ムスカ大佐(夫)は学生時代の10年間、ずっとペンドラだった。
ペンドラとはペンタイプのラケットでドライブを主軸に戦う戦型で、
40年くらい前までは主流だったらしい。
私が大学で卓球を始めた時には「今からはじめるならシェイク」と言われた。
息子に卓球を教えようと思った時、大佐は自分もシェイクに変えた。
ペンはフォアで攻撃をして、バックハンドで守る。
でもシェイクは両ハンドで攻撃できるから、バックハンドは使いこなせば得点源になる。
攻め抜くのが信条の大佐は勝つ可能性を広げるためにシェイクに転向して
更なる攻撃力をつけようと思ったのかな。
進化したかったのかも。
で、転向したものの、大佐はシェイクが思うように扱えなかった。
10年脳に刻み込んできたスタイルが新しい動きの邪魔をするのだ。
練習量も足りてないし体重も増やしてしまって思うように動けない大佐は
5月の大会が近づくにつれ焦り、自分を追い込んでしまっていた。
更に、ペンだと出しやすいサーブが、シェイクでは出しにくいのだそうで
一度静止して、球を垂直に16㎝上げ、
インパクトの瞬間を相手に見えるように出すというルールを守ろうとすると
サーブが全く出せなくなった。
練習を始めたばかりの子どものようだった。
大会の1週間前のGWの終わりに、大佐は突然宣言した。
「オレ、中ペンに転向する」と。
中ペンとは中国式ペンのことで、シェイクのような形のラケットをペン持ちして、
なのに振りはシェイクの振りをするという、
ちょっと何言ってるのかわからないかもしれないけど、
そういう特殊なタイプのラケットだ。
そして言い出してから1時間後には店に行って衝動買いしてしまった、
なんの知識もないのに中ペンラケットを!2万円も出して!
使いこなせるわけないのに!
でも選択肢がひとつ増え、逃げ道を用意できたことで
結果、大佐の心は少しだけ落ち着いた。
「シェイクがダメでも中ペンがあるさ」なのか
「いや~自分中ペンに転向したばかりなもので」の言い訳用なのか
中ペンに見果てぬ夢を見たかったのかわからないけど
この中ペンという現実逃避は確かに大佐の精神安定剤となり
結局大会にはシェイクで出場して(そりゃそうさ)、奇跡を起こしたのだった。
今家には一度も使われていない中ペンが静かに眠っている。
これは冷静に考えればムダ以外のなにものでもない行為でも
時には仕方ないのかもしれないな、バカバカしいけど!という実例であって、
大佐の愚行を知らしめるための私の意地悪投稿ではありませーん。