経に対し、
頼朝は厳しい面持ち。

兄上のためにお役にたちたい!とはやる義経に
頼朝は
「合戦の下知する(命令する)は頼朝ぞ!」と弟を威嚇。

兄というよりは大将。弟をあくまで
家来のひとりと扱っていて
すでに二人の間には見えない溝があるように伺えた。
家来たちもそのことを察し案じる台詞がある。

義経はからだから香気がほとばしるようだ。
純粋で曇りのないまなざしが
悲しく美しい。

弁慶との出会い、清盛、藤原氏の話は
回想形式でさ~っと描かれていた。
五条の大橋、緒方拳の太刀さばき(メイクも)すごいです。

頼朝が京に向かう義経に
「朝廷には礼を尽くすように。
だが、法皇様に決して心までは許すでないぞ。」と言い含める場面の後、
「あの正直さでは法皇さまや側近たちに思うままあしらわれるであろうなあ。」と
真正直な義経を案じていたのも印象的。

とてもいかめしく、百戦錬磨の天才政治家といった風情の頼朝。

一の谷の合戦では
義経方から見た
平家の陣のカメラアングルはほとんど同じだが
その後の逆落としの場面では
カメラを思い切りぐ~~っと引き、
怒涛のように急斜面を
下りる馬を映し出していた。

迫力ある画面に息を呑んだ。
砂煙を舞い上がらせ、まるで雪崩のように駆け降りていた!

海辺での戦いもカメラが縦横無尽に動き回り
躍動感あるリアルな戦闘。
目の前で戦っているようだ。
打ち寄せる波の元で撮影され、たいへん臨場感があった。

立派な最後を遂げた齢16歳の平敦盛のエピソード、
浜辺で、亡くなった平家方の武将の供養をする義経。
砂浜に立つ卒塔婆。

戦いシーンのエンターテイメント性もさることながら
その後の無常観を表現して秀逸。

このような精神性、武将の在り方、
心の深みまで踏み込んだ表現こそが
時代劇を見る楽しみでもあったのだと気づかされた。

「一の谷」に増して驚いたのは
壇ノ浦の場面なのですが、

それはまた後で書きます。

作:村上元三
音楽:武満徹
制作:合川明
演出:吉田直哉

義経:尾上菊之助(現菊五郎・人間国宝)
頼朝:芥川比呂志
政子:大塚道子
大江広元:北村和夫
静御前:藤純子
弁慶:緒方拳
喜三太:常田富士男
伊勢三郎:田中春男
駿河次郎:尾上菊蔵
佐藤継信:岩井半四郎
佐藤忠信:青山良彦

金売り吉次:加東大介
梶原景時:中村歌門
常盤:山田五十鈴
藤原秀衡:滝沢修

平清盛:辰巳柳太郎
能登守教経:山口崇
平知盛:中村富十郎(人間国宝)
平敦盛:舟木一夫

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フジ「怪談」百物語スペシャル

2005年08月03日 | ★TV番組
フジテレビの夏の風物詩「怪談」スペシャル。
「女」の情念を
テーマにすえた怪談4話。

古典をベースにしているので
オチは最初から想像がついたが
派手なSFXも控えられ、
オーソドックスな作り方で
各話とも俳優の好演が光って楽しめた。

■「鬼婆」 脚本:冨岡淳広 / 演出:河毛俊作
安達が原がモチーフ。
旅人を襲う物の怪女と下女。

「開かずの扉」はいつでも好奇心をそそる。
一晩の宿を借りる悪そうな男女が「欲」に目がくらみ、墓穴を掘っていく。
「永遠に美しくありたい」女と不気味な老婆。

女が肝を吸って若く変身→醜い物の怪に変身するさまに
SFX技術が生かされていた。
特殊メイクではないが浅野ゆう子の白塗りは怖い。
菅井きん健在!

山本太郎の悪党開き直りの啖呵もよかったが
野波麻帆(大奥第一章のお夏ちゃん)の死に顔が人形のようで◎。

■「座敷童子」 脚本:渡邉睦月 / 演出:樋口 徹

悪女の櫻井淳子(マツケン忠臣蔵で阿久里)がひとりダントツだった。
特に最後、簪の演出がすごい!

