3月17日、木曜日、16:00。
急激な冷え込みによる電力量の消費アップに伴い、政府が交通機関に運転本数を減らすように要請。
大規模停電を行う予定という突然の記者会見があり、
東京都の各交通機関の駅はまた電車が止まって帰れなくなるのではないかという不安を抱えた人たちで、ごったがえしはじめた。
これはまずい!と、17時にダッシュで駅へ向かったが、
総武線のホームは既に溢れんばかりの人。
そうでなくても70%の運転本数。
さらにその本数が減り、
やっとホームに入ってきた電車のガラスには、
押し付けられてひしめきあっている人々の顔。
押し出されるというより、はじき出されるように降りた人たちの隙間に何とかして乗り込もうとする人たち。
喧嘩ではないけれど、まるで喧嘩のような押し合いが続く。
もう歩いて家に帰りたくない、会社に泊まりたくない、帰宅難民になりたくない。
みんな帰りたいという気持ちは一緒。
何本か待ち、やっと電車に乗り込んでも、
圧死するんじゃないかというぐらいのすし詰め状態。
殺伐とした空気が車内に漂っている。
い、痛い、、、、
く、、、苦しい、、、
ううううっと言ううなり声。
降りるにも降りられない。
乗るにも乗れないようなすし詰め状態の中、
とある駅が近づいた時に、女性の声が聞こえてきた。
『すみません、私、こんなことになるとは思わず、箱入りのドーナツを買ってしまいました。
私もドーナツもみなさんのお邪魔にならないように降りたいと思っています、、
、、
どうか、どうかよろしくお願いします。』
女性の声に、車内の空気が、、、
こ、こんな状況でド、ドーナッツ??
くすっという笑い声が聞こえてきた。
『おーーい、ドーナツを出すぞーー、背の高い人、頼む!』という男性の声。
車内の真ん中あたりから、○リスピードーナツの箱と思われる箱が、
何人かの人の手を借りて頭上を運ばれていく。、
運ばれていく箱を見上げながら、
はははは、、、、、車内に笑いが生まれていた。
ドーナツの箱は無事に車外へ。
きっとこんなことになる前に新宿で買って、座っていたのだろう。
もみくちゃになって、車内にドーナツがばら撒かれてしまうのも、
大変なことだ。
その後もすし詰め状態は続いて苦しかったけど、
私も降ります!お願いします!という声があがって、
良し、押してやるぞ!という声もあったり、
ドーナツの箱の救出作戦で車内の空気が和んだのは確かだった。
○リスピードーナツよ、食べる以上に素晴らしい働きであった。
落ち着いたら、買いに行って食べることにするぞよ。