俺はフリーターだ。
もう20代の後半に入り、そろそろ定職に就かなきゃ不味いよなぁ、なんて思いながら、ビルの警備員のバイトをしている。
そんな風に働いている訳だが、最近同僚から妙な話を聞いた。
なんでも…
「幽霊が出るらしいぜ」
「は?」
「だから、幽霊。
3階の誰もいない筈の女子トイレから水音とか泣き声が聞こえてくるらしいよ」
「へ~…で?」
「で?って…後は特に何も無いけど」
「ハッ!怖い話したいなら落ちもつけとけよ。2・5点」
と、女子トイレに幽霊が出るらしい。
その話を聞いてからそのトイレに行ってみたが、特に何も聞こえなかった。
今夜はまたバイトで、嫌が上にもそのトイレの前を通る訳だが…
カツカツカツ
セキュリティの確認や人の有無の確認をしつつ、見回りをして、件のトイレに近づいていた。
信じていなかったのもあり、ほとんど噂の存在を忘れていたのだが、そのトイレの前を通った時…
ジャァァァー
水を流す音が聞こえた。
「誰かいるんですか?」
瞬時に噂を思い出したが、人がいるなら何も言わない訳にはいかないので、声をかけた。
……
返事は無い。
「失礼します。」
躊躇せずに入り口の扉を開けると…
パタン…
一番奥の個室の扉が閉まった。
トントントン
「すいませ~ん。もう閉めたいのですが…」
ノックをすると、扉は抵抗なく開いた。
中に入り、見回してみる。
不審な点は無い。
「本当に幽霊なのか…」
苦笑しながらそんなことを呟く。
そうなると…
『ふと上を見ると天井から長い髪が垂れ下がり、その隙間から2つの暗い井戸の底のような眼がこちらを見ていた』
っていうのがパターンかと思い、上を照らしたが…
何もなかった。
(まぁいいや。明日あいつに会ったら、少し脚色して話してやるか…)
そんなことを考えながら、扉を引いた…