どんどんどんと走り回る座敷童子は「呪怨」を思い出した。

■「契り」 脚本:中瀬理香 / 演出:山下智彦

臨終の際、私が死んでも再婚するなと言い残す妻。
さらに亡骸は庭に埋めてくれという。
夫は契りとして身につけていた鈴を妻に握らせる。

だが夫はたった2年後には可愛い女(石原さとみ)と再婚して
あの世の妻は怒り心頭。

化けて出てきた。

すったもんだの修羅場の挙句、
夫と新妻を哀しくみつめ去っていく亡霊だったが
それでもなお捨て台詞して
墓に消えていくしつこさに感嘆。
とことん業が深い女なのだった。

「剣客商売」でお馴染み山口馬木也の裃が似合う侍顔と
亡霊におびえる石原さとみの可憐さが魅せてくれた。

■「化猫」 脚本:十川誠志 / 演出:林 徹

トリを飾ったのは「化け猫がらみの四谷怪談」という趣向の物語。
なんといっても
仕官のためいいなずけのおみつ(内山理名)を捨てる
慎三郎(寺脇康文)の狂気が素晴らしかった。

いきなり乱心する様や、猫を見る目など、
新たな伊右衛門の到来か?と思わせるくらいの凄みがあった。
内山理名もいちずな女と亡霊を熱演していて
好感度アップ。猫の飛びかかり方も秀逸!

竹中直人、長屋の連中が合間に笑わせてくれ
「鬼平」スペシャルで活躍した床嶋佳子が
後味を爽やかに彩った。

女をテーマにしていたが
そういえば幽霊といえば昔から「女」と相場が決まっている。
業が深いからか?執着が強いせいか。ほっといてちょうだい!

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「晩菊」杉村望月細川沢村 in成瀬MOVIE

2005年08月02日 | ★人生色々な映画
ものすごい顔ぶれ。
いずれ劣らぬ役者揃いとは
この映画のためにあるような言葉。

枯れるまでいかず、まだほのかな香りが残る
晩菊な女たち。

いずれも昔はならした芸者だった。

きん(杉村春子)は子供も持たず、
独身で金だけが頼り。
金貸しをして生計を立てている。
こざっぱりした家に聾唖の女中(この人もまた
一言もしゃべらないけどイイ)と二人暮らし。

かつての仲間たちにも金を貸しているが、
取立てはいたってシビア。

杉村春子はこういうドライな役が憎らしいほどよく似合う。
細かい動作や目線も見逃せない。

たまえ(細川ちか子)は旅館で働いている。
一人息子だけが生きがい。

私はこの人が大好きで、出演作を色々みたいと思っていた矢先だった。
年をとっても艶っぽく、
凄艶とも言える美貌はずっとながめていてもあきない。
加えて堂々たる演技!

そしてたまえと一緒に暮らすとみ(望月優子)は
雑役婦をしながら競輪やパチンコで金を稼ぎ
時々ひとり娘(有馬稲子)にも金をせびりに行くていたらく。

沢村貞子が居酒屋のおかみさん役で
一番おとなしい役どころ。
さらりと嫌味が無いのはさすが。

原作は林芙美子。

脚色がさすらい日乗さんによると
「反男性主義」の田中澄江。
なるほどこの映画の中の男性は、
たくましい女たちと比べ、徹底的にみすぼらしくしょぼくれている。

かつて心中しそこなった相手が尋ねてきても
門前払いをくわせるきんだったが
一番好きだった色男(上原謙)が尋ねてくると
娘のようにはしゃぎ、もてなす。

このシーンが面白い。

最初は浮かれていたのに、「この人いったい何しにきたのかしら」
と次第に疑い出して
酔っ払った上原が金を貸してくれと言うやいなや、
「まったく!うかうか酔っ払っていられないわ」と、
男が厠に立った隙に
大事にしまっていた若かりし頃の上原の写真を
火鉢でめらめら燃やしてしまうのだった!!(ガクゼン!)

この辛らつさ。可笑しさ。

また望月優子と細川ちか子の
飲みながらの「母親ぐち」も聞きもの。

望月優子の台詞まわしとだらだらした姿に圧倒された。
愛嬌と可愛さとだらしなさと哀しさと
可笑しさがごちゃごちゃに入り混じって、
このひとやっぱりすごいわあ。

細川ちか子もさすがの受けと、
誰にも一歩もひかない芝居で大女優の貫禄を感じさせる。
超美人ですしね。

海千山千、酸いも甘いも噛み分けたように見えても
少女のような弱さや可愛らしさや
脆さも併せ持つ熟年の女たち。

ラストもまた忘れられない開放感。

こんな物語を撮る成瀬監督もまた、
前世は女だったとしか思えないなあ。面白かった。

DVD化 激しく求む!

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成瀬巳喜男監督作品 原作 林芙美子 脚色 田中澄江 井手俊郎 美術 中古智